2013
02.24

COIN TOSS

Which? Eat or Drink?


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前に書いたように、オムライスにもいろいろある。
洋食屋のオムライス、喫茶店のオムライス、チェーン店のオムライス。
そして、バーのオムライス。
さて、バーのオムライスって、どんななのだろう……。

ということで、この日は大和駅のすぐそばにあるCafe&Barコイントスを訪問。
営業時間は19:00~翌朝4:00。
開始の19:00に合わせて店に行く。
ドアを開けて中に……あれ???
どういうこと?
ドアがない……。
中の様子はわかるのだけれど入り口がわからない。

一瞬とまどう。
が、すぐに発見!
な~んだ、壁かと思ったら、そこが入り口だった。
よかったあ。
このままうろうろしていたら、ボケor不審者だ。

間口はそんな広くないけれど、開放的な作りと奥行きが広さを感じさせる。
そして、大型の液晶と、サインやらフラッグやら壁に飾られた数々のサッカー関係グッズ。
いやがおうでも気分が高揚する。
う~ん、これは代表戦のときなんか「さあ、盛り上がってください」と言わんばかりだね。

さて、オムライスはどこかな……。
写真が盛りだくさんのメニューをめくる。

おー、バーだけあってメニューのトップを飾るのは様々な種類のドリンク。
先ずはワールドカップのように並ぶ各国のビール。日本代表はキリン。
ちなみに、この日も当然の如くビール(黒生)を頼んでしまった……。
それから焼酎、ウイスキー。
ウイスキーは数々のスコッチ、バーボン。
カクテルにワイン。
「ワインには、マンU公式ワイン。飲んで香川選手を応援しよう」なんていうのや、「イニエスタコラソンロコ。FCバルセロナのイニエスタが所有するワイナリーのワイン。コラソンロコは熱狂的な心の意味」なんていうのもある。

そんな中、メニューの中ほどのページにオムライス1,000円を発見。
チキンライスにふわふわタマゴ、デミグラスソースの文字。
さて、どんなオムライスなんだろう。
写真はないので、返ってわくわく。
期待が膨らむ。

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オムライスのできあがりまで黒生をゆっくりと飲む。
やがて、デミグラスソースがたっぷりとかかったオムライスが到着。
おー、美味そう!
色の派手さはないオーソドックスな見た目。
だけど自然と「美味しそう」という言葉が口をついた。
実際のお味はいかがでしょう……。

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う~ん、美味しいじゃん!
酒に負けないように、味は濃い目。
おつまみとしても成り立つ味だ。
ちょっとご飯が柔らかい感じ。
だけどチキンの食感がよく、また卵とソースとの相性もよい。
味が濃いと、チキンライスのケチャップとデミグラスソースが主張し合ってまとまりがつかなくなるのではと思いきや、そういうことはなく、お互いがお互いを引き立てている。
うん、これは酒がすすむなあ……。
ボリュームは普通かな。
でも、いろいろとおつまみを食べることを踏まえると充分だと思う。

この店は夫婦でやっているのかな?
気さくな奥さんが料理やお酒を運んできて聞かれた。
「ブログやってるんですか?」
「あ、ブログじゃないんですけど、オムライスが好きでレポート書いてます」
「オムライスマニアですか!!」
マ、マニア……。
マニアではなくファン位だと思うんだけど、まあ、似たようなモノかもしれない。
お客さんは男性が多いらしい。
なので、夜食感覚で結構食べるのだろう。

ホント、お酒もいいのがあるし、料理はご飯もおつまみもとても美味しい。
(オムライスの後、スコッチとおつまみでのんびりしちゃいましたよ……)。
これで代表戦の勝ち試合をみんなで盛り上がって見られたら、最高に幸せな時間を過ごせるんだろうなあ……。

2013年2月9日

■ 店舗情報 ■
・住所:神奈川県大和市大和南1丁目4-12 大塚ビル1F
・電話:046-262-1554
・営業時間:19:00~4:00
・定休日:木曜日(1/1~1/3は休業)


Heads or Tails?

「お疲れ!カンパ~イ!」
 Cafe & Bar COIN TOSSのテーブル席に着いた正樹と美穂は、はじける笑顔でビールのグラスを重ねた。
「いやー、準優勝は嬉しいけど、でも悔しいよなあ」
 半分ほど一気に飲んだ正樹が唇をかむ。
「でも、私ラケットバックなんかよりもウェアの方がほしかったから、よかったわ」
 慰めか本気か、弟をなだめるお姉さんのような美穂の目が、正樹の顔を覗き込む。
「それはよかった。でもさあ……」苦笑いの正樹が続ける。
「あのスマッシュミスはホント恥ずかしいよ。肝心なときに空振りなんてさ……」
「しょうがないじゃない、太陽が目に入っちゃったんだから」
「いやあ、ジュニアのときにコーチに言われてたんだ。いいか、晴れた日にコイントスで勝ったら4-4のときに太陽が背になるようにコートを選べって。なのに、すっかり忘れてて、せっかく選択権がとれたのにサーブ権をとっちゃって。まあ、まさか本当に4-4でそんな場面に遭遇するなんて思ってもいなかったけどね……」
「いいのいいの、ポジティブ、ポジティブ。『ダブルフォルトしない、じゃなくて、ファーストを入れるだよね』」
 お通しを箸でつまみながら、おどけた表情の美穂が正樹の口まねをしながら笑う。

 正樹と美穂が町田のテニススクールで知り合ったのは5ヶ月ほど前のことだ。
 お互いレベルも同じようで、その上なぜか初めて会ったきから不思議とリラックスして話ができ、美穂の積極的な誘いもあってすぐにミックスダブルスを組むようになっていた。

「だってさあ、準優勝2回とベスト4が3回。7大会出てこれって、すごくない?」
「それはすごいって思うよ。でも逆に言うと、5回もベスト4以上に行っているのにまだ一度も優勝できないなんてさあ。あー、今日はチャンスだったのになあ。ごめんね……」
正樹は残りのビールを飲み干し、同じものをもう一杯注文した。
「う~ん」
 遠くに目をやりながら美穂がつぶやく。
「そこなんじゃないかなあ……」
「え?何が?」

 土曜日の夕飯時だが、店内はまだすいており、ふたり以外に客はいない。ひと呼吸おいて美穂が続けた。

「あなたの弱さ。遠慮なくずばり言うけど。まだジュニアのときのトラウマを引きずってるでしょ」
「そうかな……。そう、思う?……」
 出来たてのカマンベールチーズ揚げを口に放り込むと、正樹は右手で鼻をこすった。困惑した正樹が無意識のうちにする仕草だ。
「うん。そう思う。でも、あなたはあなたなんだし、どこかでふっきってチャレンジしないといけないと思うし、あなたならできると思うわ……」

 準優勝が5回、ベスト4が3回。
 小学3年から中学3年まで、大きなテニスクラブのジュニア育成チームに所属していたときの正樹の成績だ。

 優秀な選手が集まる所属チームの中で、正樹の成績は決して誇れるものではなかった。
 そんな正樹に父親の怒号が飛んだ。
「なんでそんな簡単なミスをするんだ。自分から負けに行っているようなものじゃないか。お前には勝ちたい気持ちが全く見えない。テニスは相手にエースを決められても自分がミスしても同じ1ポイントなんだぞ。自分からミスするバカがどこにいるか。よくそんなんでプロになりたいなんて言うよな。よし、今から家まで走って帰れ」

 人間は成長する。プラス方向にも、そして残念ながらマイナス方向にも。
 父親の怒号のおかげでミスは格段に減り、そこそこの成績を残せるようにはなった。
 が、しかし、その大きな代償として、いつしか正樹はミスを恐れる人間になっていた。
 肝心なときに、ミスをしてはいけない恐怖心が体を固くさせる。
 この呪縛からのがれられない。いや、のがれようとすればするほど逆の結果に陥ってしまう……。

「中学3年の夏までに公式戦で優勝できなかったら、この先の望みはないからテニスはやめよう」
 父親とのそんな約束に従い、正樹は中学3年の途中でテニスチームを離れた。
 それから7年。5ヶ月前にふと、もう一度テニスやりたいな。しかも今度は楽しいテニスを。そう思ってスクールに通い出すまでは、正樹は一切テニスに触れようとはしなかった。

「ねえねえ、見て見て、オムライスがあるよ!」
 スクリーンに映るミュージックビデオにぼんやりと目をやっていた正樹の肩を、宝物をみつけたような表情の美穂が叩く。
「オムライス?」
「うん、頼もう!どっちもオムライス好きじゃん!いっぱい飲んで、いっぱい食べよ」
 正樹を見つめ、いいよね、と首をかしげる美穂。
 その小悪魔的な仕草に、黙ってうなずく正樹。

 そうか……。

 そんな美穂を見て、正樹の第六感が、ピンと反応した。

「ねえ、ミーちゃんさあ、ダブルス組んでて、オレのプレーってどう思う?」
「そうねえ……。よく言えば正確。悪く言うとマシンみたい。なんか、ボールに気迫がないと言うか、魂がこもっていないと言うか……。マーくんは自分の可能性を自分で仕舞い込んじゃっている気がする。大きな可能性を持っているのに。きっとジュニアのときも、ちょっと考え方を変えていたらすごい選手になっていたと思うなあ……。でもそれは過去の話だし。生きているのは今だし……。それと……。あ、すみませ~ん、オムライスふたつください!」
 美穂は明るく手を挙げると、話を続けた。
「それと……」
「それと?」
「何て言うのかなあ、なんか、プレッシャーがかかる肝心なところになると、萎縮して周りが見えなくなっちゃうって言うのかなあ。ほら、テニスって対戦相手がいるでしょ。ダブルスだったらパートナーもいる。マーくんはそれが見えなくなっちゃって、ひとりでミスしないことだけに必死になっちゃうの」

 ドンマイ、気にしない気にしない。次のポイントとって行こう!
 大丈夫、今日のマーくんは調子いいから!
 試合では、いつも美穂が励ましてくれる。

 3つ年上だから。
 そんなことを理由に当たり前だと思っていたけど、それだけではない。
 一見自分勝手で奔放な言動に隠れて全然気がつかなかったけど、彼女はいつもボクの動きを見ていてくれている。いや、動きだけじゃない。ボクの心理状態も、打ち破るべきボクの壁も……。

 やがて、デミグラスソースがたっぷりとかかったオムライスが運ばれてきた。

「美味しそう!マーくん、この店のメニューにオムライスがあるなんて思いもよらなかったでしょ」
 スプーンを利き手の左手でぶらぶらさせながら美穂が言う。
「周りを見ずに凝り固まった判断でものごとを決めつけちゃう。だから冒険もできない……」
 美穂の言葉を受け、正樹が自虐的につぶやく。
「そのくせ優勝には人一倍こだわっちゃう。どこかで勇気を出して冒険しないと優勝なんてできないのに……」
 小悪魔の目が追い打ちをかける。

 ミュージックビデオの音が壁に吸い込まれていく。

 静寂が時を刻む。
 黙々とオムライスを食べるふたり。

 黙々と、黙々と……。

 やがて、小悪魔が、口を開いた。

「ねえ、私にかけてみない。私ならできるわ。本当のあなたを引き出してあげる」
 正樹は食べる手を止め、自信にみなぎる美穂に目を向けた。

 何もかもが吸い込まれていく。
 過去も、未来も、今も、……。

「私のカンだと、私たちもうすぐ優勝できるような気がするの。しかも、大きな大会で」

 自分の気持ちに正直になりなさい。
 肝心なときこそ、自分の中に閉じこもらないで相手を見なさい。
 小悪魔の目が、そう言っている。

 もしかしたら、彼女は運命の女性(ひと)なのかもしれない。
 なんで、何の気なしにもう一度テニスをやろうって思ったのだろう……。
 そこで、なんで彼女に出会ったのだろう……。
 神の見えざる手?

 テニスでは今まで何度もやり過ごしていたチャンスボールが、今、自分の目の前に来ているのかもしれない。

 この出会いは、本物なのか、にせものなのか。

 素直に自分を出しなさい。
 あなたのことは、あなたの心が決めるの。
 自分を信じれば、きっとあなたが望む結果が訪れるわ。
 さあ、決めるのはあなたよ。

 小悪魔のささやきが、正樹の心の中を自由に泳ぎ回る。
 そしてそのささやきは、正樹の心のシグナルを青色に変えた。

「ミーちゃん、お願いがあるんだ」
 笑みをたたえた美穂の目が、なんでもどうぞ、と言っている。
「コイントスしてくれる。オレ、それを当てるから。で、当たったら、オレの願いをきいてほしい」

 コートにいるときのような、真剣なふたりの目が交錯する。

「うん、わかった」
 美穂は、まるでこの時が来ることを予測して、待ってましたとばかりにそう言うと、財布から百円硬貨を取り出した。

「勝負は1回よ」

 さあ、相手の動きを見るのよ。
 そして、自分は勝つって信じるの。
 美穂の心の声が、正樹の中でこだまする……。

 美穂は、硬貨を、左手の親指で高々とはじいた。

 照明の光を浴びてキラキラと光ながら、明日を乗せた銀色がゆっくりと宙を舞う。

 Heads or Tails?

 さあ、どっちだ……。

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2013
02.24

ポポロ

隠れ家的秘密基地的飲んで食べれる洋食屋 


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善行に歴史のある洋食屋があるのは、なんとなく知っていた。
しかし、この近辺ではどうしても栄えている湘南台と藤沢に目がいってしまい、間にある善行には全く注目しておらず、Out of 眼中、すっかり忘れ去っていた。
が、片瀬江ノ島行きの小田急線に乗っていて、ふと、思い出した。
あ、そういえば、善行に洋食屋さんがあったよなあ……。
さっそく、「善行 洋食屋」でググってみた。
おー、あった、あった。ポポロって言うんだ……。オムライスあるかなあ?
店のホームページを開き、キャッチコピーを確認。
“洋食屋さんの美味しいハンバーグ・オムライス・ドリアをどうぞ”
おーーーーー、オムライス、売りじゃ~ん!

ということでそのまま善行へ直行。
小ぢんまりとした店だけど、駅のすぐそばなのですぐにわかる。
店の前には「Restaurant & Pub 飲んで食べれる」と書いた木の看板。
ほー、飲みも売りなんだあ……なんて思いながら薄暗い店内を覗き込みながらドアを開ける。
と、黒塗りの2人がけのテーブルが5卓程度とカウンター席の、まるでバーのような雰囲気が目の前に広がる。
なんか、水割りと乾き物、それにグラスに入れたポッキー、タイトスカートをはいたチーママとかが出てきそうな雰囲気……。
しかーし、しかーしである。店内には堂々と、「人気のオムライス」の張り紙が。
はいはいわかってます、もちろん、注文しますよ~、その人気のオムライスを。
「すみません、オムライスと生ビールをください」
あれ?生ビール?
今、生ビールって言ったよなあ、オレ……。
頭の中はすっかり「飲める店」になっていて、赤信号が青になったら反射的に横断歩道を渡るのと同じような当たり前の感覚でビールを頼んでしまった。

待っている間に店内を眺める。
お客さんは他に夫婦らしき男女がひと組。
この暗さと狭さが、妙に落ち着く。
守られているような、秘密基地にいるような、そんな雰囲気。
体内回帰願望かなあ……?

さてメニューは。ん?下の方を見ると何やら絵が描いてある。
ポポロくん?すげー!キャラクターがいる(蚊取線香じゃあないですよ)!

