一輪の真心 (再掲載) - 2014.03.12 Wed
今日はデニーズのオムライスを食べながらのストーリーの再掲載。
(今週は再掲載ばっかだなあ……)
ファミレスのオムライスなんて美味しいの???
食べる前はそんな疑問を持っていたけど、食べてみたらこれが美味しい!
いやあ、ファミレスおそるべし。
企業が競争を勝ち抜くべ、食材選定から配送から味つけ、接客まで一連をとことん追求する。
その結果、ちょっと前までの常識が変わりつつあるのでは???
ファミレスや冷凍食品なんかはその典型だと思う。
何が本物の味だとか偽物の味だとか、そういうのは変化していくのかもしれない。
チキンライスが好きです。
照り焼きソースが好きです。
卵かけご飯が好きです。
デニーズのオムライスは、そんな味覚の人気のポイントを、しっかりとおさえてオムライスに反映させていると思う。
ではどうぞ。
一輪の真心
「いらっしゃいませ!デニーズへようこそ」
ドアを開けた武井健一を、弾ける笑顔が出迎えた。
自然と笑みがこぼれる。健一は指を2本立て、"ふたり"と合図を送った。
会社からたっぷり2時間半はかかる地方都市にある和菓子店との商談。
早めに現地に行って15時からの商談に備えよう。そんな考えで、昼食がてら和菓子店がある商店街のデニーズに飛び込んだ。
笑顔の案内に従い、入社2年目の神山真吾とともに窓際の席につく。
昼のピーク時間を過ぎたせいか、比較的すいている店内にはゆったりとした空気が漂っている。
「すみませんが、先にちょっとトイレに行ってきます」
真吾の言葉に、遠慮するなと頷きパソコンを取り出す。
デニーズへようこそ、か……。
さて、どうやってお店の特徴を出そう……。
和菓子のネット販売。他との差別化を図るために何か訴えるものがほしい。
送料無料? 翌日配送?
いや、どれもありきたりだ。画龍点睛を欠く。どうしたものか……。
「すみません、おまたせしました」
ぺこりとお辞儀をすると、トイレから戻った真吾は静かに椅子を引いて健一の向かいに腰かけた。
「早く食べたいだろ」
「はい、もう、お腹がすいちゃって……」
「ここはおごるから、好きなものを頼め」
そう言いながらメニューをめくる健一。その目に、”オムライス”の5文字が微笑みかける。
「どうしたんですか?」
思わず「あっ」と漏れた声に、真吾が反応した。
「いやあ、あるんだな、デニーズにも。オムライスが」
「あ、知ってますよ。武井さんがオムライスに目がないって。今度美味しい店に連れてってくださいよ」
真吾もメニューのオムライスのページを開き、それに見入った。
「美味しそうだなあ……。ボクもオムライスにしようかなあ……」
「別に合わせなくてもいいぞ」
「いや、そういうわけではなくてですねえ……」
真吾の目を見やる。どことなく遠い目が、5月の午後に揺れている。
「もう何年も食べてないんですけどね……」
「じゃあ、呼ぶよ」
「あ、はい、お願いします」
健一はテーブルの呼び鈴を押した。
「子供の頃、母親がよく作ってくれたんです。オムライス」
頬杖をつきながら、真吾はぼんやりと天井に目を向けた。
「それがすごく美味しくて。大好きで。大体は休みの日の昼飯だったんですけどね」
「そう言えば君のおかあさんは……」
「はい。女手ひとつでボクを育ててくれまして。大学まで出してくれて。きっと、神様が休めって言ってくれていたんだと、今はそう思うようにしています」
それからしばらく、沈黙の時間が続いた。
注文を終え、やがて出来たてのふわふわオムライスがふたつ、ふたりのもとに運ばれてきた。
「いやー、本当に美味しそうですね!武井さんがオムライスにはまるのもわかる気がします!」
「そうか」
「うん、美味しい!チーズとタマゴがいい感じですね!」
「おー、うまいうまい。意外だな、デニーズのオムライスは盲点だったな。眼中になかった。ところで、君のお母さんはどんなオムライスを作ってくれたんだい?」
「はい、典型的な家庭のオムライスです。こどもに生のタマゴはよくないって、しっかり焼いた玉子焼きに包まれていて、その上にケチャップでいろいろな言葉が書かれていまして。あるときは『おかあさんスペシャル』とか、またあるときは『HAPPY!』とか」
“ こどもの頃から母親似って言われるんです ”
