NOZOMI (再掲載) - 2014.02.25 Tue
うわあ、頭が痛いいい……
風邪かなあ???
花粉症かなあ???
ということで、スミマセン、今日は体調不良につき以前掲載したストーリーを再掲載します。
昨年の3月7日に書いたストーリー。
藤沢市の湘南台にあるペピタライオン (Pepita Lion)のオムライスを食べて思いついたものです。
NOZOMI
湘南台駅からバスで20分ほどの緑豊かな大学の入口に来ると、背筋をピンとさせ、希美は大きくひとつ伸びをした。
新学期が始まる前なので、まだ学生の姿はなく、辺りは閑散としている。それでも気持ちが高揚している希美には、楽しげにキャンパスに入っていく大勢の学生たちの姿がはっきりと見える。
みんなとはちょっと年が離れているけど、いいお姉さんになればいいんだもんね……。
「みんさ~ん、来週からよろしくね!」
誰もいない門に向って、大きな声で挨拶をする。
“こちらこそ!”
春を待ちわびた目の前に広がる森の木々が、元気に応えてくれる。
ふと空を見上げる。
青く突き抜ける空を、鳶が、悠然と旋回している。
さあ、いよいよ始まるわ、新しい生活が……。夢の、第一歩が……。
4年ほど前――。
希美を、突然異変が襲った。
激しいめまいと吐き気、それに頭痛がとれない。
もともと頭痛もちの希美は、最初は「またいつものことか」程度に受け止めていたのだが、いつまでたっても症状が変わらない。
おかしい……。
どういうこと?
私、いったいどうしたの?
脳腫瘍――、それが希美に伝えらえた診断結果だった。
希美なんて皮肉な名前よね……。
“世の中の不正を許したくないの”
そんな強い思いから弁護士の夢をめざして大学の法学部に通っていた希美から、正義感あふれる美しい希望が消えて行く。
おまけに高校生の時に、姉妹のように仲がよかった母親を病気で亡くした。
何で私だけこんなにつらい思いをしないといけないの……。
何で、何で私だけ……。

大学の正門の横に腰かけた希美は、カバンから小さなスケッチブックを取り出した。
しばらくの間じっと辺りの風景を見つめ、それをしっかりと目に焼き付ける。
やがて希美は、鉛筆でしなやかな線を描きはじめた。
一本、また一本。
自分の中にある心のフィルターを通し、感じたままを描く。
絵を描くのは昔から好きだった。
写実的な絵を描いていた希美の画風が変わったのは、腫瘍の手術後からだ。
目に焼き付けた、瞬間の景色を、心象風景に昇華させて描いていく。私を表現したい。みんなを表現したい。思い切り。今この瞬間を生きて在る、私を、みんなを……。
その日は、今でもはっきりと思い出せるくらい夕焼けがきれいな日だった。
「あれ? のぞみ……、ちゃん?」
手術の手続きを終え、病室の窓からぼんやりと夕景色を眺める希美の耳に、聞き覚えのある女性の透き通った声が響いた。
「あー、岩崎さん!」
「やっぱり希美ちゃんだったのね!」
思いがけないところでの3年ぶりの再会だった。
高校の帰りに、毎日、母親のお見舞いに病室に来ては明るく楽しげに学校での出来事を母親に話す希美。岩崎多恵は、そのときの担当看護師だった。
絶望に押しつぶされそうな小さな体をふるい立たせ、気丈に母親を励まし続けた希美。そんな希美を、多恵は励まし続けてくれた。
「岩崎さん、この病院に移ってたんですか?」
「そう、3か月前にここに来たの。びっくりよね、こんな偶然があるなんて……」
偶然なのか、それとも必然なのか、人生にはときどき何かに操られているかのような不思議な出来事がある。
「私の担当看護師が岩崎さんで、ホントよかった。なんだか私、ついてるわ」
手術の不安と闘う希美の心に、多恵は、安心をたたえた柔らかい風を送り込んでくれた。
