【再掲載】 Indah Bali - 2015.03.20 Fri
オープン戦たけなわ、プロ野球の開幕ももうすぐ。
その前に、春の選抜高校野球がもうすぐ始まります。
今日は、パセラ横浜関内店にあるIndah Baliを舞台とした野球関係のストーリーの再掲載です。
子供たちに、夢を……。
横浜でバリ島気分でオムライス

さて、どこに行こうかな。
うん、オムライスの写真を見て、「お、美味そう!」って直感で反応したところにしよう。
そんなルーレット気分でネットを検索。
検索すればするほど次から次へと現れるオムライス。
すげー、改めてオムライスの多さにびっくり。
いくら行ってもきりがないよ~、って、もぐらたたきじゃないんだから……。
ということで、いくつかピックアップしたうちのひとつに決めた。
今回は、羽衣町3丁目の交差点のすぐそばにあるIndah Bali(インダバリ)を訪問。
駅からの距離で言うと、関内駅と伊勢佐木長者町駅から、ともに5分くらいかな。
Indah Baliは、パセラ横浜 関内店の1階にある。
1階がインドネシア雑貨売り場と今回の目的の、カフェIndah Bali。
2階がレストラン。
3~4階が貸切パーティー会場。
5~6階がカラオケ。
7階がビリヤード&ダーツバー。
入口を入ると総合案内があり、そこにいらっしゃるきれいなお姉さまに「お好きな席にどうぞ」と誘導され、窓際の席を選択。
さてさて、メニューを……。
ん? あれ? オムライスは……?

「すみません、オムライスありますか?」
「あ、大丈夫ですよ。メニューにはないんですけど」
どうやら、食事を作っているのは2階のレストランで、レストランの営業は17:00から。
逆に1階の喫茶は17:00までで、オムライスはメニューにはないけど食べられるらしい。
う~ん、ネット検索で知っててよかった。
土曜の昼下がりだけど、店内はすいている。
席もゆったりとしていて、全体的に開放的な作りで落ち着ける。
水槽の熱帯魚も癒してくれるし、この店はとてもいい雰囲気かもしれない……。
しばらくして、もうひとりのきれいなお姉さまがオムライスを運んできてくれた。
うんうん、この店はとてもとてもとてもいい雰囲気かもしれない。
さて、オムライス。
とろとろ玉子のデミグラスオムライス830円。

カレーのように、ご飯とソースが分かれている。これはこれで美しい。
それと、チキンライスの中には、緑、赤、黄色のピーマンがまぶされていて、これもトロピカルっぽくてきれい。

味も美味しい。
しゃきしゃきのご飯がチキンとマッチしていい感じ。卵がちょっと少ないかなあ……。
ボリュームは普通だけど、チキンの歯ごたえが満腹感を与えてくれる。
Indah Baliがあるパセラリゾーツは、「癒し」と「寛ぎ」をテーマとしたエンターテイメント施設として銀座、六本木、赤坂、渋谷など、都内を中心に展開している。
横浜はここの関内店と、もうひとつ横浜駅西口にある。
いろいろと遊べそうだし、休日、伊勢佐木町での買い物の帰りなどに「とっても近場のバリ島気分」でゆったりと過ごすのも楽しいかもしれない。
トゥリマ カスィ バニャッ ( どうもありがとう )!
