2013
03.18

番外編:突っ走れ!

Category: 競馬関連
 自分の人生をどうとらえ、日々をどう生きて行くか。

 周りに何と言われても、自分を貫き通し明日に向かって突っ走る。そんなことを教えてくれた馬がいる。

 その馬の名は、ツインターボ。

 馬は臆病な生き物である。
 馬の近くに行ったことがある方ならおわかりだと思うが、近づくと、目と一緒に耳がその方向を向く。

“なになに、どうするつもり……”

 じっと見つめて警戒。いきなり後ろに回ろうものなら、”バシッ”って蹴られる。

 嬉しいときは尾や頭を振る。とてもわかりやすい。
 馬が“大丈夫、安心できる”って判断した人には、馬の方から頭をすり寄せてくる。そして、そっと首筋をなでると、気持ちよさそうに黒目勝ちのつぶらな瞳を細める。

 競走馬とて同じ。
 競馬は馬が集団となって走って行く競技なのだが、この ”集団” が馬にとっては怖かったりする。
 もちろん、人間と同じように馬にも性格の違いはある。だから、怖がりの度合いも違う。

 1991年3月2日にデビューしたツインターボは、とてつもなく怖がりの馬だった。
 410キロ~420キロ程度の小さな体で、馬群の中に入ってしまっては体がすくんでとてもレースにならない。

 極度に怖がりで場群に入れない馬。
 さて、どんな作戦をとったらよいか……?

 結論、スタートから先頭に立って逃げること。
 先頭で走っていれば、馬群につつまれることはない。

 そもそも”ツインターボ”というのは、クルマのエンジンに”ターボチャージャー”を2つ着けたものを言う。排気量以上のパワーを出すために高性能車に装着され、背中を座席に押し付けられるような加速を味わうことができる。飛行機が離陸する時、滑走路を走り出して、ノロノロ走行から”キーン”という音とともに一気に加速するときを思い浮かべてもらいたい。それと同じだ。

 名は体を表すとは、まさにこの馬のためにあるようなものだ。ターボエンジンの加速で先頭に立ち、そのままゴールする。
 そんな作戦でむかえたデビュー戦。3番人気に支持され、2着に3馬身差をつけて勝利!2戦目も、7番人気ながらこれまた2着に11/2馬身差で先頭をきってゴール!
 逃げる作戦は、見事大成功。その後、重賞のラジオたんぱ賞も手に入れ、順調に上位へと進んで行く。

 しかし、勝ち上がるに連れ、彼の中で何かが弾けたのだろう。

 スタートしたら猛スピードで突っ走る。
 とにかく、全速力で逃げて逃げて逃げまくる。

 逃げ方が尋常ではなくなったのだ。
 まるで何かにとりつかれたような、狂気の走り。

 通常、レースには、マラソンに代表されるようにペースがある。
 ハイペース。スローペース。それにあわせて駆け引きを行い、先頭でゴールすることを考える。

 しかし、彼にとってはそんなのは関係ない。

 10馬身、15馬身、20馬身。……。
 どんどん他を引き離して行く。

 そして、その結末はいつも決まっていた。
 エネルギーはレース半ばで切れ、次々と皆に抜かれた挙句、疲れ果てた姿でゴールイン。

 1番人気に支持された福島民友カップでは、なんとシンガリ負け。つまり最下位だった。

 最初は笑いの種でしかなかったが、そんな走りはやがて多くのファンを引きつけることになる。

「いけー、ツインターボ!」

 人は、社会の枠を逸脱しては生きていかれない。
 世の中の常識や良識の中で、周りに気を遣いながら抑制して生きている自分がいる。
 自分が何者なんだかわからない中、時間は過ぎ、悪戯に年を重ねる。

 そんな、多くの人が感じていながら表に出すことができない閉塞した社会のストレスを、彼の走りは解消してくれた。

 後先考えずに突き進むツインターボ。もはや勝ち負けなどは関係ない。

 1994年12月25日。競馬ファンが年末の夢を買う、競馬の祭典有馬記念。
 ファン投票で選出されたこのレースが、千両役者ツインターボのにとっての最後の花道だったと思う。
 1番人気は、時代の最強馬ナリタブライアン。もちろん、よほどのことがない限り、その勝ちは揺るがない。
 このままでは面白くも何ともないレース。そう、お祭りの味付けにはツインターボの大逃げが必要である。

 ゲートが開き、13頭立てのスタートが切られた!
 先頭に出ようとするナリタブライアン。
 決して許すまいと、期待通りにそれを追い抜くツインターボ。

 有馬記念は2500メートルの長距離戦である。力を蓄えるために、ただでさてペースは遅くなる。
 しかし、そんなことなどおかまいなしに、がむしゃらに走るツインターボ。見る見るナリタブライアン以下の後続を突き放して行く。

 集団が1コーナーを回る頃、1頭だけ、早くも2コーナーを回り向こう正面に差しかかる。
 その差は40メートルも、50メートルも……。

 どよめきと歓声がこだまする。

「いいぞー、ツインターボ!」
「そのまま行っちゃえー!!」

 やがて3コーナーに差しかかるころ、案の定、ツインターボのガソリンメーターはいつものようにエンプティ―を示した。
 ターボ逆噴射。
 あっという間に集団がツインターボを飲み込んで行く……。

 次の瞬間、集団は、ツインターボを置き去りにした。

 他の馬が次々とゴールを駆け抜けて行く中、1頭だけ歩くようにゴールを目指す。
 やがて大観衆の中を、やっとのことでゴールイン……。

 1着ナリタブライアン。タイム、2分32秒2。
 2着ヒシアマゾン。タイム、2分32秒7。1着との差は3馬身。
 間をおいて、最下位、ツインターボ。タイム、2分37秒2。前の馬、つまり12着の馬との差、大差。
大差とは、10馬身以上離されたことを示す、屈辱的な記録である。

 ファンとは、ときに冷徹で、そしてときに優しいものだ。
 最後まで走り切ったツインターボに、惜しみない拍手が贈られた。
「よくガンバったぞ!」

 だがこの走りで燃え尽きたのか、翌年になると、ツインターボはもうスタートダッシュもままならない状態になっていた。

 そして1995年5月の新潟大章典を最後に、彼は中央競馬を離れ山形県の上山競馬場へと移籍。しばらくして、ひっそりと引退した。

「さあ、4コーナーを回った。先頭はツインターボ。ターボ全開でぶっちぎりか!どの馬もついてこれません!これは速い!春の天皇賞馬のライスシャワーも、桜花賞馬のシスタートウショウも、ツインターボの影さえ踏めないのか!さあ、ツインターボ、今、1着でゴールイン!なんと2着のハシルショウグンに5馬身差の圧勝だあ!オールカマーを制したのはツインターボです!」

 これは、彼の最高のレースだと思う1993年オールカマーの、ボクの頭の中での勝手な実況の再現だ。
 とんでもなく美しいレースだった。

 人生、闇雲に突っ走っても、成功するか失敗するかはわからない。
 いや、失敗する確率のほうが高いかもしれない。

 でも、失敗を恐れていたら、決して先へは進めない。
 とにかく突っ走る。
 怖いから突っ走る、それでもいいじゃないか。

 後戻りはできない人生。後悔は不要。後ろなんて振り向かない。

 結果たとえ負けたとしても、悔いと余力を残さずに完全燃焼する。これぞ人生。

 さあ、心にツインターボを搭載して、エンジン全開で明日に向かって突っ走ろう!

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