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そうこうしているうちにオムライスが到着。
オムライスは、ポポロ風オムライス850円と、シーフードオムライス1,100円の2種類。
ポポロ風オムライスはチキンライスにデミグラスソース。シーフードオムライスは中のご飯がドライカレー。
ともにスープ、サラダ付きなのでお得感がある。今回注文したのはポポロ風オムライス。

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さてさていかに……。
おー、見た目色鮮やか!
卵の黄色、デミグラスソースの茶色、トマトの赤、レタスや豆の緑……。
目で楽しませてくれる。
味はどうだろう……。

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あ、やばい!
ビールを飲んじゃって味が……。

このとき思った。
オムライスの味って、繊細なんだなあって。
当たり前でつまみを食べながらビールを飲むけど、オムライスって、飲んじゃうと卵とソースとケチャップライスの融合の微妙な感じがわからなくなっちゃう気がした。
で、改めて、デミグラスソースとケチャップの微妙なバランスが大切なんだなあって思った。

とりあえず、サラダと水で口直しをして実食。
うん、味もよいよ~。
1週間寝かせるというソースはもちろん、チキンライスもとても美味しい。
いろいろな味といろいろな食感を楽しめる。
ボリュームも多いし、更にボリュームをという方には大盛1,000円もある。

ポポロは1973年、善行に「グラタンハウスポポロ」としてオープン。
開業以来40年近く、こだわりの味を提供し続けている。
「ポポロってどいう意味なんですか?」とご主人に尋ねたら、イタリアのローマにある広場の名前で、「いつでも皆さんが集まれる憩いの空間を」との思いでつけられたとのこと。
またよろしくお願いしま~す!
今度はゆっくりと飲みに来ようかな……。

2013年2月2日

■ 店舗情報 ■
・住所:神奈川県藤沢市善行7-5-4
・電話:0466-82-7903
・営業時間:【ランチ】11:30~14:30 【ディナー】17:30~22:00 
・定休日:火曜日

ポポロ 食べログ情報 

ポポロオムライス / 善行駅

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怒られ屋

「はい、大丈夫です。……。今回の件を反省して、次回の納品のときはくれぐれも気をつけてくれとのことです。……。そうですね、最後はにこやかな表情でしたので問題ないと思います。……。では今日はこれで直帰します。……。お疲れ様でした。……。はい、失礼します」

 上司への報告の電話を切ると、美喜男はメニューを片手に「Restaurant & Pub ポポロ」と書かれた窓の外に目をやった。
 天気予報に反して突然降り出した横殴りの雨が、4月の夕方を飲み込んでいる。
 この分だと、しばらくはやみそうにないな。
 みんなとのこの店での約束の時間には、まだ1時間以上ある。何も考えずに入っちゃったけど、豪雨の中を歩き回る気にもなれないし、先に軽く飲んでようかな……。
 そう思った途端、仕事の緊張感から解き放たれた。

 ビールを注文し、三分の一ほど一気に飲み干す。
 と、同時に、最近口癖になっているいつもの言葉が、無意識のうちに口をつく。

 あー、疲れた。

 ビールを片手に、美喜男の目はぼんやりと宙を泳ぐ。

 あー、疲れた……。……。

 ため息のシャボン玉が、リフレインの列を作ってふわふわと飛んで行く。

“いやー、本当に君がいて助かるよ……”
“突然で悪いんだけど、すぐに対応に行ってほしいんだ……”
“お願い!どうにかならないかなあ……”
“悪いとは思っているんだけどさ……”

 上司や同僚の声を乗せたシャボン玉が、浮かんでは消える。

 怒られ屋のミッキー。
 それが社内で美喜男についたニックネームだ。
 どんなに怒っているお客でも、最後は円満に収めてしまう。
その不思議な手腕を上司に買われ、クレームやトラブルが発生するとお呼びがかかる。営業の総括職なので、職務と言えばそれまでだが、そんな役割が定着するとさすがに自分の価値というものがわからなくなってくる。
 おまけに、あまり下が入って来ない環境のせいか、入社以来もう10年も若手扱いされている。
 確かに童顔で草食系のイメージがあり、頼まれれば断れない性格であると自分でも思う。人を蹴落としてまでも上に行きたいとも思わないし、喧嘩をせず下手に出て、にこやかに生きていくのが性にあっているのかもしれない。
 だけど、それでいいのだろうか?
 競争社会に取り残され、男の威厳がないまま年を重ねる。
 怒られ屋なんて呼ばれて、たとえそれがいい意味で言われているとしても何も嬉しくはないし、便利屋かパシリ以外の何者でもないではないか……。
 あー、疲れた。
 こんな人生で満足か?
 とは言え、だからと言って何ができるわけでもない。
 何なんだこのオレは……。

 軽く飲むはずのビールが、4杯目からは焼酎のロックになり、やがてバーボンになった。

 そうだ、いい機会じゃないか。
 みんなが来たら言ってやろう。何が怒られ屋だ。
 オレはそんなことをするために生きてんじゃねえよ。
 そうだよ、今日言えばいいんだよ。
 そうだよ……。
 そうだよ……。
 ……。

 そんなつぶやきは、いつの間にか寝息に変わっていた。

 それからどれくらい経ったのだろう。

「松下さん……。松下美喜男さん」
 呼びかける男の声がする。
 ボーッとする頭で、声に反応する。
「……はい」
「まだ宴会が始まる前だと言うのに、随分と飲んでいますね」
 声の主は、しょうもない人ですねといった口調で話を続けた。
「どうしたんですか一体。だいぶお疲れのようで」
 美喜男は焦点が合わない目で、顔をあげた。
 見ず知らずの、美喜男と同年輩くらいと思われる男の姿が目の前に現れた。
 ぼんやりとした視界の先にある顔は、美喜男に勝るとも劣らぬおとなしそうな童顔で、柔和な笑みを浮かべている。
 誰だっけ?
 美喜男は記憶の糸を手繰る。
 全く思い出せない……。
 知っているふりをして、あっ、久しぶり、なんてしらじらしい演技は自分にはできない。
「すみません、ちょっと記憶が不確かで……、どちら様でしたっけ?」
「あ、全然気にしないでください。そうですよね、覚えていらっしゃらないでしょう。お会いしたのは、なにせまだ幼少の頃ですし」
 男は笑みをたたえたまま続けた。
「申し遅れました。ヒジカタタイガと言います。名前負け、してますよね」

 名前を聞いてもとんと思い出せないのだが、美喜男の嗅覚は、ヒジカタタイガと名乗るその男にどことなく自分と似た匂いを感じとった。
 酔いも手伝い、すぐさま意気投合した様子で男の話に耳を傾ける。
 どうやら、彼も会社でいいように使われているようだ。
 お互いの社内での話に花が咲く。
「同じです、同じです。そうなんですよね、まったく。面倒なことは全部押し付けですよね」
美喜男が大きく相槌を打つ。
「こんな話で盛り上がれるのは他にないですね」
 笑顔の男が追従する。
 男がトイレに立つまで、そんな会話がしばらく続いた。

 トイレから戻ると、このタイミングを待っていたかのように、男は真面目な顔で美喜男に話し始めた。
「ところで松下さん。僕はそれでもいいと思っているんですよ」
 え、どうして?
 男は続ける。
「何て言うんですかねえ。僕の信念と言うか。戦っていないようで、実はすごく戦っていて……」
 バーボンのグラスにやろうとしていた美喜男の手がとまる。
「そういう自分をボクは褒めてやりたいと思っています。誠実に生きる、誠実に対応するのが僕の信念ですし、ボクの取り柄です。だから、みんながどういうつもりで僕に接しているかなんて全く気になりませんし、どうでもいいんです。会社は利害関係が働く場ですから確かに本当の仲間は作りにくいとは思うのですが、何事にも誠実で、誰に対しても誠実で、自分にも誠実であれば、きっと周りの信用も得られ、いいように使われているように見えても実はとても頼りにされていて、本当の仲間ができるし、そういう人たちを信じたいと。たとえテクニックを磨いても、偽りの心には誰も振り向いてくれないのではないでしょうか……」

 決してそらすことのない堂々とした澄んだ瞳が、じっと美喜男の目を見つめている。
「松下さんも、そうなんじゃないですか。いつも誠実であろうと思うからこそ、決して逃げることなく自分を精一杯ぶつけるからこそ、仕事仲間もお客さんも、みんなが認めてくれる。誠実であり続けるのは大変で立派なことです。そのことに、もっと自信と誇りを持っていいんじゃないですか……」

 誠実であること。何事にも。誰にも。自分にも。そして、仲間を信じる……。

“松下さんも、そうなんじゃないですか”
“もっと、自信と誇りを持っていいんじゃないですか”

 男の言葉が、頭の中で、何度も何度もこだまする。

 誠実、仲間、自分の信念……。

 ……。

「松下さん……。松下美喜男さん」
 呼びかける男の声がする。
「……はい」
 ボーッとする頭で、声に反応する。
「まだ宴会が始まる前だと言うのに、随分と飲んでいますね」
 声の主は、しょうもない人ですねといった口調で言う。
 美喜男は焦点が合わない目で、顔をあげた。
「……ヒジカタさん……」
 寝ぼけ眼で周りに目をやりながら美喜男が言う。
「ヒジカタさん?」
 見ず知らずの……、いや、後輩の山岡の、ちょっと心配そうな表情(かお)が目の前に現れた。

「あ、山岡。いや、ほら、ここに座っていた人、いただろ」
 え?首をかしげ、キョトンとした表情を浮かべ山岡が言う。
「誰もいませんでしたよ。松下さん一人でテーブルに突っ伏して……」
 いやいや、ほら、一緒に飲んでた彼のバーボンのグラスがテーブルの上に、あれ?
「松下さん夢でも見てたんじゃないですか。目を覚まして見てくださいよー」
 山岡に促され見渡すと、店には同じ部署の同僚や先ほど報告の電話をした上司、加えて他部署のメンバーの顔がずらりと並んでいる。
 あれ、今日は3~4人での飲み会じゃなかったっけ……。
「ミッキー、後ろ、後ろ」
 面食らう美喜男に、同僚の吉田が後ろを見ろと促す。

“ミッキー、入社10周年&誕生日おめでとー”

 いつの間にか、美喜男が座っている後ろの壁に横断幕がはられている。
「みんなの意見で、びっくりさせてやろうってことになってな」笑顔の上司が言う。
「オレたちの感謝の気持ち。お前の大好きなオムライスもたくさんあるぞ」吉田が握手を求める。
「松下さんのお祝いだったら、是非私たちも参加させてくださいってお願いしちゃいました」隣の部署の女性社員たちが言う。

 誠実であること。何事にも。誰にも。自分にも。そして、仲間を信じる……。

 彼は誰だったんだろう……。

 ふと、美喜男の頭に忘れかけていた記憶が蘇る。

 ヒジカタタイガ……ヒジカタ? タイガ?

 あっ!

 子供心に好きだった新撰組の土方歳三と、「愛と誠」の太賀誠。
 「誠」の隊旗を掲げ幕府軍に仕えた新撰組。
 その副長として、幕府軍最後の砦五稜郭にて一人敵地に飛び込んだ土方歳三。
優しさゆえに冷徹な鬼となった男は、最期まで仲間を裏切ることなく誠実を貫いた。
 そして、早乙女愛を守るべく命を賭して戦い抜いた太賀誠。
 心優しき悪は、やっと素直になれた最期の瞬間までは、”愛”のために無愛想でつっぱった鎧を着続けた。

「さあさあ、カンパイしよー」仲間の楽しそうな笑顔がはじける。
 そんな笑顔を見ながら、美喜男は思った。
 オレは、鬼になることも無愛想の鎧を着ることもなく誠実な自分を貫けるではないか。
 怒られ屋ミッキー ――そう呼ばれるのは世の中で自分ひとりだけ。何が悪いんだ。

 猛威を振るっていた横殴りの雨はいつしかやみ、晴れ渡る夜空に満月が浮かんでいる。

「カンパーイ!おめでとう、ミッキー!」

 今、美喜男の11年目のスタートが切られた。

 心に、「誠」の確かな一文字を刻み込んで……。

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2013
02.24

RAKERU

素敵なオムライス物語 


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美味しいオムライスを探し求めていて思ったのが、世の中にはかなりいろいろなオムライスがあるということ。
洋食屋のオムライス、喫茶店のオムライス、バーのオムライス、……。
探しても探してもまだまだあって、もしかしてきりがないのでは?
隠れた名店のようなのも見つかるかもしれないし、一体いつになったら日本一が見つかるんだろう……。

そんな中、やはり無視するわけにはいかないのがオムライスを専門とするチェーン店。
たかがチェーン店、されどチェーン店。
洋食屋VS喫茶店VSチェーン店。オムライスに戦いは似合わないし、オムライスには戦う気などないかもしれないけれど、チェーン店だって同じ土俵に上げないといけない。
さてどこにするか?う~ん、やっぱり、歴史があって、お洒落で、美味しいと聞くRAKERUかな。

ということで、この日は「オムライスレストランRAKERU戸塚モディ店」を選択。
仕事帰りに行かれる場所なので、行ったのは月曜日の19時頃。

目的の場所はモディ7階のレストラン街にある。エレベーターを降り、ほどなく発見!
ズラーっとオムライスが並んだショーウィンドウを横目に、レストラン街の一角にある店内に。

おー、かわいい&牧歌的!

何がって?
もう、店全体がそういう雰囲気。
壁の模様、壁にある絵画、アリスの世界やピーターラビットが描かれた入れ物、赤い表紙のメニュー、赤白チェックのテーブルクロス、同じく赤白チェックのレイチェルドレスを身にまとった店員さん、その店員さんがもって来てくれた水の入ったボトル……。

さあ、RAKERU物語のはじまりはじまりといったカンジ。

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そんな序章を読み終え、本編を読み進めるべくメニューを拝見。
メニューにはたくさんの種類のオムライスが並んでいる。
ヨード卵光&ドライカレーのオムライスには、ハンバーグオムライスデミグラスソース添え966円、餅もちチーズのオムライス861円、森のきのこのデミグラスソースオムライス924円がある。
王道を行くならチキンライスのプレミアムオムライス924円。
とろとろ系なら、とろーり卵のデミグラスハンバーグオムライス924円、ラケル特製煮込みソースのオムライス819円 ( 後で店員さんに聞いたら、このふたつが人気だとのこと )。
その他、売りのラケルパンやじゃがいも等とのセットや、おこげのごはんのオムライス等々、数多くある。

さて何にしようか?
名前だけ聞かされて「さあ、どれにしますか?」って選択を迫られたら迷うかもしれないけど、ショーウィンドウを見て決めていた。
この日は、迷わず、見た目で真っ先に惹かれたラケル特製煮込みソースのオムライスを注文。

「お待たせしました。鉄板が熱いのでお気をつけください!」
ほどなくして、レイチェルドレスの素敵な笑顔と一緒にオムライスがやってきた。

熱々の鉄板上のオムライスはビジュアル的に新鮮で、上に乗るクレソンがいいアクセントになっている。

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それに、素朴で抒情的な店の雰囲気とオムライスのほんわかした感じがとけあって、なんかいい風景を描き出している。

洋食屋VS喫茶店VSチェーン店。
雰囲気でポイントを上げたラケルがとびきり美味しかったら、もしかしてチェーン店が……?
複雑な気持ちを抱きつつ、物語はクライマックスへ。

中のご飯はヘルシーな十穀米。卵と煮込みソースとの組み合わせはよいと思う。
ただ、卵は全体ボリュームの割には少なく、とろーり感はそんなではない。
煮込みソースは鉄板効果で冷めずに美味しく、このソースの力が大きい気がする。
結論、普通に美味しい。何かが秀でていて美味しいのではなく、トータルで美味しいという印象。
ボリュームは結構あって満足。

RAKERUは1963年にコーヒーショップラケルとして産声を上げ、1975年には渋谷の宮益坂店が開店した。
イギリスの湖水地方の農家のダイニングルームがコンセプトで、雰囲気も、食器も、制服も、女性に人気。この日のお客さんも、女性2人連れが3組だった。

全体的にコンセプトがよく活かされていて、ひとつの完成された世界を作りだしている。
物語のような世界に囲まれて食べるオムライス、素敵なんじゃない、こういうの。

食事が終わり、水を飲み干して最終章の会計へと向かう。
「ありがとうございます!」明るい笑顔に送られながら物語を読み終え店外に。
いつもながら、オムライスを食べたあとはとても気分がいい。
そんな幸せにつつまれながら家路へと向かう。

と、電車の中で、はっと気が付いた……何か足りないような……。
 
あーーーーーーーーーーー、か、かさを忘れたあああああああああ!
ガ~ン……かるいショック、いや、かなりショック……。
まさか、この物語の最後に”RAKERUに戻る”なんて番外編がついていたとは……。
とほほ……。

2013年1月28日

■ 店舗情報 ■
・住所:神奈川県横浜市戸塚区戸塚町10 戸塚モディ7F
・電話:045-869-1051
・営業時間:11:00~22:00
・定休日:不定休
(戸塚モディに準ずる)

RAKERU 戸塚モディ店 食べログ情報 

ラケル 戸塚モディ店オムライス / 戸塚駅


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The Garden of Rachel

 かすかに吹くそよ風が、頬をなでる。

 そろそろ用意ができますよ……。

 そよ風に乗り、透明で清らかな女性の声が通り過ぎて行く。

 起きてください……。

 脳が、徐々に覚醒しはじめる。

 早く起きないと間に合わなくなりますよ……。

 声は次第にはっきりとしはじめ、やがてリョウは、ゆっくりと目を開けた。

 定まらない焦点の先にぼんやりと現れた、赤と白のチェックのテーブルクロス。
 その上でゆらめくランプのほのかなオレンジの光。
 遥か先の暗闇には、森の木々が見える。

 空を見上げると、眩しいほどキラキラときらめく星たちが天空を飾っている。

 意識を自分に向ける。
 肘付きの椅子に座っていることに気が付く。どうやら庭園に置かれたダイニングテーブルの椅子に座っているようだ。

 ここはどこ?