2013年2月16日
■ 店舗情報 ■
・住所:神奈川県横浜市中区末広町3-95 パセラリゾーツ
・電話:0120-911-753
・営業時間:11:30~翌朝8:00
・定休日:なし
Indah Bali 食べログ情報
Indah Bali 横浜関内店 (タイ料理 / 伊勢佐木長者町駅、関内駅、日ノ出町駅)
白球は海をこえて
「バリってどこだっけ?」
パセラリゾーツ関内の入口を抜けると、バリの雑貨が並ぶ一角を見ながら変声期をむかえたクオンがつぶやいた。
「バリはね、インドネシアだよ」
息子の健司と、息子の少年野球仲間の翔とクオンの3人の少年を引き連れた正夫が呼応する。
「首都のジャカルタがあるジャワ島の隣りにある小さな島。クオンの故郷のベトナムよりもっと南にあるんだ」
「へえー、めちゃくちゃ暑そー」そう言う健司に
「甲子園の方が暑いよ」翔が真顔で反応する。
「ははは、そうだよな。身も心も甲子園はアツイところだ。3人で行くんだもんな、甲子園!」
正夫は3人の肩を抱き寄せ、大声で笑った。
「はじめまして、グエン ティン クオンです。ベトナム人です。でも、ベトナム語は話せません」
3年前、クオンは正夫がコーチとして携わる地域の少年野球チームに入団した。正夫が勤務する町工場の同僚の息子で、彼の類希なるバネの効いた走りに一目惚れした正夫が入団を奨めたのだった。
きっとこの子は、ものすごい選手になる。
ただし、致命傷になりかねない弱点を克服できれば……。
永年少年野球に携わってきた直感がささやく。
正夫の読み通り、クオンはすぐに頭角を現した。
もともと器用な上に、もの覚えも早い。小学6年にして175センチを超えたしなやかな体から繰り出される速球は、とても小学生では打てるものではない。
硬式少年野球チームからの誘いもかかり、中学からは地元神奈川の強豪、浜南ボーイズへの入団も決まっている。
いや、正確には、決まっていたと言うべきかもしれない。
順調に育ってきている、そう思っていた。
この子なら、全国制覇も夢ではない、そう確信していた。
が、その矢先、2ヶ月ほど前。
恐れていたことが、現実になった。
全日本学童軟式野球大会神奈川県予選の決勝戦。
クオンの速球が冴えまくり、3-0で最終回をむかえた。ここまで内野安打2本。ほぼ完ぺきに近い。
「よし、クオン、意識しないでいつも通りに行こう」
キャッチャーの健司が声をかける。
「うん、大丈夫」
そう頷くクオンの表情(かお)は、自信に満ちあふれている。
最初のバッターは、簡単に三振に打ち取った。
あとふたり。OK、もう間違いない!
みんながそう思った。
インコース高めのストレート。
健司のサインに頷き、クオンはゆっくりと振りかぶる。
土を蹴った長い脚が高々と上がり、獲物をしとめる目が、ぶれることなくまっすぐに健司の構えるミットを見据える。
そして、全身の力をためたムチのような腕が、大きくしなる。
と、そのとき……。
「きやがれ、ベトナム野郎!」
バッターが、突然、大きな雄叫びをあげた。
流れるようなフォームを演出するクオンの体が、一瞬で凍りつく。
ベトナム野郎。
ベトナム野郎。
トラウマが……。
消し去ったはずのトラウマが、眠りから覚めた野獣のごとく牙をむく。
「来るんじゃねーよ、ベトナム野郎。難民は帰れ! 汚いのがうつるだろ」
幼児の頃は、自分が日本人ではないことなんかまったく気にならなかったクオンだが、大きくなるにつれ、心無い言葉を浴びせられることが多くなった。
昔は仲よく遊んでいた友達も、いつのまにか離れて行く。
なぜ?
ボクのどこがいけないの?
なんでボクは日本人じゃないの?
ベトナム人ならベトナムに引っ越そうよ。
親を問い詰めもした。
ベトナム難民の血を引く両親は、そんなクオンに、
「私たちはここで生きるしかないの、強くなって、クオン」
ただただ同じ言葉を繰り返すしかすべがなかった。
クオン ―― 日本語にすると”強い”を意味する。
「強い男に」との思いでつけられた名前だ。
しかし、その名前とは裏腹に、もともと引っ込み思案な性格がクオンの弱さを増長させて行く。
日々、ひとりでぽつんと過ごすクオン。
このままでは本当にまずいことになる。そう考えた両親は、仕事も変え、ベトナム人が多く住む横浜の一角に移り住むことを決断した。
正夫から野球の誘いがかかったのはそんなときだった。
チームワークを教え込まれたメンバーは、何の違和感もなくクオンを温かく受け入れてくれた。
これには、最初は入団をためらっていたクオンも驚いた。
もう、トラウマも甦ることはないだろう。
この日まで、この日のこの瞬間まで、みんながそう信じていた。
きやがれ、ベトナム野郎!