「大丈夫よ希美ちゃん。何の心配もないわよ。あんなにお母さんのことを思って頑張ってた希美ちゃんのことを、神様が見放すはずないわ。それに、天国のお母さんが力をくれる」
多恵の言葉の通り、無事、手術は終わった。
病室で術後の養生をする希美に、多恵はいろいろな話を聞かせてくれた。
「希美ちゃんが美しい希望なら、私は恵みが多いようにってつけられた名前でしょ。う~ん、でも、そんなに多くの恵みはないかなあ……。あ、だけどね、この仕事をしていて思ったの。もしかして、多くの患者さんと話ができて、その人の人生に関わることができて、それこそ天が与えてくれた恵みなのかなって。心や体に傷を負っていても、一所懸命に今を生きようとしている患者さんに勇気づけられることも沢山あるわ。希美ちゃんは美しい希望を持ち続けて生きて行くのよ。自分の身に起きたことを恨んだりはしないで、今日を精一杯生きるの。お母さんもそれを望んでいるし、遠くて近いところでずっと見守っていてくれているのよ」
改めてまじまじと見ると、岩崎さんって、本当に綺麗な目をしている。
こんなに綺麗な目をした人、見たことがない……。
母親になりかわるように、優しい口調で、まるでオムライスのたまごのようにふんわりと包み込んでくれる多恵に、いつしか大きく引き込まれて行く自分がいた。

人の人生に関わる。
弁護士を目指していた希美にとっては、心から共感できることだった。
患者さんの人生に関わる……。それこそが恵み……。
多恵の言葉を反芻し、希美は自分の気持ちを落ち着いて振り返った。
私が目指してきたのは、もしかしたら机上の世界のことばかりだったのかもしれない。
法律を勉強し、それを武器に不正のない世の中を作る。それはそれで立派なことだとは自分でも思う。だけど、本当に喜ばれることって何だろう。人と人とのふれあいって何だろう……。
そして、
今を生きるって何だろう……。
生きていること。私も、みんなも……。
今、この瞬間を生きていること。
生きて、在ること--。
「退院おめでとう!」
多恵はお祝いに"希"の字を型どったネックレスをプレゼントしてくれた。
「ありがとうございます! 私、岩崎さんみたいになりたいって、本気で思います!」
「ありがとう。なんか照れるわねえ……。今度は外で紅茶でも飲みながら話ましょ」
スケッチは、間もなく完成をむかえようとしている。
新緑のキャンパスを颯爽と歩く学生たち。
どこまでも広がる空を自由に飛びまわる鳥たち。
その中を駆け巡る、ちょっといたずら好きのそよ風。
そう希美、このキャンパスで明るく、前向きに、今日を、今を生きるの。
そして夢をかなえるの。
このスケッチは、あなたが今を生きている証だから。
スケッチは、希美にそんなことを話しかけてくれる。
この辺だと、夜は星空もきれいなのかなあ……。
そういえば、最近、星空なんて全然みてないや……。
そうだ、帰りに湘南台文化センターのプラネタリウムに寄って帰ろう!昔、家族でよく遊んだもんなあ……。
それと、Pepita Lionでオムライスを食べよう!あそこのオムライス、お母さん、大好きだったよなあ……。
弁護士改め看護師の夢に向かって歩き始めた、みんなよりちょっと年上の看護医療学部1年生、沖田希美。
脳腫瘍がいつ再発するかはわからない。今でも、夜になるとひどい頭痛に悩まされることがある。再発したら、最悪失明するかもしれない。
でも、それも自分。自分を支えてくれる、かわいい自分の体。
この目にしっかりと、今を焼き付けるんだ。
最後の一筆を描き終わると、希美は、スケッチに2Bの鉛筆で力強くサインを書き込んだ。
NOZOMI
今、一枚のスケッチに、永遠の命が吹き込まれた――。
風邪かなあ???
花粉症かなあ???