「お目覚めですね」
 背後から、先ほどの透明で清らかな声がリョウに語りかける。
 振り向くと、そこには、テーブルクロスと同じ赤と白のチェックのドレスに身を包んだひとりの女性、い や、ひとり?の、ウサギが立っていた。
「びっくりされましたか?」リョウの隣に回り込みながらウサギが微笑む。
「何がなんだか……」声にならない声を発するリョウ。
「どこまで覚えていますか?」
 ウサギは、隣の椅子に静かに腰をおろすと、リョウに優しく問いかけた。

 精神安定剤のようにリョウに溶け込むその声に、頭の中の混乱はだんだんと落ち着きを取り戻し、ジグソーパズルのピースがまとまり始める。
「レアチーズケーキをふたつ、買いました……」
「それから」
「駅の改札に向かい……」

 そこから先が思い出せない……。
 ウサギは黙ってうなずきながらリョウを見て微笑んでいる。

 何とか思い出そうとリョウは記憶の糸を手繰る。

 微笑むウサギ。
 頭を抱えるリョウ。
 微笑むウサギ。
 頭を抱えるリョウ。

 と、ひとつの光景がリョウの脳裏にフラッシュバックした。

「ウサギ……、ウサギのぬいぐるみ……」

 微笑む、ウサギ。

「思い出した……。ウサギのぬいぐるみを抱いた小さな子が前を歩いていました。おそらくクリスマスプレゼントで買ってもらったんだと思います。その様子を見てなんだか懐かしい気持ちになった途端、目の前が真っ暗になって……」
「そうですね。そのウサギのぬいぐるみを見て、まるでアリスがウサギを追いかけて穴に飛び込んだように、あなたはこの世界にいらっしゃいました」
 え?リョウの頭の中が真っ白になる。
「意味がわからないですよね」
テーブルに置いた両手を合わせながら微笑むウサギが言う。
「はあ……。ここはどこですか? それに、あなたは……?」
「はい、ここはラケルの園、英語でザ ガーデン オブ レイチェルって言います。申し遅れましたが、私はレイチェル・ドーソン。ここの支配人です」
「ラケルの園……?」
「そうです。これからあなたは彼女との約束の場所に行きますよね。ここはそこへ行くための出発地点なんです」

 出発地点?それに、どうして?どうしてこれからボクが行くところがわかるのだろう?
 もしかしてこのウサギ、いや、レイチェルは、言葉がなくてもボクの心が読めるのだろうか?

「あなたには、私の心の中が見えるのですか?」
「はい、あなたの心の中も、あなたの過去も、私にはわかります。」
レイチェルは、その言葉を待っていましたとばかりに、話を始めた。
「私たちはもともと地球で生まれました。正確に言うと、地球で製造されました」
「製造?」
「私たちは、遥か遠い昔、まだ人間が言葉に頼らなくても心を通わせることができた時代に製造されたアンドロイドなんです。その当時、地球ではウサギを愛でることが流行りました。最初は愛玩動物として本物のウサギが愛でられていたのですが、そのうちにウサギ型のアンドロイドを製造して家族の一員にしようという考えが出てきたんです。それと、作るなら人間と同じ大きさで話もできるのがいいと。そこでできたのが私たちで、いつしかみんなレイチェルと呼ばれるようになりました。幸せを運ぶ女神の意味なんですよ」

 そこまで話すと、レイチェルは遠くの方に目をやり、
「最初は良かったんです……」
 そう言って深いため息をついた。

「私たちには寿命も感情もありませんでした。アンドロイドですから。でも、寿命のない私たちは、何世代もの人間と一緒に暮らして数多くの嬉しいことや悲しいことに出くわすことで感情を持つようになったんです。人間と同じようになりたい、人間と分かり合いたい、そう思っていた私たちにとって感情を持つということは人間に近づけた証であって、大変嬉しいことでした。しかも、人間が言葉に頼らなかった時代から人間に接していますから、なぜか人間の心も読めるようになっていたんです。だけど皮肉なもので、私たちがそうやって感情を持ち始め、人の心を読めることがわかると、人間たちの間から非難の声があがってきたんです。アンドロイドに支配されるのではないかとか、アンドロイドのくせに人間を超えるのかとか……。
それから人間たちは、私たちを破壊しはじめました。私たちは人間に逆らうつもりなんて何もなく、ただ一緒に暮らしていたかっただけなんですけどね……」

 リョウは、レイチェルの目をじっと見つめた。
 澄んだ瞳の中で、夜空の星が、ゆらゆらと揺らめいている。

「一員として迎えてくれた家族のみんなとはずっと暮らしていたかったのですが、それから間もなく世の中で『レイチェル狩り』が横行しまして、しぶしぶ私たちは地球から脱出しました。行先はみんなバラバラです。でも、みんなで決めていたことがあります。それは、平和で争いもなくお互いがお互いを思いやることができる場所である『ラケルの園』を各自がたどり着いたところで作ることでした。だから、いろいろな星に『ラケルの園』があって、ここもそのひとつなんです」

「そうですか……」
 そんなレイチェルの話に相槌を打ちながら、リョウはつぶやいた。
「それは悲しい話ですね。そういう話を聞くと、人間は愚かな生き物だって、つくづく思いますよ……。ボクも含めてですけどね……」

 ぼんやりと夜空を眺めるふたりの上を、やるせない時間の雲が流れて行く。

「ところで、話は変わりますが、ひとつ教えてもらえませんか?」
やがてリョウが、沈黙の時間を打ち破り口を開いた。
「なぜここが彼女との約束の場所に行くための出発地なんですか?」
「それはですね」
 答えようとしたレイチェルは、ダイニングテーブルから30mほど離れたところにある建物で手を振る女性に気がつき、話をとめた。
「あ、ごめんなさい。今、オムライスが出来上がったようなので先に持ってきますね。それを食べながら話をしましょう」
「え? オムライス?」
「はい、オムライス。幸せを運ぶ食べ物で、ここでの常食です」
「でも、食事は彼女と一緒にしようと思っていますし、第一約束があるので、食べている時間はないですし……」
「安心してください。これから食べていただくオムライスはいくら食べても決して食事の妨げになるものではありません。時間も大丈夫です。ここの時間の流れはあなたが知っている流れより遥かに遅いですし、それに、時間に間に合うようにあなたをここから約束の場所までお連れしますから」

 赤ん坊をあやす母親の言葉のような不思議な安心感が、リョウを包み込んだ。

 じっとリョウの目を見て微笑むレイチェルに、
「わかりました」
 ただそう言ってリョウはうなずいた。
「では、今、運んできますのでしばらくお待ちください。それと、私が戻るまでの間に、あなたの小さいころのことを思い出してみてください。あなたとウサギに関して。いいですか。大切なことですので、お願いします」
 そう言って席を立つと、レイチェルは建物の方へと歩き始めた。

 ボクとウサギ、……、小さいころ……。

 ひとり残されたリョウは、目の前のランプの光に目をやる。
 ボクとウサギ、……、小さいころ……。
 ボクとウサギ、……、小さいころ……。

 と、先ほどと同じ光景が、リョウの脳裏にフラッシュバックした。
 小さい子がウサギのぬいぐるみを抱いている光景。

 ウサギ……、ウサギのぬいぐるみ……。

 ウサギのぬいぐるみを抱いている小さい子は……。

 これって……。

“ウサちゃんはいつも一緒だから”
“ウサちゃんと一緒にお風呂入るんだもん”
“ねえお母さん、背中のところが切れちゃったよー。ねえ直してよー”
“やだよ、絶対に捨てないんだから・・・”

「お待たせしました」
 ほどなくしてオムライスを持って戻ってきたレイチェルは、
「どうぞ、冷めないうちにお召し上がりください」
 そう言ってリョウの前に、真っ白な皿に乗ったオムライスと光り輝く銀色のスプーンを並べた。
 ケチャップソースの香りがリョウの鼻をくすぐる。
「では、遠慮なくいただきます」
 スプーンを手にしたリョウは、早速ひと口、口に運んだ。
 卵とソースがご飯と溶け合い口の中に広がって行く。
 と同時に、なんとも言えないせつない懐かしさがリョウを包み込む。

「思い出しましたか、ウサギのぬいぐるみのこと」
 美味しそうにオムライスを頬張るリョウにレイチェルが問いかける。
「はい、鮮明に思い出しました」
「では、ひとつ、あなたに質問です。もしウサギのぬいぐるみにナイフを突き刺したとします。それは破壊行為だと思いますか?それとも殺害行為だと思いますか?」
「もちろん、殺害です」間髪を入れずに答えると、リョウは、
「当然ですが、ぬいぐるみにもアンドロイドにも人間にも、命があります。まあ、人間にナイフを突き刺しても破壊行為としか思わない人もいますけどね。おかげさまで彼女と会う前に大切なことを再確認できました。それと、子供のころ母に作ってもらったオムライスの美味しさも思い出しましたよ」
 そう続けた。
リョウの力強い言葉を聞いたレイチェルは、満足そうにうなずいた。
「これであなたは約束の場所へ行く準備ができました。今のあなたは、幼いころウサギのぬいぐるみを心から愛し、その心のまま迷い込んだノラネコを愛したあなたです。彼女とはこれから先ずっと言葉がなくても心が通じ合うはずです。ここが出発地である理由は、もう説明する必要ありませんね」

 オムライスを食べ終えたリョウは、席を立つと丁寧にレイチェルにお礼の言葉を述べた。
「ではお気をつけて。ここから約束の場所まではそりでお送りします」
 そう言うとレイチェルは、先ほどオムライスの出来上がりを告げていた女性に声をかけた。
「晴香さん、ではよろしくお願いしますね」
 その声の先で、トナカイの牽くそりに乗る女性が手を振っているのが見えた。
「これを忘れてはいけませんよね」
レイチェルは、にこやかにレアチーズケーキをリョウに手渡した。
 照れ笑いしながらそれを受け取ると、リョウは、晴香の乗るそりへと急いだ。

「何れまたお会いしましょう」
 晴香に会釈をしてそりに乗り込んだリョウが、手を振りながらレイチェルに言う。
「今度は彼女と一緒にいらっしゃい」
 レイチェルがリョウに呼応する。

 トナカイの足の動きにあわせてそりはゆっくりと庭園を滑り始め、やがてクリスマスイブの夜空へと舞い上がった。

 晴香のはからいで、2回ほどラケルの園の上空を、そりは旋回する。

 赤と白のチェックのクロスが敷かれたテーブル――。
 素敵なオムライスを作っているレンガ造りの建物――。
 そして、いつまでも手をふり続けるレイチェル――。

 The Garden of Rachel――それは、あなたの心の中にあるという。


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2013
02.24

レストランKei

地元民に愛される安らぎの空間


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藤沢と横浜の繰り返しから鎌倉に進展し、よし、この勢いで更なる一歩をということで、今日は本厚木に参上。
目的地は「レストランKei」。
「ビジネスホテル夕霧」というなんか演歌っぽい名前のホテルの1階にある。
小田急線を降り、ミロードを抜けて目的地へ。
ちょっと駅から離れていてわかりにくいんだけど、駅北口を出たらとにかく商店街を真っ直ぐ進み、厚木アーバンホテルの角を左に曲がる。
後は厚木年金事務所を目指せばよい。
駅から徒歩で5~10分くらい。
厚木まで来ると丹沢おろしで寒いかなと思いきや、この日の日中は意外とポカポカでいい天気。
商店街が終わり、ローカルな雰囲気の中を散歩気分で歩いているうちに店を発見!
わおー、”わたしは地方都市のビジネスホテル&レストランですよ~”と思い切り主張しているぞー!
でも、そういうのって味わいがあって結構好きだったりする。
先ずは外にある商品ディスプレイでオムライスを確認。
OK!真ん中で堂々としてますねえ……。

外観を写真に収め、店内に。

14:00前頃だけど、結構お客さんがいる。
でも、とても静かな雰囲気。
そう、ホテルの1階にあるレストランだけあって、まさしくホテルのモーニングを食べているときのような、カチャカチャとナイフとフォークと食器の音だけが響くような雰囲気。
店内にはイージーリスニングが流れている。
ポールモーリアだな。

さてさてメニューを見てみるかな。
席に着き早速メニューを拝見。
ランチメニューのオムライス。
ケチャップがかかったオーソドックスなオムライスで、謳い文句は”ボリュームたっぷりの定番メニュー”。
サラダとコーヒーか紅茶つきで800円。
おー、安い!
でも今日はこれじゃあないんだもんねえ。
で、お目当ての半熟タマゴの・・・、あれ!
先に目に飛び込んできたのは”オムハヤシ”の5文字。
しかもボリュームたっぷりだと~。
オ・ム・ハ・ヤ・シ!
オ・ム・ハ・ヤ・シ!
頭の中でオムハヤシコールが鳴り響く・・・。
でも、今日は半熟タマゴのオムライスにするって決めてきたんだ。しかも893円。
なんかコワイ人を思い浮かべてしまう価格設定。
この期に及んでオムハヤシにしたら、半熟タマゴのオムライスに”落とし前をつけてもらおうか”って店の裏に呼ばれそう。
ということで半熟タマゴのオムライスを注文。

ほどなく893円なオムライスが到着。
さー、来ましたよ、目的の品が。

おー、ビューティフル!フジヤマ ゲイシャ、オムライス!
893円とは似ても似つかぬ美しさ。
卵はかぶせてあるのではなく、トロッとかけてあるカンジ。

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味も良い!
卵がかぶさっていないので、なんか半熟卵かけご飯のようにソースとご飯と卵が一体化している。
うん、卵ではなくてメニューにある通り”タマゴ”と書くのがぴったりのイメージ。
そう言えば、タマゴって書いたり玉子って書いたり店によって違うけど、どうやって決めてるのかなあ?
ご飯の中はベーコン(あれ、ハムかな?)と玉ねぎとピーマン。
これがいい感じに炒められている。

と、ここで掟破りの考えが頭をよぎる。
このケチャップご飯はデミにも合うけど、オーソドックスなケチャップにも合うのでは……。
次の瞬間、迷うことなく店員さんを呼んでいる自分がいた。
「すみません、この、ランチのオムライスを追加でください」
きょとんとする店員さん。
「……あ、え、セットの方のでよろしいですね……」
前回の1日2軒巡りに続き、今回は1軒2種類食い。
カロリーオーバーだけど、今日はその分ウォーキングの時間を増やせばいいさ、そんなことを自分に言い聞かせながら到着を待つ。

で、やってきました、定番オムライス!

