2014
03.20

街角の小景 (再掲載)

Category: ストーリー
今日の再掲載ストーリーは、オムライスとは全く関係ありません。

でも、関連性はあります。
それは、登場人物。

自分で書いたストーリーをリンクさせるのが好きだったりします。
例えば、第9回「ラケル」に出てくる晴香は、第6回「ラプラタ」に出てくる晴香。

で、「ラケル」の主人公リョウは、今回掲載する「街角の小景」の冒頭にでてくる男で、リョウの台詞は別のストーリー(「無償」)での一場面でのもの。第9回「ラケル」は、実は「無償」の続き。

今回の主人公は電話ボックス。
公衆電話は、もう、何年も使ってないですねえ。。。

「モノ」にも、魂が宿っています……。


街角の小景

「もしもし。ごぶさた。……。突然だけど、明日の夜、会えるかな? よかったら、今度は、君が好きな場所にボクを連れていってほしいんだ……」
 電話を終えると、男は、電話ボックスをはなれ夜中の街へと消えていった。

 これが最後のお客さんかな……。

 12月の夜空は雲ひとつなく晴れわたり、オリオン座が鮮やかに輝いている。
 そんな空から、凛とした冷たい風が一団となって、一直線に街に吹き込む。

 彼は、とある街の、とある駅前に設置された電話ボックス。
 彼が設置されてから、もう随分と長い年月が経つ。

 かつてはこの街も活気にあふれていた。大きな企業の城下町で人の往来も激しかったのだが、その企業の業績が悪くなりこの街にあった工場が閉鎖されて以来、一気に人通りが減った。市が行う新たな企業誘致も隣街が中心で、世の中に取り残されたようなこの街全体を、重い空気が支配している。

 そんな重い空気は、彼にも押し寄せた
 彼の役目も今日で終わり。時代の流れには勝てず、明日の朝になったら撤去される予定だ。

 朝になったらお別れか。せめて、明日のクリスマスイブの景色くらいは見たかったなあ……。 

 思い返せば、いろいろな声を聞き、いろいろな話しをつないできた。
 入試合格を伝える喜びの声。
 つらい別れ話。
 駆け引きで手に汗を握る商談話。
 ……。

 彼の中を、思い出が駆け巡る。
 モデルガンをもった少年グループに襲撃されたこともあったっけ。あのときはBB弾で見事にガラスを割られた。
 そんなことも、今ではよき思い出。

 思い出にふける中、

「おい、この野郎! こんなところにボケーっと突っ立ってやがって」
 夜討ちのごとく、突然、初老の酔っ払いが、彼に向って突進してきた。
「なんでオレがクビなんだよ。えー? ふざけんなよ……ちくしょー……」
ドアをガンガンと叩くと、酔っ払いは片手に持っていた缶ビールを彼に浴びせた。
「なんとか言えよ。……くっそー……バカヤロー……」
ドアにもたれかかり、酔っ払いは続ける。
「どうせ、役立たずのおいぼれは用なしだよ。どいつもこいつも、つめて―よな」

 やれやれ、またか……

 最近、こういったことが、明らかに多くなった。
 最後ばかりは静かにすごしたかったけど、ま、しょうがないか……。
 そんなことをされても、今の彼には怒りもわいてこない。むしろ、微笑んであたたかく包んであげたくなる。
 オジサン、ボクも同じだよ! オジサン、ガンバんなよ! オジサンには明日があるよ!

 しばらくして、酔っ払いは彼のもとを去って行った。

 最終電車が終わり駅の明りが消えると、やがてタクシー乗り場の人影もなくなり、街は完全に眠りについた。
 
 くっきりと夜空に浮かぶ月の灯が、彼をぼんやりと照らしている。

 どうやら、先ほどかけられたビールの酔いが回ってきたらしい。
 いたたまれない悲しみと恐怖が、彼を襲う。

 やっぱり、壊されるのは、すごく怖い……。
 この街のみんなと別れるのは、とてもつらい……。
 だれか、だれかボクを助けてー!
 だいたいボクは、みんなの声や話をつたえてきたのに、ボクの話なんて誰も聞いてくれないじゃないか。ボクはまだここにいたいのに……。
 こんなに寂れちゃったけど、明日はこの街も賑やかなんだろうなあ。ボクがなくなったことなんて、誰も気がつかないんだろうなあ……。
 まったく損な役回りだ。でも、『おセンチな電話ボックス』なんて、ちゃんちゃらおかしいしなあ……。
 あー、月がきれいだ……。
 最期は『月見酒』か? それもいいな。
 おーい、お月さん、きみはボクのお友達かい?
 このまま寝てしまえば、楽かなあ。はい、今日の営業は終了で~す、ってね。ボクの営業は、これをもって、これをもって、……。

 そんな彼のもとにひとりの少女がやってきたのは、もう、時計の針も2時をまわった真夜中のころだ。

 少女は、電話ボックスに入り受話器をそっと手にとると、ゆっくりと話しはじめた。

「もしもし……」

 ん? おいおい、ちょっとまてよ。
 電話っていうのはね、カードか硬貨を入れて、それから電話番号を押してから話すもんですぜ、お嬢さん……。
 まったく、あきれてつきあっていられないね。
 ボクの眠りの邪魔をしないでおくれ。
 ボクはもう、すっかり寝ているんだ。
 お休み……。
 ……。

「もしもし、聞こえますか、電話さん。私は明日、彼と結婚します。この街をはなれ、彼の故郷に嫁いでいきます。3年前のクリスマスイブに、私の思いを伝えてくれたのは、電話さん、あなたでしたよね。ありがとう電話さん。いつまでも、いつまでも元気でここにいてくださいね……。ありがとう、私のサンタさん……」

 少女は受話器を両手で包みこみ、そっと胸にあてた。

 一陣の風に飛ばされた空き缶が、枯葉とともに音を立てて歩道を転がる。

 しばらく受話器をギュっと握りしめていた少女は、やがてドアを開け、別れを惜しむかのように、静かに閉めた。

 あと数時間もすれば、いつもと同じように新しい朝がやってくる……。

 少女が立ち去った街角では、先ほどよりも輝きを増した月明かりが、いつまでも電話ボックスを照らし続けていた。


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