健一は、幸せそうにオムライスを口にする姿を見て、真吾のそんな言葉を思い出していた。
どことなく中性的な顔立ちの真吾の瞳の中で、思い出が駆け巡っている。
こいつの優しさときめ細かさ、それと人懐っこさは母親譲りだな……。
苦労にもめげず、うらみもせず。
こういうやつは、本当に報われてほしい……。
年の離れた弟を見るような、そんな眼差しが真吾を見守る。
おかあさんのオムライスか……。
オレもよく作ってもらったっけ。
デパートのレストランにも連れて行ってもらって、国旗の立ったお子様ランチのオムライスを食べたよなあ……。
「今日は母の日ですね……」
真吾につられて思い出にふける健一の耳に、何気ないつぶやきがこだました。
母の日。
そう言えば、小学校の時に学校からカーネーションを持って帰って以来、この日を意識したことなんてなかった。
孝行のしたい時分に親はなし。
よく言ったものだ。
母親の笑顔が脳裡に浮かぶ。
と、そのとき、
健一の中で、母親の顔と、和菓子店の女将の顔がオーバーラップした。
「そうだ神山!」
健一の目が輝く。
「それで行こう!和菓子のネット販売。カーネーションの絵をあしらった便箋に、女将さんに手紙を書いてもらって入れよう。一言でいい。君のおかあさんがオムライスにケチャップで書いてくれたように。店売りの方も女将さんの人柄が人気でリピーターが増えている。あの人の人柄や真心は、きっとネットを通じてでも伝わるはずだ」
「それ、いいですねえ!」
真吾が身を乗り出す。
「15:00までにはまだ時間がある。よし、企画を詰めるぞ、神山!」
「はい!」
ブラインド越しに降り注ぐ夏への準備を進める午後の穏やかな陽光が、テーブルに満ちあふれる。
「武井さん、女将さんにカーネーションを買って行きましょうよ」
「おー、ナイスアイデア」
「何の疑いもなく、あなた方に全部任せるからって、女将さんはボクたちにとってはおかあさんみたいなもんですもんね」
「さすが神山。その通り」
健一はパソコンの企画書ファイルを開くと、一文字一文字、力強くキーを叩いた。
“ カーネーションプロジェクト ~ 一輪の真心を和菓子に添えて ~ “
まるで、ほっぺたにご飯粒をつけながらおかあさんのオムライスを頬張る子供のように、パソコンの画面に食い入るふたり。
生命を吹き込まれた文字が言霊となり、パソコンから飛び出す。
一輪のカーネーションが宙を舞い、リインカーネーションと溶け合う。
健一の母も、真吾の母も、真心の文字の中で楽しげに踊っている。
輪廻に宿る永遠の真実。
真心が、時空を超えて、伝播する――。

(今週は再掲載ばっかだなあ……)
ファミレスのオムライスなんて美味しいの???
食べる前はそんな疑問を持っていたけど、食べてみたらこれが美味しい!
いやあ、ファミレスおそるべし。
企業が競争を勝ち抜くべ、食材選定から配送から味つけ、接客まで一連をとことん追求する。
その結果、ちょっと前までの常識が変わりつつあるのでは???
ファミレスや冷凍食品なんかはその典型だと思う。
何が本物の味だとか偽物の味だとか、そういうのは変化していくのかもしれない。
チキンライスが好きです。
照り焼きソースが好きです。
卵かけご飯が好きです。
デニーズのオムライスは、そんな味覚の人気のポイントを、しっかりとおさえてオムライスに反映させていると思う。
ではどうぞ。
一輪の真心
「いらっしゃいませ!デニーズへようこそ」
ドアを開けた武井健一を、弾ける笑顔が出迎えた。
自然と笑みがこぼれる。健一は指を2本立て、"ふたり"と合図を送った。
会社からたっぷり2時間半はかかる地方都市にある和菓子店との商談。
早めに現地に行って15時からの商談に備えよう。そんな考えで、昼食がてら和菓子店がある商店街のデニーズに飛び込んだ。
笑顔の案内に従い、入社2年目の神山真吾とともに窓際の席につく。
昼のピーク時間を過ぎたせいか、比較的すいている店内にはゆったりとした空気が漂っている。
「すみませんが、先にちょっとトイレに行ってきます」
真吾の言葉に、遠慮するなと頷きパソコンを取り出す。
デニーズへようこそ、か……。
さて、どうやってお店の特徴を出そう……。
和菓子のネット販売。他との差別化を図るために何か訴えるものがほしい。
送料無料? 翌日配送?