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こちらの味も期待を裏切らなかった。ボリュームも多い。
薄焼き卵をケチャップが引き締め、ご飯を包みこむ。
デミのオムライスとは全く違う食べ物のよう。でも、ご飯はどちらにもぴったり。
どのポジションもできるユーティリティープレイヤーのようだ。

レストランKeiはホテルに併設されているので、もちろん外来も多いのだろうが、お客さんを見ていると地元の皆さんがおしゃべりや休日のゆっくりとした時間を過ごすために利用しているケースが多いように見受けられる。
地元の方々に愛される店、いいですよねえ。

今回は2種類のオムライスを食べたわけだが、まだ残っているのがある。
そう、オ・ム・ハ・ヤ・シ。
ユーティリティープレイヤーはオムハヤシにも合うはず。
あ、そう言えば!
食べ終わってから気がついた。
外の看板に書いてあったコピー。
“懐かしの味 ハヤシライス”
そうなんだよ、ハヤシが特に売りなんだよ~!!
う~む、今日のもとても美味しかったけど、今度はオムハヤシを食べに来るゾー!!

2013年1月19日

■ 店舗情報 ■
・住所:神奈川県厚木市栄町1-9-4 ビジネスホテル夕霧 1F
・電話:046-295-7277
・営業時間:11:00~22:00
・定休日:第1~3水曜日

Kei 食べログ情報 

レストランKeiステーキ / 本厚木駅


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( Kei+Kei + Kei ) × ( Omurice + Omurice )÷2

 アーバンホテルの角を曲ると、ビルの向こうに丹沢の青い山並がくっきりと浮かび上がった。
 やっぱり、ちょっと寄ってみようかな。
 懐かしさと、ポンと肩をたたく春色の風に誘われ、啓次郎は、躊躇いを飲み込みレストランKeiの扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
 可愛らしい元気な声に、右手の人差し指を立て、”ひとり”という合図を送る。
「おひとりさまですね。では、こちらの席にどうぞ」
 ウェイトレスの手が案内するその先では、窓から降り注ぐ陽光に満ちあふれたテーブルが、“やあ、久しぶり”と優しく啓次郎を出迎えた。
“ごぶさた。座る前に、ちょっと失礼するよ”
 窓のブラインドを下げると、啓次郎は、3年ぶりの椅子にゆっくりと腰をおろした。
 14時を過ぎたせいか、店内はすいている。ついたての向こうの奥の席にいるらしい若い女性グループの他には、お客さんはいないようだ。
“そういえば、ブラインドを下ろすのはいつも君の役目だったねえ”
そんなテーブルの微笑に肘をあずけ、メニューを眺める。
“もちろん、注文はあれだろ?”
“ああ、決まっているさ”
「これください」
 啓次郎はランチメニューにあるオムライスの写真を指差した。

 そのころ--。

 勤務先の社内研修の講師を頼まれた景子は、研修帰りに後輩の女性たちをひきつれてレストランKeiを訪れていた。
「えー、そうなんですか。水原さん、ここによく来てたんですかあ」
 できたてのオムライスを前に、後輩たちの明るい笑顔がはじける。
「3年ぶりだけどね。多いときは毎週のように来てたわ。とにかく美味しいわよ」
「ホントにこのオムライス、すごく美味しそうだし、すごくきれいですね!」
「でしょ。半熟タマゴとデミグラスソースとご飯の感じがすごくいいの」
 景子の中で、思い出が“こんにちは”を言う。
 なんだか懐かしいなあ……。

「おまたせいたしました」
 しばらくして啓次郎の前にオムライスが運ばれてきた。
 薄焼き卵に色鮮やかなケチャップがかかったオムライス。
 全然変わってないなあ……。
 啓次郎は、オムライスを真ん中の部分からふたつに切り分けた。
 彼女(あいつ)、今ごろどうしてるかなあ……。

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 大学に入ってすぐのフレッシュマンキャンプ。それがふたりの出会いだった。

「社会学科の田辺啓次郎です。だいたい、ケイって呼ばれてました。オムライスに目がないです」
 啓次郎のそんな挨拶に呼応するかのように、
「はじめまして。英文学科の水原景子です。友達からはケイって呼ばれてます。オムライスを食べ歩くのが好きです」
 え?
 他の学生の挨拶は耳にも入らなかったが、景子の挨拶に啓次郎は思わず顔を上げた。
 そんな啓次郎の方を見て、軽く微笑む景子。
 初めて会ったとは思えなかった。前々からの知り合いのような錯覚が、フレッシュマンキャンプの場をふたりだけの場に変えた。

 そんなふたりは、それからしばらくしてレストランKeiを見つけた。

“でもすごくない? 私たちお互いがケイで、オムライスが好きで、Keiって名前のこの店まで見つけちゃって”
“これは偶然じゃないよね。あ、でもね、ボクはケチャップがかかった昔ながらのオムライスの方が好きだな”
“私だってケチャップのも好きよ。でもデミの方がもっと好き”
“ボクだってデミのも好きだよ。ねえねえ、お互いに好きな方を頼んで、半分ずつ食べない?”
“あ、そうしよ、そうしよ!”

「水原さん、半分しか食べないんですか?」
 景子の隣の女性が、手つかずのまま半分残されたオムライスを見て言った。
「そうね、なんだかおなかいっぱいになっちゃって……」
「えー、もったいない」

“あなた食べるの早すぎだわ”
“そんなこと言われても……。これでもゆっくり食べてるんだぜ”
“いじわるして、もっとゆっくり食べちゃおうかなあ……”
“はいはい、お嬢さま”

 忘れたはずの啓次郎の笑顔が、オムライスの皿に揺れる。
 妙な感覚が景子を包み込む。
 なんでここに啓次郎がいないんだろう……。

「ラストオーダーのお時間ですが、何かございますでしょうか?」
 元気な声が啓次郎の耳に響いた。
「いや、……、いいです」
 ブラインドから漏れる一筋のやわらかい日差しに、アイスコーヒーのグラスが輝いている。
「……、すみません、やはり追加をお願いします。半熟卵のオムライスをひとつ……」

 景子が半分食べ終わるのを、じっと待つのが啓次郎の役目だった。
 ケチャップのオムライスを半分残して、半分になる半熟タマゴのオムライスとの交換を待つ。今も、半熟タマゴのオムライスの到着を待ちながら、ちょこんとたたずむ半分になったケチャップのオムライスが、目の前にある。

 あのころと同じ光景。

 ただひとつ違うのは、残った半分のオムライスの受け取り手がいないということ。
 なんでここに景子がいないんだろう……。

 やがてランチタイム営業終了の15時が近づいてきた。

「ごちそうさまです!」
 景子の前に、幸せ色に染まった笑顔が並ぶ。
 景子は伝票を片手に、レジへと向かった。
 その先に、丁度会計を終えて店を出て行こうとする男性の後ろ姿が、ぼんやりと見えた。
「ごちそうさま」
 レジの前に立った景子はウェイトレスに伝票を渡し、何気なく入口付近のテーブルに目をやった。いつも 啓次郎とふたりで座っていた、窓際のあの席――。

 え?どうして?

 目に飛び込んで来たのは、きれいに半分残されたケチャップのオムライスと、その隣に寄り添う、同じくきれいに半分残された半熟タマゴのオムライス――。

 景子の中で時間が止まり、時計の針が逆回転を始めた。

 陽だまりで微笑む春の神様は、ちょっぴりイタズラ好きで、そして、とてもやさしい。

( Kei + Kei + Kei ) × ( Omurice + Omurice ) ÷ 2

 この数式の答えは、すぐそこにある――。

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2013
02.24

MORE

Back to 80’s


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小町通りを鎌倉駅方面から鶴岡八幡宮方面へ、人の流れに乗って歩いて行く。
よし、小町通りにどんな店ができているかチェックしながら歩くかな……。
えーと先ずは、通りの入口付近にある不二家は変わらないな、ふむふむ。
それから次に……、おっ、前を歩く女の子2人組は確かさっき江ノ電に乗っていた子たちだ、2人とも可愛いじゃん!
ん?……あれ?手つないで歩いてる……え?そういう関係ですか???
でも、女の子って仲がいいと普通に手をつないで歩いたりするって聞いたことある気がするし……。
というわけで、小町通りの店並みチェックは入口の不二家の存在を確認しただけで終わり、あっという間に目的地に到着。

今回の目的地は小町通り沿いにある喫茶「MORE(モア)」。
駅から歩いて向かって右側の2階。
路上に出された看板をチェック。
うんうん、あるある、オムライス!
期待を胸に2階へと向かう広い階段を上がる。

店の入り口はひと昔前のおしゃれな雰囲気。歴史を感じる。

おーーーーー!80年代だあ!
完全なる80年代の世界。
ラジカセかウォークマンか竹の子族か。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった、
じゃあないけど、
モアの重いドアを開けると80年代であった、ってカンジ。
窓の外の「モア」の字体も当時の雰囲気を感じる。

さてそんな店内は、さすが小町通り沿いに古くからある店、大勢のお客さんで賑わっている。
家族連れの方、友人同士の方、ひとりでくつろぐ方等々、客層はいろいろ。

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奥のテーブルに通され(小町通りを見下ろせる窓際がよかったんだけど、残念ながら空いていなかった)、さっそくオムライスを注文。
オムライスは、ふわふわ玉子のオムライス880円と粗挽きソーセージのオムライス1,000円の2種類。
違いを聞くと、ふわふわの方はデミグラスソースで、粗挽きの方はケチャップだそうだ。
今回は写真が出ていた「ふわふわ玉子のオムライス」を食べることに。

さて、肝心な味はいかに……。

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Oh デリシャ~ス!!
卵とデミも美味しいけど、特にご飯が美味しい。
よく炒めたケチャップご飯の甘くこげた香ばしさが、口中に広がる!!
うん、幼少の頃こういう喫茶店で食べた記憶の懐かしいケチャップ味。
いいな、これ……。

ボリュームは、ほどほど、という印象。

モアのオープンは1977年。昭和52年。
ジャイアンツの王選手が756号のホームラン世界最高記録を達成し、キャンディーズが解散宣言をした年だ。
調度といい、かかっている曲といい、モアの中は、ホント80年代にタイムスリップしたかのような場所と時間を提供してくれる。
さあ、世のおとうさま、おかあさま、モアに行ってあの日に帰りませう!!
あ、もちろん、その時代を知らなくたって、小町通りでの一休みの、ゆったりとした時間を楽しめますよ~。

2013年1月12日

■ 店舗情報 ■
・住所:神奈川県鎌倉市小町1-7-1
・電話:0467-24-5743
・営業時間:11:00~22:00
・定休日:無休

MORE 食べログ情報 

喫茶モアカフェ / 鎌倉駅和田塚駅


明日への時間旅行

「3勝10敗だな……」
 スプーンを片手にモアの2階の窓から小町通りを行き交う人々をぼんやりと眺めていた守が、祐二の方に目線を移しつぶやいた。
「……何が?」
 アイスコーヒーを口に運ぼうとしていた祐二が、守の方を見やる。
「何だと思う?」
「そうだな、小町通りを歩いているイケてる女の子」
「バーカ」
「お前ならあり得る」
「30年前ならな」
 守は苦笑いを浮かべ、オムライスを一口食べると続けた。
「オレたちが行っていた茶店(サテン)。今も残っているのはここも含めて3ヶ所だけ。大船の薔薇館も西鎌倉のコロンもない。藤沢のマタリとドルチェは、今は食べ物屋だ」
「そういうことかあ……」
 祐二はアイスコーヒーのグラスに映る自分の顔の輪郭を目でなぞりながら、ため息交じりにうなずいた。

 モアの店内にはシャカタクのNight Birdsが流れている。
 1982年のスマッシュヒットナンバーだ。

 あのころ……。
 祐二と守の大学時代……。

「おじゃましまーす……」
 家には誰もいないと知りつつ、それでも玄関で一応挨拶の言葉を言って、祐二達の仲間は毎日のように守の家に集まっていた。
 バイブルはポパイと片岡義男、それとカーグラフィック。1階の冷蔵庫からよく冷えた缶ビールを取り出し、真昼間から水代わりに飲みながらアルディメオラやリーリトナーのギターをコピーしまくっていた。
 夜になれば海沿いの134号を西へと向かい、箱根の大観山に向けて走り出す。守のRX-7、祐二のケンメリ、その他仲間の117クーペやトレノ。
“すべての四足動物は後ろ足で大地を蹴る”そんな桜井眞一郎氏の言葉に陶酔し、”FF(前輪駆動)なんてクルマじゃねえ。やっぱりFR(後輪駆動)だよな”なんてこだわる硬派なクルマ好きの集まりと思いきや、ハートカクテルのような恋愛に憧れ、仲良しの女の子たちと逗子マリーナでテニスに明け暮れたりもした。
 就職や家族のことなんか考えずに、ただ今日を楽しみ、明日も幸せな日が来ることを疑うことなく生きていた。

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 曲がTOTOのRosannaに変わった。
「あのころは、毎日が楽しかったよなあ……。」
 手にしたアイスコーヒーのグラスを見つめたまま、祐二は独り言のような口調でそういうと、話を続けた。
「人ってさあ、いつまで夢に生きて、いつから思い出に生きるのかなあ?オレさあ、思い出に生きたくないんだ。そうなったら人生も終わりだって思う。常に前向きに、夢を忘れることなく。お前と『一緒の会社に入ろう。で、オレたちでいい会社に育てよう』って夢見て入社しただろ。今でもその思いは変わらないし、変えたくはない。でもなあ、どうしても前向きになれずに楽しかったときに逃げてしまう……」

 11月の小町通りの西の空が、ほのかにオレンジ色に染まろうとしている。
「ほら」
 ぼんやりと天井の方に目をやる祐二に、守がマールボロの箱を差し出した。
「吸えよ、いいだろ今日くらい」
 軽く会釈をして箱から1本抜き取り口にくわえた祐二に、守が火をつける。
 石がすれボッと炎が上がると、JIPPOのオイルの香りが広がった。
「ありがとう」そういうと、祐二は18年ぶりのタバコを深く吸い込んだ。

「夢と思い出に線を引く必要なんてないんじゃないかなあ。いいんじゃないか、思い出に生きたって。お前とはお互い励ましあって今日まで来たし、それは大切な思い出だと思ってる。思い出に生きたくてもそんな思い出さえない人だっているわけだし、素晴らしい思い出を見つめて生きて行っても、何も悪くはないと思う。いやむしろ、思い出があるからこそ頑張れるんじゃないかなあ……」

 そんな守の言葉のあと、二人はしばらくの間無言で、ぼんやりと暮れゆく景色を眺めていた。

 良き思い出。それは自分が生きてきた、確かな証。

“なあ、オレたち将来どっちが稼ぐと思う”
“オレたちのS採用ってさあ、特別扱いのスペシャル採用だと思ってたら、ソルジャー採用のSなんだってよ。チクショウ、でも関係ねーよな。よし、お前と一緒ならできる!”
祐二の中で、目の前に座るスーツの守の姿が、30年前のGジャンの姿と重なる。

 やがて、吸い終わったタバコを灰皿に押し付けて消しながら、裕二は口を開いた。
「今までありがとうな。オレたちの中では、今でも13勝0敗だよな」
 守は祐二の目をじっと見ながら大きくうなずくと、
「これからもな」
 そう言って右手を差し出す。
「人事部長が言うことに間違いはないかな。もしかして、これがオレの面談?」
裕二の言葉に守は軽く笑を浮かべ、二人はがっちりと握手を交わした。

「あとの選択はオレ次第だな……」
「ああ、例えお前が社命のどちらを選択しても、オレたちの思い出は変わることはないし、決して色あせることもない」
「人事部長がお前でよかったよ。オレに手続きで戸惑わせるなよ」

 秋の空はすっかりと夜に向かう準備を終え、窓の外が街明かりに変わろうとしている。

「じゃあ、今日は朝まで行くか」
 守が問いかける。
「おー、先ずは大観山だな。お前の自称フェラーリで」
 祐二の声が弾ける。
「OK! その後は茅ヶ崎のインザチップスに行って、鎌倉山のロイヤルホストにしよう」
「残念ながらロイヤルホストは24時までだ」
「11敗目か。ま、クルマの中で作戦を考えよう」
「おー!」

 会計を済ませると、二人はさっそうと小町通りへと消えて行った。

 さあ、今日は守の自称フェラーリで、Back to the Future!!

