景風るあのスイラムオ - 2013.09.07 Sat
最近は仕事でも私生活でもパソコンに向かう時間が長く、活字に接するのももっぱらパソコンで、という日々の繰り返しである。
でも、本が好きだ。
本を読むのも好きだけど、本を眺めるのも。
内容も好きだけど、装丁や腰巻(帯)も。
古書が好きだ。
時間と空間を超えて、その時代の人々の息遣いを詰め込んだ、一冊の本。
その中への、自由な、心の時間旅行……。
これらは今日購入した本。

戦前の本はタイトルが右から書かれている。
そういえば以前、「理科の日日」だと思って買ったのが「日日の料理」って本だったりした。
タイトルは「理料の日日」。
ほら、ちょっと騙されるでしょ?
え? お前だけだって?
さて、発行情報を見ると……。
昭和16年初版発行の「小説 葉隠」。

価格は1円50銭。

昭和24年発行「玉音頌(ぎょくおんしょう)」。

こちらは160円!

おー、100倍返し! じゃあなくて、100倍くらい上がっている!
ちなみに、昭和9年を100とした物価指数はこうなるらしい。
昭和 9年 100
昭和12年 110
昭和15年 180
昭和19年 210
昭和20年 250
昭和21年 400
昭和22年 2500
昭和23年 8000
昭和24年 19000
昭和25年 23000
昭和26年 30000
昭和27年 36000
昭和28年 35000
う~ん、確かに100倍だあ。。
それと、昭和16年当時は……。
あ! 東京市になっている!

東京市って???
当時の東京府の中の市らしい。
ほーっ。
廃藩置県で県ができたけど、その時は現在の都道府県と同じではない。
現在に至るまで、統合あり、分離あり。
神奈川県にしても、小田原県や荻野山中県というのがあった。
東京も15区から35区、そして今の23区と市町村へと変遷。
次回はちょっとその辺に触れてみよう。
ではでは!
でも、本が好きだ。
本を読むのも好きだけど、本を眺めるのも。
内容も好きだけど、装丁や腰巻(帯)も。
古書が好きだ。
時間と空間を超えて、その時代の人々の息遣いを詰め込んだ、一冊の本。
その中への、自由な、心の時間旅行……。
これらは今日購入した本。

戦前の本はタイトルが右から書かれている。
そういえば以前、「理科の日日」だと思って買ったのが「日日の料理」って本だったりした。
タイトルは「理料の日日」。
ほら、ちょっと騙されるでしょ?
え? お前だけだって?
さて、発行情報を見ると……。
昭和16年初版発行の「小説 葉隠」。

価格は1円50銭。

昭和24年発行「玉音頌(ぎょくおんしょう)」。

こちらは160円!

おー、100倍返し! じゃあなくて、100倍くらい上がっている!
ちなみに、昭和9年を100とした物価指数はこうなるらしい。
昭和 9年 100
昭和12年 110
昭和15年 180
昭和19年 210
昭和20年 250
昭和21年 400
昭和22年 2500
昭和23年 8000
昭和24年 19000
昭和25年 23000
昭和26年 30000
昭和27年 36000
昭和28年 35000
う~ん、確かに100倍だあ。。
それと、昭和16年当時は……。
あ! 東京市になっている!

東京市って???
当時の東京府の中の市らしい。
ほーっ。
廃藩置県で県ができたけど、その時は現在の都道府県と同じではない。
現在に至るまで、統合あり、分離あり。
神奈川県にしても、小田原県や荻野山中県というのがあった。
東京も15区から35区、そして今の23区と市町村へと変遷。
次回はちょっとその辺に触れてみよう。
ではでは!
【再掲載】 天使の忘れもの - 2013.09.07 Sat
あー、アタマがいたい~。
急に涼しくなって寝冷えしたかな???
もう、朝晩は秋ってカンジですね。
さて、最近はオムライスを食べに行けていないのだけど、今までレポした中で一押しのが、食べレポ第6回の鎌倉にあるLa plata(ラ・プラタ)。