いや、どれもありきたりだ。画龍点睛を欠く。どうしたものか……。
「すみません、おまたせしました」
ぺこりとお辞儀をすると、トイレから戻った真吾は静かに椅子を引いて健一の向かいに腰かけた。
「早く食べたいだろ」
「はい、もう、お腹がすいちゃって……」
「ここはおごるから、好きなものを頼め」
そう言いながらメニューをめくる健一。その目に、”オムライス”の5文字が微笑みかける。
「どうしたんですか?」
思わず「あっ」と漏れた声に、真吾が反応した。
「いやあ、あるんだな、デニーズにも。オムライスが」
「あ、知ってますよ。武井さんがオムライスに目がないって。今度美味しい店に連れてってくださいよ」
真吾もメニューのオムライスのページを開き、それに見入った。
「美味しそうだなあ……。ボクもオムライスにしようかなあ……」
「別に合わせなくてもいいぞ」
「いや、そういうわけではなくてですねえ……」
真吾の目を見やる。どことなく遠い目が、5月の午後に揺れている。
「もう何年も食べてないんですけどね……」
「じゃあ、呼ぶよ」
「あ、はい、お願いします」
健一はテーブルの呼び鈴を押した。
「子供の頃、母親がよく作ってくれたんです。オムライス」
頬杖をつきながら、真吾はぼんやりと天井に目を向けた。
「それがすごく美味しくて。大好きで。大体は休みの日の昼飯だったんですけどね」
「そう言えば君のおかあさんは……」
「はい。女手ひとつでボクを育ててくれまして。大学まで出してくれて。きっと、神様が休めって言ってくれていたんだと、今はそう思うようにしています」
それからしばらく、沈黙の時間が続いた。
注文を終え、やがて出来たてのふわふわオムライスがふたつ、ふたりのもとに運ばれてきた。
「いやー、本当に美味しそうですね!武井さんがオムライスにはまるのもわかる気がします!」
「そうか」
「うん、美味しい!チーズとタマゴがいい感じですね!」
「おー、うまいうまい。意外だな、デニーズのオムライスは盲点だったな。眼中になかった。ところで、君のお母さんはどんなオムライスを作ってくれたんだい?」
「はい、典型的な家庭のオムライスです。こどもに生のタマゴはよくないって、しっかり焼いた玉子焼きに包まれていて、その上にケチャップでいろいろな言葉が書かれていまして。あるときは『おかあさんスペシャル』とか、またあるときは『HAPPY!』とか」
“ こどもの頃から母親似って言われるんです ”
健一は、幸せそうにオムライスを口にする姿を見て、真吾のそんな言葉を思い出していた。
どことなく中性的な顔立ちの真吾の瞳の中で、思い出が駆け巡っている。
こいつの優しさときめ細かさ、それと人懐っこさは母親譲りだな……。
苦労にもめげず、うらみもせず。
こういうやつは、本当に報われてほしい……。
年の離れた弟を見るような、そんな眼差しが真吾を見守る。
おかあさんのオムライスか……。
オレもよく作ってもらったっけ。
デパートのレストランにも連れて行ってもらって、国旗の立ったお子様ランチのオムライスを食べたよなあ……。
「今日は母の日ですね……」
真吾につられて思い出にふける健一の耳に、何気ないつぶやきがこだました。
母の日。
そう言えば、小学校の時に学校からカーネーションを持って帰って以来、この日を意識したことなんてなかった。
孝行のしたい時分に親はなし。
よく言ったものだ。
母親の笑顔が脳裡に浮かぶ。
と、そのとき、
健一の中で、母親の顔と、和菓子店の女将の顔がオーバーラップした。
「そうだ神山!」
健一の目が輝く。
「それで行こう!和菓子のネット販売。カーネーションの絵をあしらった便箋に、女将さんに手紙を書いてもらって入れよう。一言でいい。君のおかあさんがオムライスにケチャップで書いてくれたように。店売りの方も女将さんの人柄が人気でリピーターが増えている。あの人の人柄や真心は、きっとネットを通じてでも伝わるはずだ」
「それ、いいですねえ!」
真吾が身を乗り出す。
「15:00までにはまだ時間がある。よし、企画を詰めるぞ、神山!」
「はい!」
ブラインド越しに降り注ぐ夏への準備を進める午後の穏やかな陽光が、テーブルに満ちあふれる。
「武井さん、女将さんにカーネーションを買って行きましょうよ」
「おー、ナイスアイデア」
「何の疑いもなく、あなた方に全部任せるからって、女将さんはボクたちにとってはおかあさんみたいなもんですもんね」
「さすが神山。その通り」
健一はパソコンの企画書ファイルを開くと、一文字一文字、力強くキーを叩いた。
“ カーネーションプロジェクト ~ 一輪の真心を和菓子に添えて ~ “
まるで、ほっぺたにご飯粒をつけながらおかあさんのオムライスを頬張る子供のように、パソコンの画面に食い入るふたり。
生命を吹き込まれた文字が言霊となり、パソコンから飛び出す。
一輪のカーネーションが宙を舞い、リインカーネーションと溶け合う。
健一の母も、真吾の母も、真心の文字の中で楽しげに踊っている。
輪廻に宿る永遠の真実。
真心が、時空を超えて、伝播する――。

● COMMENT ●
Re: タイトルなし
ネリムさん、こんにちは!
ありがとうございます!
真心は大切にしていきたいです
真、真実、真心……
ありがとうございます!
真心は大切にしていきたいです
真、真実、真心……
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お話素敵でした。
カーネーションのイラスト綺麗ですね。