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2013
02.24

La Plata

古都鎌倉の異次元空間


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今回は江ノ電でのんびりと海を眺めながら古都鎌倉へ。
場所は鎌倉駅から鶴岡八幡宮方面へと続く「小町通り」。
う~ん、さすが鎌倉。正月を過ぎてもすごい観光客。
小町通りはラッシュアワーのターミナル駅のよう。
そんな中、人の流れに乗って1軒目の目的地である「La・Plata(ラ・プラタ)」を目指す。
ん?1軒目?
そうなんです。今日は2軒ハシゴ。
お腹いっぱいで行くのは失礼なので極力1日1軒と思っているのだけれど、すごく近いところに目的の店が2軒あるので、今日は失礼して……。

さて、ラ・プラタなんだけど、場所がちょっとわかりにくところにある。
小町通りから1本裏の路地に入ったところ。確かこの辺に……。
お、あったあった! 
おー、店の前に「オムライス」と書かれた大きな看板が!
こういうの見ちゃうとホントわくわくする。
しかも店の前の通りは、小町通りと打って変わってとても静か。
中も静かだったらいいなあ。
でも、女性やカップルに人気らしいので、男1人で行くのはちょっと恥ずかしいなあ……。
そんなことを思いつつ、2階にある店に向かう階段をのぼる。
ちなみにこの階段はとても急なので、ヒールとミニスカは注意。
覚えておいてください。

中はどんなカンジなんだろう。
ちょっとドキドキしながら入口のドアを開けると……。

おー!!なんだここは!!
 
目の前に、クリスマスの風景が広がった。
昼食時を過ぎたせいか、お客さんはひとりもいない。

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「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
女性の柔らかい声に誘導され、席へと着く。

壁のディスプレイではクリスマスソングを歌う様子が放映されている。
そう、ここは1年中クリスマス!
何から何まで手作り感満載。各テーブルに置かれたメニューにしてもとても温かみを感じる。
そして、メニューを開くと、1ページ目に……。

Santa’s Favorites
キーンと凍るクリスマスイブの夜空をトナカイの牽くそりに乗って駆け抜け、一晩で世界中の良い子にプレゼントを届けるサンタクロース。
そんなハードスケジュールをこなす彼の大きなお腹を満たし、リラックスさせるサンタの奥さんの癒しの部屋と手作り料理。
素材や調理法にこだわり、優しさのスパイスを効かせたミセス サンタのキッチンです。
ヨーロッパのクリスマスいっぱいの夢あふれるお部屋で、ヘルシーで美味しいお食事と素敵な時間をお過ごしください。

もう感動ですね。
食べる前から、このワールドに引き込まれてしまった……。
しばし雰囲気に浸ってからオムライスをオーダー。
オムライスは、天使のオムライス(半熟玉子のふわふわオムライス)900円。
ハッシュドビーフのオムライス1,300円。
メキシカンミートオムライス1,300円。
この3種類。
今回は初回なので天使のオムライスを注文。

ほどなくしてオムライスが到着。
おー、美しい!!

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すごく繊細で、優しい盛り付け。
一番上に乗ったシュークリーム生地で作った天使の羽が安らぎの世界へといざなってくれる。
でも、すごいのはこれからだった……。

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ソース、うん美味しい。
マイルドで、生クリームとの相性が抜群。
ご飯、うん美味しい。
ほどよい食感と味付け。
卵、……、玉子、……、タマゴ、……、たまご、……。

もともと卵は大好き。
でも、こんなに深みがあって、ソースとご飯にマッチしている卵は食べたことがない。
なんか、「美味しい」の次元が違う。口の中で感動が広がる。
食べ終わってからもしばらくは、クリスマスソングに耳を傾けながらボーッと余韻に浸ってしまった。

ラ・プラタの由来は「真っ白に輝き続ける『プラチナ』のラテン語の語源『Plata』」から。
大町ではじめ、4年前に小町に移ってきたそうだ。

「うちは家庭の味ですね。でも卵料理ってそれぞれの家庭の味があるから難しいですよね」と笑顔で語るミセスサンタ。
鎌倉はお年を召した方が多いので、あまりこってりさせないようにデミグラスソースは肉より野菜、果物重視。卵も生クリームを混ぜないとのこと。私自身あんまりこってりがダメなんですよ、と。
卵はこの店のデミグラスソースに合うものを探したと言う。
「高ければいいってもんじゃないんですよね……」
納得。しみじみと語るその言葉に、深みと重みを感じる。

部屋、料理、接客、何もかもが優しさと癒しに包まれている。
完成されたひとつの世界。そう、この店の中は、外界とは異次元のおとぎの国の世界のようだ。

「今日はこれで、一日中幸せに過ごせます」
帰り際、そんな言葉が、何のてらいもなく自然と口をついて出た……。

2013年1月12日

■ 店舗情報 ■
・住所:奈川県鎌倉市大町2-9-2
・電話:0467-60-5258
・定休日:第1月曜日

La Plata 食べログ情報 

ラ・プラタオムライス / 鎌倉駅和田塚駅


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天使の忘れ物

 小さい頃の記憶は現実なのか夢の中のことなのか境界があいまいで、夢で見たことを本当にあったことと思い込み、大人になってもそれを実際の出来事だと信じ込んでいることがある。
 でもそれは、小さい頃に限らないのかもしれない。
 夢のような本当の話。本当のような夢の話……。
 もしかしたら現実と夢の世界に境界なんてなく、気がつかないうちに人はそこを行き来しながら生きているのかもしれない。

「ほら、この店」
 夏の夕方が日の入りを躊躇する頃、慎司は、真っ白いワンピースと麦わら帽子を身にまとった晴香と一緒にラ・プラタに向かう階段の前に立った。
「きっと要望に合うはずだよ」

「松橋くん?」
 2週間ほど前の朝、いつもと同じ通勤電車のいつもと同じ席に座った慎司の前に、ミュールを履いた透き通った足が現れた。
 寝ぼけ眼で、ゆっくりと頭を上げ、足の持ち主の顔を見上げる。
 慎司を見ながら微笑む女性。
 ビデオカメラの焦点が合うように、やがて慎司の記憶の焦点が定まった。
「あ、えっ、なんで……」
 微笑みながら黙ってうなずくと、女性は
「隣、座ってもいい?」
 そう言いながら慎司の隣に腰掛けた。

 10年ぶりの再会だった。

「戻って来てたの?」
 中学の途中で日本を離れた晴香に向かって、慎司が言う。
「うん、たまたまね。またすぐ帰るんだけどね」

 初めて付き合った相手との、10年ぶりの再会だった。

 偶然というのは突然にやってくる。たまたまわずかしか帰ってきていない晴香に、この時間のこの車輌のこの席で会うなんて。
 再会を喜ぶ黒目がちの大きな目。さらさらとした長い髪。きちんと両膝に置かれた小さな手。品のある落ち着いた声。大人になった晴香をちらちらと見やる慎司の中から、美しい思い出が堰を切ったようにあふれ出す。
 あふれ出すのは思い出だけではなかった。
 嫌いで別れたわけではない。物理的な距離は、まだ幼い二人には遠すぎた。
 満員電車の空間が、隣に座る晴香と二人しかいない観覧車の中のような錯覚に陥る。
 思いが、10年前に飛び込んでいく……。

「もしよかったら、連絡先とか教えてもらえない?」
 そんな慎司の言葉に戸惑いの表情を浮かべると、晴香は
「ごめんなさい。私、携帯持ってないし、連絡先はちょっと……」
 申し訳なさそうにそう答えた。
「そうなんだ。わかった。じゃあ、ボクは毎日この席に座っているから、時間があったらまた会いたいな」
 やがて慎司の降りる駅が近づいてきた。
 しばしの沈黙ののち、晴香がつぶやく。
「私も会いたい……」
 どこか憂いをたたえた声だった。
「ねえ、ひとつお願いがあるの」
 席を立とうとする慎司に向かって、意を決したような表情(かお)で晴香が言う。
「どこかで、あのときのクリスマスの続きがしたいなあ。私、2週間後にまたこの電車に乗る用があるから……そのときに会えたら」

 ラ・プラタの前に立った慎司は、優しく晴香の手を取り、階段をのぼった。
「なんかわくわくする」晴香の嬉しそうな声が壁に響く。
「じゃあ、入ろうか」そう言いながらドアを開ける慎司。

 その瞬間、一面クリスマスの世界が飛び込んで来た。

「すごーい」大きな目を更に大きくしつつ、それ以上は声にならない晴香。

 お客さんのいない静かな店内は、優しく暖かい雰囲気に包まれている。
 奥のテーブルに着くと、二人はグラスワインと天使のオムライスを注文した。
「これ、そっちに置いといて」
 甘えた声で麦わら帽子を差し出す晴香。それを受け取りながら思わず笑がこぼれる慎司の前を、晴香のつややかな髪の香りと温もりが通り過ぎる。
「こんなとこあったんだあ……」キラキラと輝く晴香の目は、あたりを見回した。
「探したよ、夏にクリスマスができるところ」
「ごめんね、わがまま言って」
「ううん」慎司はゆっくりと首を横に振って続けた。
「神様はボク達を見捨てなかったね。だって、ボクもあの時の続きがしたかったんだから……」

 中学2年のクリスマスイブ。この日、慎司と晴香は、近所の教会のクリスマスパーティーにクラスの仲間と参加していた。照明は落とされ、ほのかなキャンドルの踊りでパーティーは進んでいく。キリスト教のことはわからないが、パイプオルガンの音色にあわせてみんなで歌う賛美歌に、二人は厳かなものを感じていた。
 そんな中、キャンドルの向こうから晴香が慎司に耳打ちをする。
「ねえ慎司、結婚式ごっこしない。ほら、汝はこの者を妻としてって言うでしょ。あれやろうよ……」
「いいよ」一瞬とまどったが、慎司は頷いた。
 と、その時
「ではみなさん、席を変えて他の方々とお話しましょう」
 主催者の声が響いた。

 結局そのとき、晴香の要望が実現することはなかった。

「では、カンパーイ」
 ワイングラスを重ねる二人。
「あの時はりんごジュースだったね」
 二人の笑顔があふれる。
「そうだったね……。ねえ、続きをしようか」

 ♫ Silent night, holy night! All is calm, all is bright.……

「きよしこの夜」が流れる店内は、静粛な空気に包まれている。

「じゃあ私からね。松橋慎司。汝はこの者を妻とし、健やかなるときも病める時も、生涯変わらぬ愛を誓いますか」

「……はい、誓います……。じゃあ、次はボク。青山晴香。汝はこの者を夫とし、健やかなるときも病める時も、彼を愛し、彼を助け、生涯変わらぬ愛を捧げ続けることを誓いますか」

「・・・はい、誓います」

 粛々と、二人の時間は流れて行く。

 ♫ I‘m dreaming of a white Christmas ……

「うそでもいいから、慎司には一度言ってほしかったんだ。ずっとそれを思ってたの。それと、ここって、なんかお母さんのお腹の中にいるみたいですごく安心する……」
 曲が「ホワイトクリスマス」に変わった頃、天使のオムライスを口にしながら晴香が言う。
「ありがとう、慎司、私のために。これで思い残すことなく帰れるわ。私、すごく幸せよ……」
「今度はいつ戻って来られるの?また会えるよね」
 黙って首を横に振る晴香。笑をたたえた潤んだ瞳の中で、照明がゆらゆらと揺れている。

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 その夜、眠りについた慎司は、遠くから聞こえる晴香の声を耳にした。

「さよなら、慎司」

 ふと、窓の外を眺める。

 トナカイが牽くそりが、澄み渡る天空に向かって駆け上がって行く。
 そこには、まるでウェディングドレスか羽のついた天使の服のような真っ白いワンピースに包まれ、麦わら帽子が飛ばないように片手で頭をおさえながら、一方の手を大きく振る晴香の姿があった。

 それを優しく見守り、手を振り返す慎司。

 ラ・プラタのときと同じ麦わら帽子からのつややかな髪の香りが、そよ風に乗って慎司の元に届く。

 ありがとう、晴香。君は遠いところから、わざわざボクに会いに来てくれたんだね。

 あ、忘れ物……。
 慎司は天使のオムライスを前に二人で撮った写真を取り出し、紙飛行機にして飛ばした。
 紙飛行機は、スローモーションのようにゆっくりと、でも確実に、晴香の元へと飛んで行く。

 また出会ったら、今度こそ一緒になろうね。

 やがて小さくなったそりはひとつの光になり、ベガ、デネブ、アルタイルの夏の大三角形の中に吸い込まれ、静かに消えて行った。

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2013
02.24

SAMOVAR

ハイカラな街のハイカラなお店


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第5回は、またもや横浜。
とは言え今回は馬車道。
桜木町から海を左手に関内方面へと向かう。
馬車道までは電車でも来れるのだけれど、せっかくなのでハマ風と街並みを楽しみたい。
だから桜木町から歩くのがおすすめ。

う~ん、やっぱり好きだなあ、この街並み。
文明開化の香りに乗せられて、ちょっと遠回りしたくなる。
左手に海の気配を感じながら海岸通りを象の鼻公園方面に進む。
大桟橋の方から「ヴォーン、ヴォーン」と響く汽笛の音。
1月の風は辛辣だけれど、心は温まる。
そういえば、もう少し行くと第2回:センターグリルで登場した影山さんが貿易商を営んでいた日本大通りだなあ……、って、物語と現実を一緒にするなあ!

いけないいけない。
このままでは目的を忘れて山下公園から元町を抜けて山手まで行ってしまい、あれ、何しに来たんだっけってことになってしまう。

ということで、横浜税関前で折り返して今回の目的地である馬車道のSAMOVAL(サモアール)へ。
外観は、さすが馬車道にある店。
「ヨコハマ風お洒落」ってカンジ(何それ?)。
店外には「オリジナルオムライス」の看板。
う~ん、期待しちゃいますねえ……。

自動扉を開け、店内に。
中は結構広く、テーブル席とバーカウンターのような丸椅子が並べられている。
古い調度、SAMOVAR(ロシアの茶器らしい)が置かれ、照明もいい感じでムーディーな雰囲気(そういえば、ムーディー勝山はどうしちゃったんだろう……)。

さてさてオムライスは。お、結構種類がある。
きのこのオムライス(ガーリック入り)。
チキンのオムライス(ピリ辛ケチャップ味)。
シーフードのオムライス(イカ、エビ、ホタテ入り)。
ほうれん草のオムライス(ベーコン、ガーリック入り)。
イカスミのオムライス(イカ、ガーリック入り)。
この5種類で、値段はすべて850円。

今回は「ピリ辛」にひかれ、この中からチキンのオムライスを選択。
出来上がりを待っている間に、結構お客さんが入ってきた。
しかも家族連れが多い。
給仕をつとめる女性が気さくに話しているところを見ると、どうやら、休日は一家で来る常連が多いようだ。

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そうこうしているうちにオムライスが席に到着。
ふーん。
見た目は何の変哲もないケチャップが添えられたオムライス。

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味はどうだろう……。
……ん?
うっ……。
う、う、うま~い!
これは美味しい!
小細工なしの直球勝負。
ご飯の中には鶏肉、玉ねぎ、ピーマン。
すごく丁寧に作られた感じで香ばしく、卵とピリ辛のケチャップ味が絶妙にマッチする。
ホント、目からウロコ。
なんて素敵な出会い。
残り4種類のオムライスも食べてみたい!
ボリュームは普通なんだろうけど、味付けのせいなのか、多いように感じさせてくれた。

サモアールは1974年に横浜駅西口に紅茶専門店として開店したのがはじめらしい。
今は横浜駅西口の相鉄ジョイナス本店、ここ馬車道店、弥生台店の3店舗。
ただし、本店は紅茶専門店、弥生台は洋菓子店なので、オムライスが食べられるのは馬車道店のみ。
各種類のオムライスが食べられるのは、平日は14:00から(ランチタイムは1種類)。
休日は11:00から。

とても心落ち着ける雰囲気で、ついつい長居してしまいそうな店。
注文時に「お飲み物はいかがですか?」と給仕さんに聞かれたけれど、今回はオムライスのみに。
帰り際にレジでとても美味しかった旨を伝えると「お近くですか? 今度は紅茶も召し上がってみてください」と。
そういえば、前回に続いてまたまた紅茶の店だった。
は~い、今度はゆっくりと紅茶もいただきま~す!