ということで、スミマセン、今日は体調不良につき以前掲載したストーリーを再掲載します。
昨年の3月7日に書いたストーリー。
藤沢市の湘南台にあるペピタライオン (Pepita Lion)のオムライスを食べて思いついたものです。
NOZOMI
湘南台駅からバスで20分ほどの緑豊かな大学の入口に来ると、背筋をピンとさせ、希美は大きくひとつ伸びをした。
新学期が始まる前なので、まだ学生の姿はなく、辺りは閑散としている。それでも気持ちが高揚している希美には、楽しげにキャンパスに入っていく大勢の学生たちの姿がはっきりと見える。
みんなとはちょっと年が離れているけど、いいお姉さんになればいいんだもんね……。
「みんさ~ん、来週からよろしくね!」
誰もいない門に向って、大きな声で挨拶をする。
“こちらこそ!”
春を待ちわびた目の前に広がる森の木々が、元気に応えてくれる。
ふと空を見上げる。
青く突き抜ける空を、鳶が、悠然と旋回している。
さあ、いよいよ始まるわ、新しい生活が……。夢の、第一歩が……。
4年ほど前――。
希美を、突然異変が襲った。
激しいめまいと吐き気、それに頭痛がとれない。
もともと頭痛もちの希美は、最初は「またいつものことか」程度に受け止めていたのだが、いつまでたっても症状が変わらない。
おかしい……。
どういうこと?
私、いったいどうしたの?
脳腫瘍――、それが希美に伝えらえた診断結果だった。
希美なんて皮肉な名前よね……。
“世の中の不正を許したくないの”
そんな強い思いから弁護士の夢をめざして大学の法学部に通っていた希美から、正義感あふれる美しい希望が消えて行く。
おまけに高校生の時に、姉妹のように仲がよかった母親を病気で亡くした。
何で私だけこんなにつらい思いをしないといけないの……。
何で、何で私だけ……。

大学の正門の横に腰かけた希美は、カバンから小さなスケッチブックを取り出した。
しばらくの間じっと辺りの風景を見つめ、それをしっかりと目に焼き付ける。
やがて希美は、鉛筆でしなやかな線を描きはじめた。
一本、また一本。
自分の中にある心のフィルターを通し、感じたままを描く。
絵を描くのは昔から好きだった。
写実的な絵を描いていた希美の画風が変わったのは、腫瘍の手術後からだ。
目に焼き付けた、瞬間の景色を、心象風景に昇華させて描いていく。私を表現したい。みんなを表現したい。思い切り。今この瞬間を生きて在る、私を、みんなを……。
その日は、今でもはっきりと思い出せるくらい夕焼けがきれいな日だった。
「あれ? のぞみ……、ちゃん?」
手術の手続きを終え、病室の窓からぼんやりと夕景色を眺める希美の耳に、聞き覚えのある女性の透き通った声が響いた。
「あー、岩崎さん!」
「やっぱり希美ちゃんだったのね!」
思いがけないところでの3年ぶりの再会だった。
高校の帰りに、毎日、母親のお見舞いに病室に来ては明るく楽しげに学校での出来事を母親に話す希美。岩崎多恵は、そのときの担当看護師だった。
絶望に押しつぶされそうな小さな体をふるい立たせ、気丈に母親を励まし続けた希美。そんな希美を、多恵は励まし続けてくれた。
「岩崎さん、この病院に移ってたんですか?」
「そう、3か月前にここに来たの。びっくりよね、こんな偶然があるなんて……」
偶然なのか、それとも必然なのか、人生にはときどき何かに操られているかのような不思議な出来事がある。
「私の担当看護師が岩崎さんで、ホントよかった。なんだか私、ついてるわ」
手術の不安と闘う希美の心に、多恵は、安心をたたえた柔らかい風を送り込んでくれた。
「大丈夫よ希美ちゃん。何の心配もないわよ。あんなにお母さんのことを思って頑張ってた希美ちゃんのことを、神様が見放すはずないわ。それに、天国のお母さんが力をくれる」
多恵の言葉の通り、無事、手術は終わった。
病室で術後の養生をする希美に、多恵はいろいろな話を聞かせてくれた。