雰囲気もいい。店内がクリスマス一色で、ドアを開けると異次元空間。
夏の終わりをしのんで、その店で思いついた夏の夜の夢的ストーリを再掲します。
すでに読んでいただいている方には申し訳ありません。もう一度おつきあいください。

天使の忘れもの
小さい頃の記憶は現実なのか夢の中のことなのか境界があいまいで、夢で見たことを本当にあったことと思い込み、大人になってもそれを実際の出来事だと信じ込んでいることがある。
でもそれは、小さい頃に限ったことではないのでは。
夢のような本当の話。本当のような夢の話。
もしかしたら現実と夢の世界に境界なんてなく、気がつかないうちに人はそこを行き来しながら生きているのかもしれない。
「ほら、この店」
夏の夕方が日の入りを躊躇する頃、慎司は、真っ白いワンピースと麦わら帽子を身にまとった晴香と一緒にラ・プラタに向かう階段の前に立った。
「きっと要望に合うはずだよ」
「松橋くん?」
2週間ほど前の朝、いつもと同じ通勤電車のいつもと同じ席に座った慎司の前に、ミュールを履いた透き通った足が現れた。
寝ぼけ眼で、ゆっくりと頭を上げ、足の持ち主の顔を見上げる。
慎司を見ながら微笑む女性。
ビデオカメラの焦点が合うように、やがて慎司の記憶の焦点が定まった。
「あ、えっ、なんで……」
微笑みながら黙ってうなずくと、女性は
「隣、座ってもいい?」
そう言いながら慎司の隣に腰掛けた。
10年ぶりの再会だった。
「戻って来てたの?」
中学の途中で日本を離れた晴香に向かって、慎司が言う。
「うん、たまたまね。またすぐ帰るんだけどね」
初めて付き合った相手との、再会。
偶然というのは突然にやってくる。たまたまわずかしか帰ってきていない晴香に、この時間のこの車輌のこの席で会うなんて。
再会を喜ぶ黒目がちの大きな目。
さらさらとした長い髪。
きちんと両膝に置かれた小さな手。
品のある落ち着いた声。大人になった晴香をちらちらと見やる慎司の中から、美しい思い出が堰を切ったようにあふれ出す。
あふれ出すのは思い出だけではなかった。
嫌いで別れたわけではない。物理的な距離は、まだ幼い二人には遠すぎた。
満員電車の空間が、隣に座る晴香と二人しかいない観覧車の中のような錯覚に陥る。
思いが、10年前に飛び込んでいく……。
「もしよかったら、連絡先とか教えてもらえない?」
そんな慎司の言葉に戸惑いの表情を浮かべると、晴香は
「ごめんなさい。私、携帯持ってないし、連絡先はちょっと……」
申し訳なさそうにそう答えた。
「そうなんだ。わかった。じゃあ、ボクは毎日この席に座っているから、時間があったらまた会いたいな」
やがて慎司の降りる駅が近づいてきた。
しばしの沈黙ののち、晴香がつぶやく。
「私も会いたい……」
どこか憂いをたたえた声だった。
「ねえ、ひとつお願いがあるの」
席を立とうとする慎司に向かって、意を決したような表情(かお)で晴香が言う。
「どこかで、あのときのクリスマスの続きがしたいなあ。私、2週間後にまたこの電車に乗る用があるから……そのときに会えたら」
ラ・プラタの前に立った慎司は、優しく晴香の手を取り、階段をのぼった。
「なんかわくわくする」晴香の嬉しそうな声が壁に響く。
「じゃあ、入ろうか」そう言いながらドアを開ける慎司。
その瞬間、一面クリスマスの世界が飛び込んで来た。
「すごーい」大きな目を更に大きくしつつ、それ以上は声にならない晴香。
お客さんのいない静かな店内は、優しく暖かい雰囲気に包まれている。
奥のテーブルに着くと、二人はグラスワインと天使のオムライスを注文した。
「これ、そっちに置いといて」
甘えた声で麦わら帽子を差し出す晴香。それを受け取りながら思わず笑がこぼれる慎司の前を、晴香のつややかな髪の香りと温もりが通り過ぎる。
「こんなとこあったんだあ……」キラキラと輝く晴香の目は、あたりを見回した。
「探したよ、夏にクリスマスができるところ」
「ごめんね、わがまま言って」
「ううん」慎司はゆっくりと首を横に振って続けた。
「神様はボク達を見捨てなかったね。だって、ボクもあの時の続きがしたかったんだから……」
中学2年のクリスマスイブ。この日、慎司と晴香は、近所の教会のクリスマスパーティーにクラスの仲間と参加していた。照明は落とされ、ほのかなキャンドルの踊りでパーティーは進んでいく。キリスト教のことはわからないが、パイプオルガンの音色にあわせてみんなで歌う賛美歌に、二人は厳かなものを感じていた。
そんな中、キャンドルの向こうから晴香が慎司に耳打ちをする。
「ねえ慎司、結婚式ごっこしない。ほら、汝はこの者を妻としてって言うでしょ。あれやろうよ……」
「いいよ」一瞬とまどったが、慎司は頷いた。
と、その時
「ではみなさん、席を変えて他の方々とお話しましょう」
主催者の声が響いた。
結局そのとき、晴香の要望が実現することはなかった。
「では、カンパーイ」
ワイングラスを重ねる二人。
「あの時はりんごジュースだったね」
二人の笑顔があふれる。
「そうだったね……。ねえ、続きをしようか」
♫ Silent night, holy night! All is calm, all is bright.……
「きよしこの夜」が流れる店内は、静粛な空気に包まれている。
「じゃあ私からね。松橋慎司。汝はこの者を妻とし、健やかなるときも病める時も、生涯変わらぬ愛を誓いますか」
「……はい、誓います……。じゃあ、次はボク。青山晴香。汝はこの者を夫とし、健やかなるときも病める時も、彼を愛し、彼を助け、生涯変わらぬ愛を捧げ続けることを誓いますか」
「・・・はい、誓います」
粛々と、二人の時間は流れて行く。
♫ I‘m dreaming of a white Christmas ……
「うそでもいいから、慎司には一度言ってほしかったんだ。ずっとそれを思ってたの。それと、ここって、なんかお母さんのお腹の中にいるみたいですごく安心する……」
曲が「ホワイトクリスマス」に変わった頃、天使のオムライスを口にしながら晴香が言う。
「ありがとう、慎司、私のために。これで思い残すことなく帰れるわ。私、すごく幸せよ……」
「今度はいつ戻って来られるの?また会えるよね」
黙って首を横に振る晴香。笑をたたえた潤んだ瞳の中で、照明がゆらゆらと揺れている。