2013年1月5日

■ 店舗情報 ■
住所:神奈川県横浜市中区弁天通4-67-1
電話:045-201-3050
営業時間:11:00~22:00
定休日:年中無休(年末年始休み)

SAMOVAR 食べログ情報 

サモアール 馬車道店喫茶店 / 馬車道駅関内駅桜木町駅


永遠の明日

 5月が終わってじっとりとした梅雨の季節が来るというのに、まったく世の中のカップルというものはよくもそんなにべったりとくっついていられるもんだ。
 しかも、ヨコハマっていうのがまたよくない。
 みなとみらい地区から赤レンガ倉庫、山下公園にかけて、満員電車から降りる乗客のようにと言うか、コンベアに乗って運ばれる回転寿司のようにと言うか、次から次へとカップルが現れ、犬も歩けばカップルに当たるって状態だ。
 それに引き換え、オレの姿って何?
 生まれてこのかた17年間、ヨコハマに住んでいるのに女の子と手をつないでヨコハマを歩いたことなんて一度だってありやしない。
 にもかかわらず、そう、にもかかわらずだ。
 せっかくの休みの日に、何でオレがおばあちゃんと二人で、しかもおばあちゃんの手を引いて海岸通りや馬車道を歩かなきゃあいけないの。世の中っていうのは不公平にできてるって、つくづく思うよ。

 ふてくされを押し殺した表情(かお)で歩く185cmの少年と、その少年に手を引かれてにこにこと歩く背中の丸まった145cmの老婆。昼下がりの馬車道の空は、青く澄み渡っている。

 それは一週間前の、1本の電話から始まった。

「おかあさんが、どうしても元気なうちに一度横浜に行きたいんだって」
静岡に住む伯母から浩一の母親への電話だった。
「まあ、元気って言っても、もうだいぶボケが進んじゃってるし足腰も弱くなってきているから、多分ラストチャンスのような気がするのよ。なんとかお願いできないかしら」
 伯母、つまりは祖母の面倒を見ている浩一の母親の姉(しかも長女)の懇願に、妹(しかも末っ子)である母親は、最後は押し切られる形になった。

「で、なんでオレなの?」電話を終え、 “お願い!”と手を合わせる母親に向かって浩一が言う。
「おばあちゃんのご指名なのよ。ほら、孫の中でも、何かとコウちゃんコウちゃんって可愛がってくれていたでしょ。」

 最後に押し切られるのは親譲りかもしれない。浩一は渋々、首を縦に振った。

「コウちゃんは今何年だっけ?」本町4丁目の交差点を過ぎ、県立歴史博物館に差し掛かる手前で、145cmの老婆が見上げて尋ねる。
「高校2年だよ」
「そうかい、もう立派な大人だねえ。頼もしい、頼もしい」
さっきも聞かれたよなあ、大丈夫かなあ……そんなことを思いつつも、県立歴史博物館をやり過ごし次の交差点に着くと、185cmの少年は腰をかがめ優しく老婆の左耳に向かって声を発した。
「おばあちゃん、もうすぐオムライスの店につくよ」

 母親の頼みに浩一が承諾すると、次の瞬間、待ってましたとばかりに母親が畳み掛けてきた。
「それでね、おばあちゃんはねえ、あの、何だっけ? 前にみんなでオムライス食べに行ったお店。ほら、馬車道の……」
「もしかして、サモアール?」
「あ、そうそう、そこのオムライスが食べたいんだって」
 それから母親は、ベテランのツアーガイドよろしく山下公園から海岸通りを抜け、海岸通四丁目の交差点を左折して馬車道方面に行き、最後はサモアールでオムライスを食べる当日の行程を浩一に指示した。
 そしてツアーは、その指示に忠実に従い、無事に最終行程へとたどり着いた。

「おー、そうかね。もうつくかね」
 浩一は祖母をエスコートし、サモアールの奥のテーブル席に座った。
「おばあちゃん、何がいい」
「あたしゃオムライスにするよ」
「あ、そうなんだけど、いくつか種類があってさあ……」
「いいよ、コウちゃんが選んでよ」
「そう……、うーん、……じゃあ、シーフードなんてどう?イカ、エビ、ホタテ入りの」
「うん、それにするよ」

 しばらくしてオムライスが運ばれて来ると、
「まあ美味しそう。じゃあ、いただこうかな」
 祖母のくしゃくしゃの顔が、より一層くしゃくしゃになった。
「ところで、これはなんていうオムライスだっけ?」
「あー、シーフードのオムライス。イカとかエビとかホタテが入ってるやつ」
「そうかいそうかい、美味しそうだね」そう言いながら、祖母はオムライスを口に運んだ。
「美味しい。うんうん」
 そうつぶやく祖母の満足そうな顔に浩一もほっとする。
 幸せそうに食べる人を見ていると、こちらまでも幸せな気分になれるもんなんだなあ、そんなことを感じながら浩一は祖母の笑顔を見ていた。
「美味しいねえ。うんうん。本当に美味しい……。ね、おとうさん」

 え?……おとうさん?……

「美味しい美味しい」
 それから祖母は、一口食べるごとに、笑顔で同じ言葉を繰り返した。
 結局二人は、ゆっくりと、40分ほどかけてオムライスを完食した。
 もっとも、浩一にとってそのうちの30分は、祖母の笑顔を見ているだけの時間であったが。

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 その日の夕方、祖母は満足げに迎えの車に乗って静岡へと帰って行った。
「ありがとうね。おばあちゃん本当に喜んでたよ」母親が浩一にねぎらいの言葉をかける。
 浩一は、あれやこれや、祖母との会話がちんぷんかんぷんだったことを母親に報告した。
「しかもさあ、オムライス食べているときに『美味しいね、おとうさん』とか言い出しちゃうし」

 祖母の表情をまねて話す浩一のその言葉に、面白おかしく話を聞いていた母親から笑顔が消えた。

「……おとうさん、って言ってたの?……」
 天井を見上げ、ひとつ大きく深呼吸をすると、母親は続けた。

「浩一、今日って何の日だと思う?」
 突然の質問に、きょとんとする浩一。
「命日。今日はねえ、ひいおじいちゃんの命日」
「ひいおじいちゃんって、おばあちゃんのおとうさんってこと?」
「そう。今日、5月29日は横浜大空襲の日でねえ・・・」

 それから母親は浩一に、横浜大空襲の話を聞かせてくれた。

 昭和20年5月29日。午前9時30分頃。B29爆撃機517機とP51戦闘機101機の編隊が横浜に襲いかかった。
 焼夷弾の絨毯爆撃により一気に火の手があがる。
 当時17歳だった祖母は馬車道にある銀行にその年の4月から勤めていて、そこで空襲にあった。
 幸い祖母は火傷を負いながらも逃げ延びることができたが、本牧で郵便局長をしていた曽祖父は「よそ様のお金を預かっている。現金輸送車が来るまで自分はここを離れるわけにはいかない」そう言って郵便局から逃げることなく、直撃弾を受けて亡くなったと言う。

 初めて聞く話だった。

 その日も、いつもと同じ朝だった。
「行ってきま-す」
 昨日とかわらない、同じ朝だった。
 そして、
「ただいま」
「おかえり」
 そんな夜を迎えるはずだった。

「おばあちゃん、浩一のことをひいおじいちゃんによく似てるって言ってたよね。だからきっと、あの日の夜におとうさんと一緒に食べるはずだった夕飯を、今日食べてたんだよ。おとうさん、美味しいねっ……。おとうさん、本当に美味しいねって……」
 それから先はもう、母親の言葉は言葉になっていなかった。

 浩一は自室に行くと、ぼんやりと窓の外を眺めた。
 暮れなずむ空の向こうから、かすかに船の汽笛の音が聞こえる。

 オレと同い年の時に、時のいたずらに翻弄され一瞬にしておとうさんも住むところもなくしたおばあちゃん。
 それでも苦労のかけらなんてこれっぽっちも見せずに、オレのことを可愛がってくれる。

 おばあちゃんの中では、ある意味、あの日に馬車道で空襲にあった時から時間が止まっている。
 来るはずの夜が、来るはずの明日が、来ていない――。

 それに比べて、オレって何?
 女の子と手をつないでヨコハマを歩いたことがないだと。世の中不公平にできているだと。とんだ甘ったれ小僧じゃないか。

 開け放った窓から、夏色の準備を始めた風が部屋を駆け抜けていった。

 おばあちゃん、夏は暑いから、8月15日に戦争が終わってしばらくして秋になったら、またサモアールにオムライスを食べに行こうよ。ほら、まだいろいろな種類があるからさ。

 オレも頑張るって約束するよ。だって、オレにはおばあちゃんとひいおじいちゃんの血が流れているんだから。

 ちょっと海を走ってこようかな、そうつぶやくと浩一は、ぽんぽんと軽く両膝をたたき、夜の帳が降りた街へと飛び出して行った。

 だからおばあちゃんも約束して。
 それまで元気でいるって。

 いい、おばあちゃん、約束だよ……。

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2013
02.22

FELICE

オープンスペースで気ままなひとときを


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新春第一弾!
気分一新、さて、どこに行きませうか???
やっぱり好きな街からだよね……ってことで横浜。
あれ? また横浜? どこが気分一新?
第1回から、藤沢 → 横浜 → 藤沢 → 横浜 って……。
なんか同じところをグルグル回っているだけじゃん。あれ、おかしいなあ。
でも、ハンマー投げみたいにサークル内でグルグル回って勢いをつけているのだから、きっと室伏広治選手のように金メダルが手に入るのさ、なんて必要もないのに訳のわからない言い訳を頭に浮かべつつ、いざ横浜へ!

当初は馬車道、関内方面を狙っていたのだけど、三が日はまだ営業していない。
ランドマークプラザも混んでいそうなので、横浜駅周辺で探すことに。
結局、9階と10階にオムライスを提供している店がある「そごう」に決めた。
ビルの中は人、人、人でごった返している。
上の階に行っても、一向に人の減る気配はない。
いやーな予感がよぎる。まさか……。

先ずは10階の「ダイニングパーク」にある「丸の内DINDON」を覗くと、15:00を回ってすでに食事時が過ぎているにもかかわらず、かなりの待ち状態。
えー、やばいじゃん!?

さて、9階はいかに。
不安を抱きつつエスカレーターで9階へ向かう。
ん? なんか人だかりと優雅な音色が……。
この階にあるイベント空間で、綺麗な着物に身を包んだ、小学生から高校生くらいの女の子達が舞を披露している。
「おっ、可愛い~(両目からハート×8)」と思いつつも、「自分に厳しくあらねばならん。ロリコンではないし、ロリコンではないし」と自分に言い聞かせ(冗談)、一目散に目的の店へ。
(今思うと、せっかくなので優雅な舞を見てゆったりとした気分になればよかった。ちょっと後悔)

目的の店は「FELICE(フェリーチェ)」。
ここにしかないオープンカフェだ。
う~ん、結構混んでいるし、ショーウィンドウにはケーキばっか。
謳い文句は「ケーキと紅茶の店」。
なんとか席を確保し、オムライスセット1,470円を注文。
なんかオムライスがあるのが場違いなカンジで、
「カフェでオムライスって食べて後悔するのかなあ。でもサラダとコーヒーor紅茶が付くとはいえ1,470円は
意外と高いし、給仕さんもちゃんとした格好をしているし」なんて期待と不安を抱きつつ出来上がりを待つことに。

やがて給仕さんの「大変お待たせ致しました」の丁寧な言葉とともにオムライスが運ばれてきた。

お、なんか美味しそ~!!

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うん、結構美味しい!
食べる前は「カフェのオムライスってどうなの?」って思っていたけれど、いけるじゃん。
うん、美味しい美味しい、パクパクパク。
チキンライスはちょっとパサっとしたカンジだけど卵はとろとろ。デミソースも美味しく食べやすい。で、すぐに食べ終わっちゃったんだけど、何となく物足りない気がする……。美味しいし、上にパセリがかかっていて綺麗なんだけど、何でだろう??
良くできているんだけど特徴がないのかな? 
ボリュームも少なめ(?)で、オムライスそのものを楽しむというより、会話を楽しみながらオムライスも楽しむっていうのが合っているカンジ。ホント美味しいんだけどね……。

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そごうの9階は、実はそごうではなく「新都市ホール」なので他のフロアのように買い物客がいない。だから静かだし、フェリーチェはオープンカフェなので開放感もある。まあ、この日は結構混んでいたけれど、それでも10階のように待ち状態ではなかったし。
それに店の雰囲気がお洒落。ゆっくりとおしゃべりしながらお茶や食事を楽しむにはとてもいい空間だと思う。給仕さんの対応もとても丁寧で、好感が持てる。
意外と穴場かもしれない。
「ケーキと紅茶」のお店での「オムライスとコーヒー」だったけど、ケーキと紅茶はどうなのかなあ?? それも興味津津……。

2013年1月3日

■ 店舗情報 ■
・住所:神奈川県横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店 9F
・電話:045-451-6788
・営業時間:10:00~20:00
・定休日:不定休(そごうに準ずる)

FELICE 食べログ情報 

フェリーチェカフェ / 横浜駅新高島駅神奈川駅


さよならの向う側


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「ごめんなさい。おまちどうさま」
 そごうの大時計が約束の4時を10分ほど過ぎた頃、人ごみの中から真理は現れた。
 1年ぶりの真理の姿を目にすると、達也は、“やあ”という言葉にならない言葉とともに、油の切れたロボットのような仕草で軽く右手をあげた。

「どこか希望の店はある?」宙に目をさまよわせ、達也が言う。
「いえ、どこでも」
「おなかは?おなか、すいてない?」
「大丈夫」
「じゃあ、9階のカフェに行こう」
 事務的でぎこちない会話を交わすと、二人は無言でそごうの9階にあるカフェ「フェリーチェ」へと向かった。

「顔色いいね」オープンカフェの奥のテーブルに着くと、達也は言った。
「そうね。このところ調子はいいわ」荷物を椅子に置きながら真理が答える。
「ネイルサロンは順調?」
「おかげさまで。友達も宣伝してくれて、お客様も増えてきてる。あなたの方は?」
「うん、仕事は今まで通りかな。それと、炊事、洗濯、みんな君にまかせていたこともできるようになった。これでも、今更ながらちょっとは成長しているかな」
 達也はおどけた仕草をしてみせた。
「それはよかったわ」口許を隠しながら、真理が笑う。
「笑顔が見れてよかったよ」
 達也は笑顔を返しつつも、真理の笑顔が、夢の中の、手の届かない物語の世界のもののように思えた。

