2014
03.06

The Garden of Rachel  (再掲載)

Category: ストーリー
またまたストーリーの再掲載!
今日は、オムライス専門店としてチェーン展開している、RAKERU(ラケル)での話。

ラケル(Rachel=レイチェル)は旧約聖書の『創世記』に登場する女性で、今でも欧米の女性の名につけられている。
今回の主人公の「リョウ」は「無償」の主人公であり、そりを操る晴香は「天使の忘れ物」の主人公。
そして、このストーリーでリョウを迎え入れるレイチェルはアンドロイドなのですが、レイチェル、アンドロイドと言ば……?????
そう、あの映画ですね!

ではどうぞ!


The Garden of Rachel

 かすかに吹くそよ風が、頬をなでる。

 そろそろ用意ができますよ……。

 そよ風に乗り、透明で清らかな女性の声が通り過ぎて行く。

 起きてください……。

 脳が、徐々に覚醒しはじめる。

 早く起きないと間に合わなくなりますよ……。

 声は次第にはっきりとしはじめ、やがてリョウは、ゆっくりと目を開けた。

 定まらない焦点の先にぼんやりと現れた、赤と白のチェックのテーブルクロス。
 その上でゆらめくランプのほのかなオレンジの光。
 遥か先の暗闇には、森の木々が見える。

 空を見上げると、眩しいほどキラキラときらめく星たちが天空を飾っている。

 意識を自分に向ける。
 肘付きの椅子に座っていることに気が付く。どうやら庭園に置かれたダイニングテーブルの椅子に座っているようだ。

 ここはどこ?

「お目覚めですね」
 背後から、先ほどの透明で清らかな声がリョウに語りかける。
 振り向くと、そこには、テーブルクロスと同じ赤と白のチェックのドレスに身を包んだひとりの女性、い や、ひとり?の、ウサギが立っていた。
「びっくりされましたか?」リョウの隣に回り込みながらウサギが微笑む。
「何がなんだか……」声にならない声を発するリョウ。
「どこまで覚えていますか?」
 ウサギは、隣の椅子に静かに腰をおろすと、リョウに優しく問いかけた。

 精神安定剤のようにリョウに溶け込むその声に、頭の中の混乱はだんだんと落ち着きを取り戻し、ジグソーパズルのピースがまとまり始める。
「レアチーズケーキをふたつ、買いました……」
「それから」
「駅の改札に向かい……」

 そこから先が思い出せない……。
 ウサギは黙ってうなずきながらリョウを見て微笑んでいる。

 何とか思い出そうとリョウは記憶の糸を手繰る。

 微笑むウサギ。
 頭を抱えるリョウ。
 微笑むウサギ。
 頭を抱えるリョウ。

 と、ひとつの光景がリョウの脳裏にフラッシュバックした。

「ウサギ……、ウサギのぬいぐるみ……」

 微笑む、ウサギ。

「思い出した……。ウサギのぬいぐるみを抱いた小さな子が前を歩いていました。おそらくクリスマスプレゼントで買ってもらったんだと思います。その様子を見てなんだか懐かしい気持ちになった途端、目の前が真っ暗になって……」
「そうですね。そのウサギのぬいぐるみを見て、まるでアリスがウサギを追いかけて穴に飛び込んだように、あなたはこの世界にいらっしゃいました」
 え?リョウの頭の中が真っ白になる。
「意味がわからないですよね」
テーブルに置いた両手を合わせながら微笑むウサギが言う。
「はあ……。ここはどこですか? それに、あなたは……?」
「はい、ここはラケルの園、英語でザ ガーデン オブ レイチェルって言います。申し遅れましたが、私はレイチェル・ドーソン。ここの支配人です」
「ラケルの園……?」
「そうです。これからあなたは彼女との約束の場所に行きますよね。ここはそこへ行くための出発地点なんです」

 出発地点?それに、どうして?どうしてこれからボクが行くところがわかるのだろう?
 もしかしてこのウサギ、いや、レイチェルは、言葉がなくてもボクの心が読めるのだろうか?