「希美ちゃんが美しい希望なら、私は恵みが多いようにってつけられた名前でしょ。う~ん、でも、そんなに多くの恵みはないかなあ……。あ、だけどね、この仕事をしていて思ったの。もしかして、多くの患者さんと話ができて、その人の人生に関わることができて、それこそ天が与えてくれた恵みなのかなって。心や体に傷を負っていても、一所懸命に今を生きようとしている患者さんに勇気づけられることも沢山あるわ。希美ちゃんは美しい希望を持ち続けて生きて行くのよ。自分の身に起きたことを恨んだりはしないで、今日を精一杯生きるの。お母さんもそれを望んでいるし、遠くて近いところでずっと見守っていてくれているのよ」
改めてまじまじと見ると、岩崎さんって、本当に綺麗な目をしている。
こんなに綺麗な目をした人、見たことがない……。
母親になりかわるように、優しい口調で、まるでオムライスのたまごのようにふんわりと包み込んでくれる多恵に、いつしか大きく引き込まれて行く自分がいた。

人の人生に関わる。
弁護士を目指していた希美にとっては、心から共感できることだった。
患者さんの人生に関わる……。それこそが恵み……。
多恵の言葉を反芻し、希美は自分の気持ちを落ち着いて振り返った。
私が目指してきたのは、もしかしたら机上の世界のことばかりだったのかもしれない。
法律を勉強し、それを武器に不正のない世の中を作る。それはそれで立派なことだとは自分でも思う。だけど、本当に喜ばれることって何だろう。人と人とのふれあいって何だろう……。
そして、
今を生きるって何だろう……。
生きていること。私も、みんなも……。
今、この瞬間を生きていること。
生きて、在ること--。
「退院おめでとう!」
多恵はお祝いに"希"の字を型どったネックレスをプレゼントしてくれた。
「ありがとうございます! 私、岩崎さんみたいになりたいって、本気で思います!」
「ありがとう。なんか照れるわねえ……。今度は外で紅茶でも飲みながら話ましょ」
スケッチは、間もなく完成をむかえようとしている。
新緑のキャンパスを颯爽と歩く学生たち。
どこまでも広がる空を自由に飛びまわる鳥たち。
その中を駆け巡る、ちょっといたずら好きのそよ風。
そう希美、このキャンパスで明るく、前向きに、今日を、今を生きるの。
そして夢をかなえるの。
このスケッチは、あなたが今を生きている証だから。
スケッチは、希美にそんなことを話しかけてくれる。
この辺だと、夜は星空もきれいなのかなあ……。
そういえば、最近、星空なんて全然みてないや……。
そうだ、帰りに湘南台文化センターのプラネタリウムに寄って帰ろう!昔、家族でよく遊んだもんなあ……。
それと、Pepita Lionでオムライスを食べよう!あそこのオムライス、お母さん、大好きだったよなあ……。
弁護士改め看護師の夢に向かって歩き始めた、みんなよりちょっと年上の看護医療学部1年生、沖田希美。
脳腫瘍がいつ再発するかはわからない。今でも、夜になるとひどい頭痛に悩まされることがある。再発したら、最悪失明するかもしれない。
でも、それも自分。自分を支えてくれる、かわいい自分の体。
この目にしっかりと、今を焼き付けるんだ。
最後の一筆を描き終わると、希美は、スケッチに2Bの鉛筆で力強くサインを書き込んだ。
NOZOMI
今、一枚のスケッチに、永遠の命が吹き込まれた――。
● COMMENT ●
Re: タイトルなし
ネリムさん、こんにちは!
> 希美さんが病気から立ち直っていく過程が良かったです。
ありがとうございます!
自分が作ったキャラに元気をもらうこともあります
希美ガンバレ、自分ガンバレってカンジです。。
> 希美さんが病気から立ち直っていく過程が良かったです。
ありがとうございます!
自分が作ったキャラに元気をもらうこともあります
希美ガンバレ、自分ガンバレってカンジです。。
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希美さんが病気から立ち直っていく過程が良かったです。