 二人で会うのは……。
 達也はぼんやりと天井を見つめた。
 二人で会うのは、これが最後かな……。
 ――。

「お待たせいたしました」
 手持ち無沙汰でやるせないしばしの沈黙の時間を、給仕が破ってくれた。

「何でこの店にしたの?」運ばれてきたアールグレイを口にしながら真理が尋ねた。
「いや、特に。強いて言えばオムライスがあるからかな」
「そうなんだ・・・」あたりをキョロキョロと見回しながら真理は続ける。
「ねえ、この店の名前の『フェリーチェ』の意味知ってる?」
 きょとんとした顔で首を横に振る達也。
 その達也を、穏やかな眼差しで見る真理。
「イタリア語で『幸せな』の意味。あなたにひとつだけ言っておくわ。女はいつも愛の前では臆病なものよ。愛を確かめないと不安で仕方がないの。だから、もしあなたに愛する女性(ひと)ができたら、どんなことでもいいからそのひとが安心するようなことをしてあげてね。例えばこの店に連れてきてあげて、連れてきた理由とフェリーチェの意味を教えてあげるの。それが幸せになる秘訣よ」
 真理は、口許に笑みを浮かべた。その笑みは、まるで静かな湖の底でゆらゆらとゆらめく藻のように柔らかいものだった。
 一瞬、達也の中で、そんな真理の笑顔が ”私ねえ、小さい時、いつも家の中の階段の真ん中で、ひとりで『みんな早く帰って来ないかなあ』なんて待ってる子だったんだよ” 甘えた声でそんな話をする出会った頃の真理の笑顔と重なった。

 幸せになるために、お互いが選んだ道――。
 それぞれが歩む、別々の道――。

「ご忠告ありがとう。ねえ、せっかくだからオムライス食べない? 昔みたいに」
「いいわ、じゃあいただくわ。オムライスを食べると幸せになれるって、誰かさん言ってたわよね」

 何千人、何万人もの人が往来する都市空間の中、静かなオープンカフェで、二人の時間が、最後の二人だけの時間が、ゆっくりと、でも確実に過ぎ去って行く。

「じゃあ、これ、あとの手続きはよろしくお願いしますね」
 食事を終えると、真理は達也に書類の入った封筒を手渡した。

 それから二人は地下に降りると、キラキラときらめくイルミネーションで飾られたエスカレーターで横浜駅に向かい、「それじゃあ」とどちらともなく別れの挨拶を交わした。

 達也は、西口方面に消えて行く真理の後ろ姿を追い続けた。
 真理の姿が、だんだんと小さくなっていく。
 心の中で、達也はつぶやく。
 ねえ、「大好き」と「愛してる」の違いって何だと思う?
 本当に君を愛しているのなら、ボクから開放してあげるのが愛だよね……。
 人は記憶の呪縛から逃れられないものなのかなあ?
 二人で作った幸せな時間が多いほど、思い出はつらい傷になるのかなあ……。

 真理にあったら話そうと思っていたことはたくさんあった。
 本当は男のほうが弱くておセンチかもしれない。
 だけど、そんなものはいらない。
 幸せになるためにお互いが選んで決めた道。
 君に負けないくらい、ボクも幸せになるよ。
 そして、もしどこかで君とばったり会うことがあったら、今度は大きな声で、笑顔で、ちゃんと「やあ」って言える人間になるから。

 やがて真理の姿は、大海原に吸い込まれる水滴のように都会の雑踏に溶け込み、すっかり見えなくなった。

 ありがとう。
 さようなら。

 それからしばらくして、真理が去っていった方をぼんやりと見ていた達也は、向きを変えピンと背筋を伸ばすと改札を通り抜けていった。

 そう、幸せな明日行きの電車に乗るために……。
  
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2013
02.22

SHIRO

洋食屋 New wave in Fujisawa


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クリスマスも終わり街が2012年のゴールへのラストスパートをかける中、第1回で行きそびれたRestaurant SHIROへと向かう。

勝手知った我が庭、地元藤沢、南口駅前ロータリーを抜けイトーヨーカドー方面へ。
えーと、確かこの辺の角を……あれ?……この道沿いじゃなかったっけ……あれ??
勝手知った我が庭、地元藤沢、道に迷った!!
しかも先日店の前まで来たのに……。
ボケの始まりか??

通りから1本入ったところの、まあ、けっこうわかりにくい場所にあるのは確か。
1階が「萬福酒楼」という中華料理屋のビルの3階にある。
「へえー、こんなところにこんな店があったんだ」ってカンジ。

入口付近にランチの看板。うーん、ロゴからしてかなりお洒落。
第1回、第2回とは全く違う匂いを肌で感じながら、
レンガ風の階段をのぼり3階へ。
ガラス扉を開けると、白を基調としたお洒落な空間と
ギャルソンの格好をした美しい女性の笑顔が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」
硬派の自分としては、素直に「は~い」……。

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平日のランチタイム。
店には夫婦らしきお客さんがひと組だけ。
一番奥の席に陣取り、今回は脇目もふらずに「オムライス」を注文。
ただし、オムライスにも3種類ある。
メニューを見ると、先ず「クラシックデミグラスソース1,200円。ケチャップライスにとろとろ卵。昔ながらの定番」。
次に「海老とチーズのトマトソース1,300円。ケチャップライスにチーズの入ったとろとろ卵。自慢のトマトソースで」。
3つ目が「湘南しらすとあさりのかき揚げのせ 生のりソース1,300円。十五穀米ととろとろ卵。サクサクのかき揚げと一緒に」

かき揚げにも惹かれたけど、最初はオーソドックスにと迷わずクラシックを注文。
ちなみにランチはセットなので、サラダ、コーヒーor紅茶、デザートがついて来る。

料理の出来上がりを待つ間に夫婦らしきお客は食事を終えて帰り、入れ違いで4人のおばさん、いや、素敵なおねーさま方が来店。
ボクのとなりの席にお着きになられた。
世間話に花を咲かせる4人。
そのうち「大島渚って生きてたっけ???」(Aさん談)って話題に。
「え、もう死んじゃったんじゃなかった」と語るBさん。
「そうよそうよ」と相槌を打つCさん。
「え、そうだっけ」と自信なさげのDさん。
ついつい「大島渚さんはご存命でいらっしゃいますよ」と、Eさんになって口をはさんでしまった!
(その後の訃報、ショックでした。心よりご冥福をお祈り致します)

「あ、やっぱりそうですよね」とDさん。
「小山明子さん、駅付近で見ますよ」とも。
「私もそうだと思ったのよー」とCさん(Aさんかも。記憶が曖昧)。
ちなみに小山明子さんは大島渚さんの奥さんで、半身不随の夫の介護を続けている。
「そうですかあ。介護も大変ですよね」
そう言いながら、笑顔のまま全速力で会話から退散した。

さてオムライス。
その1、見た目で楽しめる!
う~ん、美しい!配色や盛り方は本格イタリアンかフレンチの装い。
その2、食感で楽しめる!
卵のとろとろ、ご飯のホクホク、上に乗ったポテトのカリカリ。
その3、味で楽しめる!
繊細な味。ダイナミックに食べたい人には物足りないかも。
ソースはコク、苦味、クリーミーな味がいい塩梅に調和している。

ボリュームは少ないかな。

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サラダ(前菜) → オムライス → コーヒー → デザートに溶け込んだオムライスって気がした。
それもありだと思う。

オーナーシェフのシローさん(お、カッコいいじゃん!)は片瀬山のPINYで腕を磨いた方。
とてもお若そうだし竹野内豊風(あくまでも主観)の顔立ちで、その点も女性にはおすすめ。
地元藤沢で開店との思いでこの場所を選択。一緒に働く女性は奥さんかな??
和風オムライスは旬の素材を使って季節によってメニューを変えるとのこと。次はこれだな。
老舗の伝統もいいけれど、こういった本格イタリアンorフレンチなオムライスというのも新しい時代を感じてとてもワクワクする。手作りデザートとコーヒーも美味しい!!

地元民としては応援しちゃいますよ~!

2012年12月28日

■ 店舗情報 ■
住所:神奈川県藤沢市鵠沼石上1-4-11 3F
電話:050-5816-3550
営業時間:【ランチ】11:30~14:30 【ディナー】17:30~22:00
定休日:火曜日

SHIRO 食べログ情報 

レストラン シロー洋食 / 藤沢駅石上駅


心友

「やっぱり、麻美はもっと肩の力を抜いたほうがいいよ」
 おしぼりの袋を開けながら玲子が言った。
 栗色の風が、穏やかな秋の街を包んでいる。
 
"SHIROのランチを食べながらだね"
 今は遠く離れた、高校時代のテニス部仲間の玲子のそんな提案で迎えた2年ぶりの再会。
「もっと明るく自由に遊び心をもってもいいんじゃあないかなあ。ピンと張り詰めて頑張ってるだけじゃあいつか切れちゃう。それに北海道に行こうがどこに行こうが、現実から逃げてたら何も変わらないし、変えられないよ」
「そうだよねえ……」
 麻美は頬杖をつきながら遠くの方にぼんやりと目をやる。
 しばらくの間、沈黙の時間が続いた。

 1週間前、麻美は何かから逃れたい衝動に駆られひとりで北海道に出かけてみたが、玲子の言うとおり結局は何も変わらなかったし、変えてくれなかった。

 バーンアウト――燃え尽き症候群。それと、現実逃避。

 自分でも「あれ私おかしいな」と思い始めたのは、夏休み中のカナダへの短期留学から帰ってきて就職の準備活動に入ってからだ。

「あなたはどんな仕事がしたいのですか?」
 いろいろな人に聞かれる度に、自信を持って
「はい、出版の企画をやりたいです」そう答えてきた。
 でも、本当にそうなの?
 休み中に1日1企画って目標たてたけど、できないじゃん。
 人が立てた企画にはあれこれ言うくせに、自分で企画なんて、できないじゃん。
 結局自分は批評しているだけで、クリエイティブなことなんて好きじゃないんじゃないの?
 本当に好きで目指している人に失礼だよ……。

「あなたは大学時代にどんな活動をしてきましたか?」
 そんな質問には、声高らかに
「はい、数カ国にステイして見聞を広めました。それと、英検1級、色彩2級を取得しました」、
 そう答えた。
 返ってきた言葉は
「そうですか。ところで、何か、団体でやったことはありませんか?あるいは中心になって団体をまとめたとか。社会人としてはそれが重要ですからねえ」

 大学に入ってからの3年間に将来の就職のためにと築き上げてきた価値観が、足元からガラガラと音を立てて崩れた。

 私は何に向かっていけばいいの?
 私はどこに行くの?
 何もやる気がおきない……。
 社会に出る前に自分を磨かなきゃあ、その一心で頑張って来たけれど、でも私がやってきたことって、何もかもが偽りだったってこと? 
 もうわからない……。

「ねえ麻美、覚えてる?」
 沈黙を破り玲子がつぶやいた。
「私が下手で、ダブルスでいつも私が麻美の足を引張ってたときに言ってくれた言葉」
 麻美は玲子の方に目をやった。

「大事なのは2人が協力して作戦を立ててそれに向かって行けたかどうかで、結果的にポイントがとれたかどうかは重要じゃあないって言ってくれたでしょ。あれはねえ、ほんと嬉しかったんだよ。それから気が楽になってミスも減ったし、試合で周りが見れるようになった」
 そう語る玲子の目は、あの時と何も変わっていない。
 インターハイ行きを決めた、ただ素直に嬉しさにあふれたあの時の目と、何も変わっていない。

 その瞬間、麻美には、玲子の目が麻美を催眠から解き放ってくれる魔法の目に見えた。

「あの時の麻美は毎日をすごく楽しんでたし、すごく輝いてた。でもね、麻美はシングルスも強くて、みんなには見せずにコートではいつもつらい思いもひとりで背負って頑張ってたから、実はちょっと心配してたんだ。高校卒業してから私もいろいろあったけど、麻美とはずっと心がつながってると思ってる。今の麻美は私の知ってる麻美じゃない! だから今度は私が麻美に言ってあげる。大事なのは2人が協力して作戦を立ててそれに向かって行くこと。麻美はひとりぼっちじゃあないよ。私たちは『心の友』、しんゆう、だよね。一緒に作戦考えよ……」

 こころの友。

 心友……。

 麻美は、大人になることばかりを気にして忘れかけていた大切なものを思い出せそうな気がした。

「そう言えばこの店、貸切でパーティーもできるんだよ!今度、みんな誘って女テニの同窓会やろっか?」
美味しそうにオムライスを頬張りながら玲子が笑う。
麻美も、笑顔でオムライスを頬張る。

 玲子の言葉のようにほろ苦くて、でもクリーミーで甘いソースが、じわーんと目にしみた。

「うん!」

 そう答える麻美の目は、確実に湘南中央高校女子テニス部キャプテンのそれを取り戻そうとしていた。

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2013
02.21

センターグリル

戦後の日本を支えてきた力
    

センターグリル2


やはり「日本一美味しいオムライス」のキーワード検索でヒットした店には行かないと。
では「近場でかつ好きな街」の横浜にある店に行こう!

ターゲットは野毛所在のセンターグリル。
形から入る性格としては、ここはハードボイルドチックにトレンチコートにレイバンのサングラスだな。
で、コートのえりを立てて、くわえタバコ。
銘柄はラッキーストライク。
って、レイバンのサングラスなんて持ってないじゃん!
トレンチコートは誰かにあげちゃったじゃん!
タバコはやめちゃったし……。
ということで、ありきたりの服装で野毛に向かう。

JR桜木町駅で降り、海側のみなとみらいに向かう人の流れに逆らい反対側へ。
今の時代、桜木町で降りる人のきっと7割程度はみなとみらい方面に向かうのだろう。
特に素敵な女性の皆様は9割以上はそうだと思う。
自分と一緒に野毛方面に向かうのは、なんかグレー系か紺系のジャンバーを着ている面々が多い気がする。
そう、場外馬券場に向かうオジサンたち。

老舗と新しい店が混在する野毛の商店街を進むと、大岡川に近い商店街の外れにセンターグリルはある。

青地に白抜きで「米国風洋食 CENTER GRILL」の文字。
何とも味わいのあるレトロな雰囲気。
11:30。中央のドアを開け、ランチタイムで賑わう前の店内に。

あれ、誰もいない。
第1回の「くげぬまや」しかり、洋食屋さんは誰もいないのがトレンドなのかよ-!
と、一瞬呆然としたボクの左で「2階へおあがりください」の看板が「落ち着いてよく見ろよ」と諭してくれた。

階段を上がり2階へ。
ちょうどのぼりきったところでご主人の「いらっしゃいませ」の声が響いた。
うーん、すごく暖かそうな初老のご主人。
2階には4人がけのテーブルが6つと、階段の右手に貸切パーティーができそうな部屋がある。
ともに落ち着いた雰囲気なのだが、強烈な印象なのが多くの絵とともにかけられた壁のしまうまちゃん!
え? これ、毛皮??