クオンの投じたボールは、バッターへと向かって飛んで行く。
あっ、と思った瞬間、ボールはバッターの脇腹に当たった。
「デッドボール!」
審判が試合を止める。
「ううう……」
苦しそうに顔をしかめるバッター。
クオンの顔から、見る見る血の気が引いていく。
「くそー、わざと当てやがったな。きたねーぞ、ベトナム野郎」
バッターボックスでうずくまるしかめっ面が、クオンをにらむ。
違う、わざとじゃない。
ベトナム野郎。
きたない。
「すみません」とバッターにお辞儀をした健司が、あわててクオンの元に駆け寄ってくるのがぼんやりと見える。
わざとじゃない。
ベトナム野郎。
「クオン、落ち着け。大丈夫だ。点差もある」
健司の言葉が、そよ風のように耳を通り抜けて行く。
「大丈夫、クオン、自分を信じろ!」
それから後のことを、クオンはよく覚えていない。
気が付いたら、スコア―ボードの7回表に刻まれた”8”の文字を、ベンチの椅子でぼんやりと眺める自分がいた。
そして、それ以来、クオンはボールを投げられなくなった。
「イップスですね」
医者の人工的な声が平然と残酷な言葉を発した。
イップスとは、精神的な原因で思うような動作ができなくなる運動障害だ。
よりによって……。
恐れていたクオンの精神的な弱さが、最悪の形になって表れた。
「2階のレストランは17時からなんだ。1階で食べられるので、ここで食べよう」
正夫は子供たちをインダバリのテーブル席に着くように促した。
「さあ、思い切り大きな声で応援できるように、美味しいオムライスを食べてそれから横浜スタジアムに行こう!」
「え、ここでもオムライス食べられるの?」
オムライスに目がないクオンの目が、真ん丸になった。
「インドネシアの食べ物しかないのかと思ってた!」
「びっくりだろ。ここではいろいろな国の料理が食べられるんだ。ベトナム料理もあるんだぞ。日本の料理もベトナムの料理も一緒に食べられる。日本人だろうがベトナム人だろうが一緒だ。命あるひとりの人間なんだ」
正夫は総合案内と給仕を兼ねる女性を呼び、オムライスを4つ注文した。
店内の水槽では、熱帯魚が悠然と泳いでいる。
切り出すタイミングは今かな……。
その姿をながめながら、正夫は優しくクオンに話しかけた。
「なあクオン、もう一度チャレンジしてみないか、野球?」
「やろうよ、クオン」
「大丈夫だよ。お前はすげーんだから」
事前の打ち合わせ通りに、健司と翔が追従する。
これから多感な時期を迎える少年には、辛いこともきっと沢山出てくるだろう。でもそれは、何の因果か、クオンが神様に与えられた試練だ。
それに、そういった辛い経験をすればするほど、大きく成長する。
逆に、ここで逃げたらお終いだ。
早いうちに障害にぶつかったのも、前向きに捉えれば良かったのかもしれない。
持って生まれた才能を生かすも殺すも、まだこれからだ。
両親以外でこの子を成長させてあげられるのは自分しかいない。
ぼんやりと窓の外に目をやるクオンを見ながら、正夫はそんなことを思っていた。
「ボクさあ、一度ベトナムに行ってみたいなあ」
クオンがぽつりとつぶやいた。
「ベトナム人なのに、ベトナム語も話せないし、ベトナムに行ったこともない。でも、みんなはぼくのことをベトナム人って目でしか見ない。だから一度、ベトナムに行ってみたい。そうしたら、何かが変わるような気がする……」
「そうだよな……。ねえ、みんなで行ってみようよ」
健司が同意を促す。
「オレも行ってみたいな。クオンの故郷を見てみたい。ベトナムでも野球やってるのかなあ?」
うきうきした表情を浮かべた翔が尋ねる。
「うん、正式な団体はないけど、日本人もベトナムに行って普及させているようだよ」
「え、そうなの?」
クオンの目が輝く。
「クオン、ベトナムに行ってみよう。大勢のベトナム人にお前の速球を見せてあげよう! 君と翔のお父さんお母さんには話をしてみるよ」
ここぞとばかりに、正夫が畳み掛ける。
「おまたせいたしました」
やがて出来たてのオムライスが到着した。
「わー、美味しそう!」
「すげー、なんかソースとご飯が分かれててカレーみたい!」
子供たちがうれしそうにはしゃぐ。
よし、行ける!正夫の直感がささやく。
「みんなで誓った約束を実現させようじゃないか。甲子園に行ってプロになる。な!」
「もちろん!」
「その前にベトナムだよね」
「いや、その前に今日の横浜DeNA VS 巨人だよ」
「そりゃそうだ」
「なんかすごく美味しいんだけど」
「お前のお母さんのオムライスの次くらいかな」
「やっぱ、オムライスを食べると元気が出るなあ!」
笑顔を取り戻したおだやかな午後の時間が、ゆっくりと過ぎて行く。
「ボク、明日からまた練習するよ。で、ベトナムでみんなにボクのボールを見せるんだ。うん、今なら投げられるような気がする」
「久しぶりなんだから、最初から飛ばすなよ!」
野球に国境はない。
差別もない。
白球は世界をつなぐ共通言語だ。
みんなの心の中に、夢を乗せたけがれなき同じひとつの白球が、高々と舞いあがった――。