その夜、眠りについた慎司は、遠くから聞こえる晴香の声を耳にした。
「さよなら、慎司」
ふと、窓の外を眺める。
トナカイが牽くそりが、澄み渡る天空に向かって駆け上がって行く。
そこには、まるでウェディングドレスか羽のついた天使の服のような真っ白いワンピースに包まれ、麦わら帽子が飛ばないように片手で頭をおさえながら、一方の手を大きく振る晴香の姿があった。
それを優しく見守り、手を振り返す慎司。
ラ・プラタのときと同じ麦わら帽子からのつややかな髪の香りが、そよ風に乗って慎司の元に届く。
ありがとう、晴香。君は遠いところから、わざわざボクに会いに来てくれたんだね。
あ、忘れ物……。
慎司は天使のオムライスを前に二人で撮った写真を取り出し、紙飛行機にして飛ばした。
紙飛行機は、スローモーションのようにゆっくりと、でも確実に、晴香の元へと飛んで行く。
また出会ったら、今度こそ一緒になろうね。
やがて小さくなったそりはひとつの光になり、ベガ、デネブ、アルタイルの夏の大三角形の中に吸い込まれ、静かに消えて行った。
おわり

急に涼しくなって寝冷えしたかな???
もう、朝晩は秋ってカンジですね。
さて、最近はオムライスを食べに行けていないのだけど、今までレポした中で一押しのが、食べレポ第6回の鎌倉にあるLa plata(ラ・プラタ)。