「あなたには、私の心の中が見えるのですか?」
「はい、あなたの心の中も、あなたの過去も、私にはわかります。」
レイチェルは、その言葉を待っていましたとばかりに、話を始めた。
「私たちはもともと地球で生まれました。正確に言うと、地球で製造されました」
「製造?」
「私たちは、遥か遠い昔、まだ人間が言葉に頼らなくても心を通わせることができた時代に製造されたアンドロイドなんです。その当時、地球ではウサギを愛でることが流行りました。最初は愛玩動物として本物のウサギが愛でられていたのですが、そのうちにウサギ型のアンドロイドを製造して家族の一員にしようという考えが出てきたんです。それと、作るなら人間と同じ大きさで話もできるのがいいと。そこでできたのが私たちで、いつしかみんなレイチェルと呼ばれるようになりました。幸せを運ぶ女神の意味なんですよ」

 そこまで話すと、レイチェルは遠くの方に目をやり、
「最初は良かったんです……」
 そう言って深いため息をついた。

「私たちには寿命も感情もありませんでした。アンドロイドですから。でも、寿命のない私たちは、何世代もの人間と一緒に暮らして数多くの嬉しいことや悲しいことに出くわすことで感情を持つようになったんです。人間と同じようになりたい、人間と分かり合いたい、そう思っていた私たちにとって感情を持つということは人間に近づけた証であって、大変嬉しいことでした。しかも、人間が言葉に頼らなかった時代から人間に接していますから、なぜか人間の心も読めるようになっていたんです。だけど皮肉なもので、私たちがそうやって感情を持ち始め、人の心を読めることがわかると、人間たちの間から非難の声があがってきたんです。アンドロイドに支配されるのではないかとか、アンドロイドのくせに人間を超えるのかとか……。
それから人間たちは、私たちを破壊しはじめました。私たちは人間に逆らうつもりなんて何もなく、ただ一緒に暮らしていたかっただけなんですけどね……」

 リョウは、レイチェルの目をじっと見つめた。
 澄んだ瞳の中で、夜空の星が、ゆらゆらと揺らめいている。

「一員として迎えてくれた家族のみんなとはずっと暮らしていたかったのですが、それから間もなく世の中で『レイチェル狩り』が横行しまして、しぶしぶ私たちは地球から脱出しました。行先はみんなバラバラです。でも、みんなで決めていたことがあります。それは、平和で争いもなくお互いがお互いを思いやることができる場所である『ラケルの園』を各自がたどり着いたところで作ることでした。だから、いろいろな星に『ラケルの園』があって、ここもそのひとつなんです」

「そうですか……」
 そんなレイチェルの話に相槌を打ちながら、リョウはつぶやいた。
「それは悲しい話ですね。そういう話を聞くと、人間は愚かな生き物だって、つくづく思いますよ……。ボクも含めてですけどね……」

 ぼんやりと夜空を眺めるふたりの上を、やるせない時間の雲が流れて行く。

「ところで、話は変わりますが、ひとつ教えてもらえませんか?」
やがてリョウが、沈黙の時間を打ち破り口を開いた。
「なぜここが彼女との約束の場所に行くための出発地なんですか?」
「それはですね」
 答えようとしたレイチェルは、ダイニングテーブルから30mほど離れたところにある建物で手を振る女性に気がつき、話をとめた。
「あ、ごめんなさい。今、オムライスが出来上がったようなので先に持ってきますね。それを食べながら話をしましょう」
「え? オムライス?」
「はい、オムライス。幸せを運ぶ食べ物で、ここでの常食です」
「でも、食事は彼女と一緒にしようと思っていますし、第一約束があるので、食べている時間はないですし……」
「安心してください。これから食べていただくオムライスはいくら食べても決して食事の妨げになるものではありません。時間も大丈夫です。ここの時間の流れはあなたが知っている流れより遥かに遅いですし、それに、時間に間に合うようにあなたをここから約束の場所までお連れしますから」

 赤ん坊をあやす母親の言葉のような不思議な安心感が、リョウを包み込んだ。

 じっとリョウの目を見て微笑むレイチェルに、
「わかりました」
 ただそう言ってリョウはうなずいた。
「では、今、運んできますのでしばらくお待ちください。それと、私が戻るまでの間に、あなたの小さいころのことを思い出してみてください。あなたとウサギに関して。いいですか。大切なことですので、お願いします」
 そう言って席を立つと、レイチェルは建物の方へと歩き始めた。