店にはまだ夫婦らしきお客さんがひと組いるだけ。
奥の席に陣取り、メニューを拝見。

えーと、オムライスは・・・。
ん? オムライスと特製オムライスがある。
なになに。オムライスは中が白いライス。
で、特製オムライスがケチャップチキンライス。
え、白いライスのオムライスなんてあるんだあ……。

興味はあるけど、やっぱ大好きなケチャップ味は落とせない。
それと、例によってここでも大好きなナポリタン。
なにせ、ナポリタンは戦後、山下公園のホテルニューグランドで生まれ、世の中に普及しているケチャップ味のナポリタンの発祥の地は、ここセンターグリル! 
ホテルの客層とは違うので、トマトソースではなく庶民的なケチャップで味付けし、彩にピーマンを入れることを考案したようだ。そりゃあ食べるっきゃあないでしょう。

結局、特製オムライスサラダ付き1、070円とナポリタン700円を注文。

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で、肝心な味。
ナポリタンはコメントをひかえるけどめっちゃ美味しい! やばいかも。
味が濃いので先にオムライスを食べないとオムライスの味がわからなくなってしまう。

さて、オムライス。

うまい!
ソースは濃厚ではないけど卵とケチャップとのバランスがよい。
それと、卵の具合がいい。
鶏肉を入れて卵を焼き、裏がよく焼けていて、表がトロッとしている。
ボリュームは多めだけど、オムライスにチキンカツとサラダが一緒についている浜ランチ1、050円(特製は1、250円)だとかなりのボリュームで更にお得。
あと、オムライスにはグリーンピースが乗り、サイドに福神漬がついている。

センターグリルの創業は昭和21年。
今日まで日本の発展を食で支えてきた店だ。
戦後のものがない時代に、「強い国(アメリカ)に習って強い国のものを食べよう。栄養とボリュームのある料理を皆様に」との思いでできた店。
白いライスのオムライスがあるのも、「少しでも早く食事を出せるように」という考えでできたようだ。

「昔は白いライスのオムライスの方が多くでていましたが、今はケチャップライスの方が多いですねえ」とご主人。
とても美味しかった旨を伝えると「オムライスとナポリタンだと結構ボリュームあったでしょう!50種類以上のメニューがあるので、そちらも食べてみてください」との丁寧な対応を頂いた。
とても気分がよい。
ちなみに「福神漬の意味は?」と問うたら一笑にふされた。

野毛はかつての輝きを失ってしまっている気がする。
戦後の日本を支えてきた男の文化は、失礼な言い方だが女子供の消費文化にとって変わられた。
ブランドイメージを確立し観光地料金で集客する海側に負けないよう、頑張ってもらいたいものだ(節操のない自分は海側も好きなんだけどね……)。

2012年12月22日

■ 店舗情報 ■
住所:神奈川県横浜市中区花咲町1‐9
電話:045-241-7327
営業時間:11:00~21:45
定休日:月曜日

センターグリル 食べログ情報 

センターグリルオムライス / 桜木町駅日ノ出町駅馬車道駅


Forever 


 JR桜木町駅を出ると、祐也は、みなとみらい方面に向かうお洒落な人波に逆らい、妻の涼子とともに平戸桜木道路を抜け野毛柳通りに足を踏み入れた。
 18年ぶりの場末の香りが体に染み渡る。と同時にそれと連動するように自然と顔がほころぶ。
 オーストラリアで貿易商を営む祐也が、大学の4年間を過ごした街だ。
「大学は人生の目的を探す場」と考えていた祐也は、この街には自分が求める何かがあるのではないか、そんな漠然とした思いでこの地を生活の場に選んだ。

 その日に稼いだバイト代をGパンのポケットにねじ込み、安酒の酔いに身を任せて街を闊歩する。
 一流企業への就職を目指す同級生や、すりごまが背広を着たようなサラリーマンを「飼いならされた豚ども」と卑下しつつも、何れ「大学」という温室生活を終え別世界へと身を委ねることになる自分が何者かわからず、文学青年を気取って大岡川の水面をぼんやりと眺めながら「自分の存在理由」に頭を悩ませていた時期でもある。

 野毛柳通りの外れまで来ると、祐也は青い看板の店の前で足を止めた。
 どこまでも突き抜ける晴れ渡った冬空を仰ぎ、大きくひとつ深呼吸をする。
「米国風洋食 センターグリル」
 祐也が足繁く通った店。
 祐也を育ててくれた店。
 そして、祐也を育ててくれた大切な人と出会った店――。

「ご一緒してもよろしいですか」
 大学3年の秋、センターグリルのテーブルで料理の出来上がりを待つ祐也に、柔和な笑顔の老人が話しかけた。
「あ、はい、どうぞ」
 一瞬とまどいながらも、何か得体の知らない、周りをほっとさせるようなオーラが祐也を包み込み、自然と快諾の言葉が口をついた。
「あなたの食べっぷりはよく拝見させていただいていましたよ」
 オックスフォード地の水色のボタンダウンシャツに、濃紺のシングル三つボタンのブレザー。綺麗にプレスされたグレーのスラックスに足元はコインローファー。
 典型的なIVYに身を固めたその紳士然とした老人は、丁寧にブレザーを脱ぐと、祐也の前の席に腰掛けた。
「学生さんですか?」
「はい、今大学3年です」
 この老人、どこかで会ったことがあるような……、祐也は記憶をたどる。

 ふと、記憶の線がつながった。

 数ヶ月前まで、毎週のようにこの店の一番奥の席で、品の良さそうな老婦人と楽しげに食事をしていた姿が祐也の脳裏に蘇る。
「我々には子供がいなかったもので、あなたの食べている姿を見て、家内とよく『孫がいたらこのくらいの年かなあ』なんて楽しませてもらってたんですよ」
 それから老人は、自分が影山治夫という名であること、日本大通り方面で貿易商を営んでいること、そして、2ヶ月前に突然奥さんを失ったことを祐也に聞かせてくれた。
「私のほうが病弱で、そんな私を支えてくれた家内にまさか先立たれるなんて思いもよりませんでした。やはり、男やもめはよくない。格好つけても、男なんてひとりでは何もできやしないちっぽけな生き物ですよ」
 運ばれたナポリタンをフォークに巻きながら、老人はぼんやりと壁に目をやった。
 その目を、祐也は見つめた。
 頬の皺の上のくぼんで濁った白目、でも、そのとなりにある黒目は決して輝きを失っていない。こんな目は見たことがない。それに引き換え、オレのガラス玉のおもちゃのような目は何なんだ……。
 男の年輪と生き様を感じた瞬間だった。

 やがてランチタイムで賑わい始めた店内で、老人と祐也はそれぞれの自己紹介や趣味などをおり混ぜながら会話に花を咲かせた。
「今日はありがとう。おかげさまで久しぶりに充実した時間をすごせました。今日は私がご馳走しますよ。それと、もしよかったらまたご一緒にいかがですか?」
 老人の言葉に祐也はお礼を述べ、握手を交わして二人は別れた。

 その後しばしば、この店で老人と祐也は食事を共にした。
 老人は今後の人生に悩む祐也の相談に真摯にのってくれ、経営する貿易会社でのアルバイトも勧めてくれた。
「男っていうのは悩んでいたらいけない。机上の勉強で頭でっかちになってもいけない。自分の進む道を見つけ、しっかり地に足をつけ、それに向かって生きていくもんだ。その道が正しいか正しくないかなんて関係ない。ただ自分を信じて、周りを信じて。そして感謝の気持ちを持つ。それと、君は彼女はいるのかい?」
「いえ、……」
「何れ君も人生の良き伴侶に巡り合うだろう。でも本当に素敵な巡り合いがあるかどうかは、君が自分をしっかり持てるかにかかっている。幸い私は最高の伴侶に出会えた。将来の君の伴侶も、きっと今頃どこかで君の成長を待ち望んでいることだろう」

 祐也は18年ぶりの扉を開け、涼子をエスコートしながらセンターグリルの2階へと上がった。

 変わらない景色が眼前に広がる。
 奥の席で、笑顔の若いカップルが美味しそうにオムライスをほおばっているのが見てとれた。
 老夫婦が決まって食事をしていた席だ。その若いカップルの姿が、祐也には若き日の影山夫妻の姿に見えた。
 影山さん、今頃天国で毎日奥さんと楽しい食事の時間を過ごしているんだろうなあ……。
 祐也は、あの日老人がしたような仕草をまねて、裏地に「H・Kageyama」と刺繍された濃紺のブレザーを丁寧に脱いだ。
 影山さん、オレ、少しはあなたに近づけたかなあ……。

「特製オムライスを二つください」

 18年前よりちょっと年輪を重ねた声が、店内に響き渡った。

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2013
02.19

くげぬまや

ホッとする時間が、ゆっくりと過ぎていく


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先ずは、やはり地元、藤沢からスタートしよう!
ということで、藤沢駅南口近辺でオムライスが評判の「SHIRO」に行くと、「本日貸切。またのご来店をお待ちしております」の文字……。

なにー!
仕方がないので、北口にある洋食屋さん「グーテ」を目指す。

と、「あれ?」

あるはずの場所にグーテがない。
えーー! 潰れちゃったのおおお!
こりゃ前途多難だ……どうしよう。
このまま帰るのもむなしいし。

しばし呆然としつつも、転んでもタダで起きたくない性格が頭の検索エンジンをフル回転させる。
「確か本鵠沼に洋食屋さんがあったよなあ……」
そんな頼りない記憶を頼りに、小田急線で本鵠沼に向かった。

「くげぬまや」は小田急線本鵠沼駅の改札を出て30秒程度のところにある。
4人がけのテーブルが5つ程度のお店。
白と茶を基調とした店内は、シンプルだが落ち着いた雰囲気。
寒い夜に訪れたせいか、適度な大きさと店に漂う空気が冷え切った体を暖かく包み込んでくれるようだ。

だけど、店員がいない。

しばらくして、厨房からご主人登場。

「いらっしゃいませ」
白髪交じりに眼鏡の優しそうなご主人。メニューをおいて去っていく。
今日の目的はオムライスなので、数あるメニューから「オムライスA」を選択。
オムライスAは500円。サラダ付きのBは650円。大盛りは+150円。
ついでなので、これまた好物のナポリタンも注文。ナポリタンはサイズを選べる。

「オムライスのAとナポリタン小盛、それとウーロン茶をください」
ボクの注文に怪訝そううなご主人、メニューを持って去って行く。
頭の中で「なぜ」の後に?が5つ並ぶ……。

メニューは壁にも貼られていて、それを撮影していると、再びご主人が登場。
「撮るならこっちの方がいいよ」
持ち帰ったメニューをまた持ってきてくれた。
「ありがとうございます!」
「宣伝しておいてよ」眼鏡の奥で柔和な眼が微笑んでいる。
「よかったら、今度はハンバーグを食べてみてくださいよ。30年もやってるから美味しいですよ」
柔和な眼の向こうは、優しさだけでなく、自信にも満ち溢れている。
そうかあ、売りはハンバーグなんだなあ……。

しばらくしてオムライスとナポリタンがテーブルに運ばれてきた。

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オムライスは見た目も味もオーソドックスの一言。
ふわとろでもなく、昔ながらの「安心して食べられる」味。
手作り感まんてん。ちょっとご飯が柔らかめだけど、それはそれで愛情たっぷりで、好みの問題。
最初、素朴な味にちょっとした物足りなさを感じたのだが、それは自分の舌が化学調味料に毒されているせいだ。
添加物で作られた味は途中で飽きるが、自然の味は飽きがこない。
(中の写真も撮っておけばよかった……)

ご主人が鵠沼に店を構えたのは13年前のこと。
洋食屋で修行し、自分の店を持ってからは、ひとりで店をきりもりしている。
(どうやら、最初は別の場所で店を開いていたらしい)
最近、洋食屋がどんどん閉店して行く。
「ホテルのレストランとも違うし、修行する洋食屋がないから人も育たないですねえ。開店資金もものすごくかかりますし、難しいですよ」と語るご主人。
「今度はハンバーグを楽しみにしてますね」
「後継もいないし、私ができなくなったらこの店も終わりですけど、あと10年はガンバりますよ!」
眼鏡の奥で、優しい眼がキラメいている。

店を出たときは、すっかり夜も更け寒風が身にしみる。
でも心の中では、ホッとする暖かい時間が、ゆっくりと過ぎていく……。
人生の中で、とても大切な時間だ。

2012年12月15日

■ 店舗情報 ■
住所:神奈川県藤沢市本鵠沼2-13-16
電話:0466-27-9696
営業時間:11:30~14:30 17:00~22:00
定休日:火曜日

くげぬまや 食べログ情報 

くげぬまや定食・食堂 / 本鵠沼駅石上駅柳小路駅




おかえり


「次は本鵠沼です」小田急線の社内に、車掌の軽快なアナウンスが流れる。
 次だあ……懐かしいなあ……早くつかないかなあ……。
 片瀬江ノ島行きの電車の窓から、流れる夜景にぼんやりと目をやりながら、紗智子は3年前に初めて雅人と食事に来た日のことを思い返していた。

「くげぬまや」と入口の上に大きく書かれたその洋食屋の中には、4人がけのテーブルが所狭しと5つほど並べられている。白と茶を基調とした壁にはメニューが貼られ、入口の側でがなり立てるテレビが「庶民の店」を主張しているようだ。
「へえ、鎌倉のボンボンサーファーが最初に連れてきてくれる店がこういう店とはね」
 水の入ったコップを手にとり、店内を眺めまわしながら紗智子が言う。
「それはいい意味で?」笑顔の雅人が問いかける。
「うーん……。意外って言うか」
「また勝手な思い込み? だいたい、ボクはサーファーではないし」
「しょうがないじゃない、見た目がサーファーっぽいんだし、海の側で生まれ育ったって言ったらサーファーしか頭に浮かんでこないんだから」
 紗智子は、頬をぷーっとふくらませた。
 きっとこのじゃじゃ馬は、自分が同級生だったら相手できなかったんだろうなあ。4歳差くらいがちょうどいいのかな……そんなことを思いつつも、雅人が紗智子を愛おしく感じる瞬間でもあった。
「ところで、ここはハンバーグがおすすめなんだ」
"当店自慢のハンバーグステーキ"と書かれたメニューを指差しながら雅人は
「よかったら、最初はそれにしてみない?」そう言いながら紗智子の目を覗き込んだ。
「嫌といってもあなたは聞かないんでしょ。まあ、そこがあなたの魅力だけどね」
紗智子が雅人の目を見つめ返した。
「OK。じゃあ、ボクはチーズ焼きにする。君は?」
「そうね、ベーコン焼きにしようかな……それと、オムライス!」
「お、食べるねえ!」
「だって昔からオムライス好きなんだもん」
「いいよいいよ、どんどん食べよう! 食べる前にビールで乾杯しよっか?」
「いいわよ」
 それから二人は心のこもった手作り料理に舌鼓を打ち、たわいもない話に花を咲かせた。

 やがて食事を終え店を出たときには、冬の星座が鵠沼の空に明るく輝いていた。
「すごくおいしかったわ。ねえ、でも何でこの店を選んだの?」酔いも手伝い、ちょっぴり大胆になった紗智子は雅人の腕に手を絡ませ、甘えるような声でたずねた。
「初めてのデートには全く似合わない店、そう思うよね」雅人が優しい声で応える。
「この店はさあ、時間が止まっているというか、ずーっと変わらないんだよ。時代が変わっても、この店は変わらない。流行りに迎合しようとか、受け狙いで行こうとか、そんなのが全くない。若い頃から洋食一筋で、ひとりで店を切り盛りしているご主人の思いが店を包み込んでいるような気がして、ほっとできて大好きなんだ。いつまでも変わらずにほっとできる場所ってすごく大切だし、そういった宝物が見つかったら自分の中で大事にしたいって思う」
「ふーん」
「だから……」
「だから?」
「うん、だから……」
「……?」
 ひとつ咳払いをすると、足を止め、雅人は紗智子の肩を抱き寄せた。
「だから、好きな人とはずっと変わらずにいつまでもいつまでも一緒にいたいって気持ちを伝えるのはこの店に来て、って決めていたんだ」
 一陣の木枯らしが吹く中、踏切の警報器が静寂を突き破る。紗智子は雅人をギュッと抱きしめ、広い胸にそっと顔をうずめた。

 その1年後、雅人は海外へ転勤になった。
 期間は2年間。そして、今日、任務を終えて日本に帰ってくる。
 そんな雅人が紗智子との再会の場所に指定したのが「くげぬまや」だった。もちろん紗智子も、雅人との再会の場所はこの店以外にありえない、そう思っていた。

 ひと気のない閑散とした本鵠沼駅の改札を抜けると、3年前と同じように、真冬の夜の北風が紗智子の頬につきささった。
 コートのえりに首をすくめ、紗智子は足早に店がある路地へと向かう。
 もう来てるかな? 最初はなんて言おうかな、やっぱり「おかえりなさい」かな……。

 角を曲がり裏の路地に入ると、店からにじみ出る灯りが目に飛び込んできた。

 暖かい……。
 
 できたてのオムライスのふわふわのタマゴのような灯りが、優しく紗智子を包み込む。それはまるで、紗智子が雅人に言うよりも先に、紗智子に向かって「おかえりなさい」と言っているように、紗智子には思えた。


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