雰囲気もいい。店内がクリスマス一色で、ドアを開けると異次元空間。
夏の終わりをしのんで、その店で思いついた夏の夜の夢的ストーリを再掲します。
すでに読んでいただいている方には申し訳ありません。もう一度おつきあいください。

天使の忘れもの
小さい頃の記憶は現実なのか夢の中のことなのか境界があいまいで、夢で見たことを本当にあったことと思い込み、大人になってもそれを実際の出来事だと信じ込んでいることがある。
でもそれは、小さい頃に限ったことではないのでは。
夢のような本当の話。本当のような夢の話。
もしかしたら現実と夢の世界に境界なんてなく、気がつかないうちに人はそこを行き来しながら生きているのかもしれない。
「ほら、この店」
夏の夕方が日の入りを躊躇する頃、慎司は、真っ白いワンピースと麦わら帽子を身にまとった晴香と一緒にラ・プラタに向かう階段の前に立った。
「きっと要望に合うはずだよ」
「松橋くん?」
2週間ほど前の朝、いつもと同じ通勤電車のいつもと同じ席に座った慎司の前に、ミュールを履いた透き通った足が現れた。
寝ぼけ眼で、ゆっくりと頭を上げ、足の持ち主の顔を見上げる。
慎司を見ながら微笑む女性。
ビデオカメラの焦点が合うように、やがて慎司の記憶の焦点が定まった。
「あ、えっ、なんで……」
微笑みながら黙ってうなずくと、女性は
「隣、座ってもいい?」
そう言いながら慎司の隣に腰掛けた。
10年ぶりの再会だった。
「戻って来てたの?」
中学の途中で日本を離れた晴香に向かって、慎司が言う。
「うん、たまたまね。またすぐ帰るんだけどね」
初めて付き合った相手との、再会。
偶然というのは突然にやってくる。たまたまわずかしか帰ってきていない晴香に、この時間のこの車輌のこの席で会うなんて。
再会を喜ぶ黒目がちの大きな目。
さらさらとした長い髪。
きちんと両膝に置かれた小さな手。
品のある落ち着いた声。大人になった晴香をちらちらと見やる慎司の中から、美しい思い出が堰を切ったようにあふれ出す。
あふれ出すのは思い出だけではなかった。
嫌いで別れたわけではない。物理的な距離は、まだ幼い二人には遠すぎた。
満員電車の空間が、隣に座る晴香と二人しかいない観覧車の中のような錯覚に陥る。
思いが、10年前に飛び込んでいく……。
「もしよかったら、連絡先とか教えてもらえない?」
そんな慎司の言葉に戸惑いの表情を浮かべると、晴香は
「ごめんなさい。私、携帯持ってないし、連絡先はちょっと……」
申し訳なさそうにそう答えた。
「そうなんだ。わかった。じゃあ、ボクは毎日この席に座っているから、時間があったらまた会いたいな」
やがて慎司の降りる駅が近づいてきた。
しばしの沈黙ののち、晴香がつぶやく。
「私も会いたい……」
どこか憂いをたたえた声だった。
「ねえ、ひとつお願いがあるの」
席を立とうとする慎司に向かって、意を決したような表情(かお)で晴香が言う。
「どこかで、あのときのクリスマスの続きがしたいなあ。私、2週間後にまたこの電車に乗る用があるから……そのときに会えたら」
ラ・プラタの前に立った慎司は、優しく晴香の手を取り、階段をのぼった。
「なんかわくわくする」晴香の嬉しそうな声が壁に響く。
「じゃあ、入ろうか」そう言いながらドアを開ける慎司。
その瞬間、一面クリスマスの世界が飛び込んで来た。
「すごーい」大きな目を更に大きくしつつ、それ以上は声にならない晴香。
お客さんのいない静かな店内は、優しく暖かい雰囲気に包まれている。
奥のテーブルに着くと、二人はグラスワインと天使のオムライスを注文した。
「これ、そっちに置いといて」