 ボクとウサギ、……、小さいころ……。

 ひとり残されたリョウは、目の前のランプの光に目をやる。
 ボクとウサギ、……、小さいころ……。
 ボクとウサギ、……、小さいころ……。

 と、先ほどと同じ光景が、リョウの脳裏にフラッシュバックした。
 小さい子がウサギのぬいぐるみを抱いている光景。

 ウサギ……、ウサギのぬいぐるみ……。

 ウサギのぬいぐるみを抱いている小さい子は……。

 これって……。

“ウサちゃんはいつも一緒だから”
“ウサちゃんと一緒にお風呂入るんだもん”
“ねえお母さん、背中のところが切れちゃったよー。ねえ直してよー”
“やだよ、絶対に捨てないんだから・・・”

「お待たせしました」
 ほどなくしてオムライスを持って戻ってきたレイチェルは、
「どうぞ、冷めないうちにお召し上がりください」
 そう言ってリョウの前に、真っ白な皿に乗ったオムライスと光り輝く銀色のスプーンを並べた。
 ケチャップソースの香りがリョウの鼻をくすぐる。
「では、遠慮なくいただきます」
 スプーンを手にしたリョウは、早速ひと口、口に運んだ。
 卵とソースがご飯と溶け合い口の中に広がって行く。
 と同時に、なんとも言えないせつない懐かしさがリョウを包み込む。

「思い出しましたか、ウサギのぬいぐるみのこと」
 美味しそうにオムライスを頬張るリョウにレイチェルが問いかける。
「はい、鮮明に思い出しました」
「では、ひとつ、あなたに質問です。もしウサギのぬいぐるみにナイフを突き刺したとします。それは破壊行為だと思いますか?それとも殺害行為だと思いますか?」
「もちろん、殺害です」間髪を入れずに答えると、リョウは、
「当然ですが、ぬいぐるみにもアンドロイドにも人間にも、命があります。まあ、人間にナイフを突き刺しても破壊行為としか思わない人もいますけどね。おかげさまで彼女と会う前に大切なことを再確認できました。それと、子供のころ母に作ってもらったオムライスの美味しさも思い出しましたよ」
 そう続けた。
リョウの力強い言葉を聞いたレイチェルは、満足そうにうなずいた。
「これであなたは約束の場所へ行く準備ができました。今のあなたは、幼いころウサギのぬいぐるみを心から愛し、その心のまま迷い込んだノラネコを愛したあなたです。彼女とはこれから先ずっと言葉がなくても心が通じ合うはずです。ここが出発地である理由は、もう説明する必要ありませんね」

 オムライスを食べ終えたリョウは、席を立つと丁寧にレイチェルにお礼の言葉を述べた。
「ではお気をつけて。ここから約束の場所まではそりでお送りします」
 そう言うとレイチェルは、先ほどオムライスの出来上がりを告げていた女性に声をかけた。
「晴香さん、ではよろしくお願いしますね」
 その声の先で、トナカイの牽くそりに乗る女性が手を振っているのが見えた。
「これを忘れてはいけませんよね」
レイチェルは、にこやかにレアチーズケーキをリョウに手渡した。
 照れ笑いしながらそれを受け取ると、リョウは、晴香の乗るそりへと急いだ。

「何れまたお会いしましょう」
 晴香に会釈をしてそりに乗り込んだリョウが、手を振りながらレイチェルに言う。
「今度は彼女と一緒にいらっしゃい」
 レイチェルがリョウに呼応する。

 トナカイの足の動きにあわせてそりはゆっくりと庭園を滑り始め、やがてクリスマスイブの夜空へと舞い上がった。

 晴香のはからいで、2回ほどラケルの園の上空を、そりは旋回する。

 赤と白のチェックのクロスが敷かれたテーブル――。
 素敵なオムライスを作っているレンガ造りの建物――。
 そして、いつまでも手をふり続けるレイチェル――。

 The Garden of Rachel――それは、あなたの心の中にあるという。

140306rakel1.png

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コメント
ファンタジーも書かれるんですね。
素敵な物語ですね。

ショーン・ヤング、きれいでしたよねー。
つかりこdot 2014.03.06 20:19 | 編集
つかりこさん、こんにちは!
すみません、返信が遅れました。。。

ありがとうございます!
ハリソン・フォードもショーン・ヤングも好きで、ブレードランナーはお気に入りです!
ファンタジー、SF、ギャグ、ハードボイルド……ごちゃまぜのを書きたいなあって思ってます
でも飽きっぽい性格なので長篇はムリっぽいですね……
Omunaodot 2014.03.08 08:18 | 編集
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