甘えた声で麦わら帽子を差し出す晴香。それを受け取りながら思わず笑がこぼれる慎司の前を、晴香のつややかな髪の香りと温もりが通り過ぎる。
「こんなとこあったんだあ……」キラキラと輝く晴香の目は、あたりを見回した。
「探したよ、夏にクリスマスができるところ」
「ごめんね、わがまま言って」
「ううん」慎司はゆっくりと首を横に振って続けた。
「神様はボク達を見捨てなかったね。だって、ボクもあの時の続きがしたかったんだから……」
中学2年のクリスマスイブ。この日、慎司と晴香は、近所の教会のクリスマスパーティーにクラスの仲間と参加していた。照明は落とされ、ほのかなキャンドルの踊りでパーティーは進んでいく。キリスト教のことはわからないが、パイプオルガンの音色にあわせてみんなで歌う賛美歌に、二人は厳かなものを感じていた。
そんな中、キャンドルの向こうから晴香が慎司に耳打ちをする。
「ねえ慎司、結婚式ごっこしない。ほら、汝はこの者を妻としてって言うでしょ。あれやろうよ……」
「いいよ」一瞬とまどったが、慎司は頷いた。
と、その時
「ではみなさん、席を変えて他の方々とお話しましょう」
主催者の声が響いた。
結局そのとき、晴香の要望が実現することはなかった。
「では、カンパーイ」
ワイングラスを重ねる二人。
「あの時はりんごジュースだったね」
二人の笑顔があふれる。
「そうだったね……。ねえ、続きをしようか」
♫ Silent night, holy night! All is calm, all is bright.……
「きよしこの夜」が流れる店内は、静粛な空気に包まれている。
「じゃあ私からね。松橋慎司。汝はこの者を妻とし、健やかなるときも病める時も、生涯変わらぬ愛を誓いますか」
「……はい、誓います……。じゃあ、次はボク。青山晴香。汝はこの者を夫とし、健やかなるときも病める時も、彼を愛し、彼を助け、生涯変わらぬ愛を捧げ続けることを誓いますか」
「・・・はい、誓います」
粛々と、二人の時間は流れて行く。
♫ I‘m dreaming of a white Christmas ……
「うそでもいいから、慎司には一度言ってほしかったんだ。ずっとそれを思ってたの。それと、ここって、なんかお母さんのお腹の中にいるみたいですごく安心する……」
曲が「ホワイトクリスマス」に変わった頃、天使のオムライスを口にしながら晴香が言う。
「ありがとう、慎司、私のために。これで思い残すことなく帰れるわ。私、すごく幸せよ……」
「今度はいつ戻って来られるの?また会えるよね」
黙って首を横に振る晴香。笑をたたえた潤んだ瞳の中で、照明がゆらゆらと揺れている。

その夜、眠りについた慎司は、遠くから聞こえる晴香の声を耳にした。
「さよなら、慎司」
ふと、窓の外を眺める。
トナカイが牽くそりが、澄み渡る天空に向かって駆け上がって行く。
そこには、まるでウェディングドレスか羽のついた天使の服のような真っ白いワンピースに包まれ、麦わら帽子が飛ばないように片手で頭をおさえながら、一方の手を大きく振る晴香の姿があった。
それを優しく見守り、手を振り返す慎司。
ラ・プラタのときと同じ麦わら帽子からのつややかな髪の香りが、そよ風に乗って慎司の元に届く。
ありがとう、晴香。君は遠いところから、わざわざボクに会いに来てくれたんだね。
あ、忘れ物……。
慎司は天使のオムライスを前に二人で撮った写真を取り出し、紙飛行機にして飛ばした。
紙飛行機は、スローモーションのようにゆっくりと、でも確実に、晴香の元へと飛んで行く。
また出会ったら、今度こそ一緒になろうね。
やがて小さくなったそりはひとつの光になり、ベガ、デネブ、アルタイルの夏の大三角形の中に吸い込まれ、静かに消えて行った。
おわり
