5月の小景 - 2014.05.10 Sat
陽だまり食堂のショートストーリーを書いてみました。
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5月の小景
風薫る杜の都。
午後の柔かい陽ざしに誘われ、その店のドアをあける。
陽だまり食堂。
通りすがりに訪れたオムライスの店。
レジカウンターで注文を済ませると、陽介は、カウンター席に腰を落ちつけた。
目の前に並ぶアメリカンソースの缶とハインツのケチャップ。
厨房では、マスターが、手際よく、黙々と、ケチャップライスを炒めている。
バターの甘い香りが鼻をつく。
なんだか懐かしいなあ、この感じ。
初めて来た店なのに……。
不思議な感覚が陽介を包み込む。
外の陽ざしにも負けない天井からの柔かい灯りの中、店内を見回す。
白い壁と、明るい色合いのブラウンの調度。
何だろう。前にも来たことがあるような……。
「おまたせしました」
やがて、店員さんの笑顔と一緒に「陽だまり風オムライス」が陽介のもとに運ばれて来た。
オムレツとご飯がひとつになったリゾット風のオムライス。それにケチャップがかけられている。
どうして?
それを目にした瞬間、陽介の時計の針が、とまった。
真ん中にスプーンを入れ、そっとひと口、口に運び込む。
ミックスベジタブル……。
とまった時間が、逆流しはじめる。

◆
「なんでオムライスにミックスベジタブル入れんだよー」
真子が作ったオムライスを口にした陽介が叫ぶ。
「ミックスベジタブルは栄養のバランスがいいんだからね」
ちょっとだけ泣きそうな顔の真子が応戦する。
「オレがミックスベジタブル嫌いなの知ってるだろ。それに、ご飯と玉子が混ざっちゃてるんじゃん。これじゃあオムライスじゃないでしょ」
「だって、だって……」
「わかったよ、ごめん、泣くなよ。うん、味はいい! おいしい、おいしい」
◆
ミックスベジタブルが入ったオムライス。
子供の頃から嫌いだったミックスベジタブル。
いつしか好きになり、緑と、黄色と、オレンジは、幸せなトリコロールへと変わった。
「はい、おまたせ、陽介の大好きなオムライス! じゃあ、ケチャップをかけるよ」
「おー、バターがいい香り。でも、不思議だよなあ。あんなに嫌いだったミックスベジタブルなのにさあ、今じゃあ入ってないと物足りないもんなあ」
「でしょ! 私の粘り勝ちね! 野菜食べなきゃダメなんだから」
「それに、ごはんと玉子が混ざっちゃてるのも。ん? 何書いてんの? I ♡ よう?」
「あはは、youをようって読むひといないよ~。あはは」
「あ、そ、そうだよな。はは、いいじゃん、オレ、ようすけだから。ようって読んでも」
「うん、ホントはひっかけて書いたんだけどね」
「そうだろ」
そしてまた、いつしか口にすることがなくなった、ミックスベジタブル。
◆
「ごちそうさま」
陽だまり風オムライスを食べ終えると、陽介はゆっくりと席を立った。
" 陽介って名前、陽だまりみたいに暖かい陽介にピッタリで大好き! "
" 真子って名前も純真な真子にお似合いだよ "
陽だまり食堂かあ……。
広くはないし、決して飛び抜けてオシャレな店ではないけれど、どことなく素朴で清楚な心落ち着く場所。
決して飛び抜けて美人ではなけど、どことなく素朴で清楚な心落ち着く、かけがえのない……。
店を出た陽介の頬を南からの風が撫でる。
堰をきった思い出の滴が、その頬を伝う。
また来たいな……。
5月の青空は、どこまでも続いている。

● ひだまりの詩 Le Couple
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5月の小景
風薫る杜の都。
午後の柔かい陽ざしに誘われ、その店のドアをあける。
陽だまり食堂。
通りすがりに訪れたオムライスの店。
レジカウンターで注文を済ませると、陽介は、カウンター席に腰を落ちつけた。
目の前に並ぶアメリカンソースの缶とハインツのケチャップ。
厨房では、マスターが、手際よく、黙々と、ケチャップライスを炒めている。
バターの甘い香りが鼻をつく。
なんだか懐かしいなあ、この感じ。
初めて来た店なのに……。
不思議な感覚が陽介を包み込む。
外の陽ざしにも負けない天井からの柔かい灯りの中、店内を見回す。
白い壁と、明るい色合いのブラウンの調度。
何だろう。前にも来たことがあるような……。
「おまたせしました」
やがて、店員さんの笑顔と一緒に「陽だまり風オムライス」が陽介のもとに運ばれて来た。
オムレツとご飯がひとつになったリゾット風のオムライス。それにケチャップがかけられている。
どうして?
それを目にした瞬間、陽介の時計の針が、とまった。
真ん中にスプーンを入れ、そっとひと口、口に運び込む。
ミックスベジタブル……。
とまった時間が、逆流しはじめる。

◆
「なんでオムライスにミックスベジタブル入れんだよー」
真子が作ったオムライスを口にした陽介が叫ぶ。
「ミックスベジタブルは栄養のバランスがいいんだからね」
ちょっとだけ泣きそうな顔の真子が応戦する。
「オレがミックスベジタブル嫌いなの知ってるだろ。それに、ご飯と玉子が混ざっちゃてるんじゃん。これじゃあオムライスじゃないでしょ」
「だって、だって……」
「わかったよ、ごめん、泣くなよ。うん、味はいい! おいしい、おいしい」
◆
ミックスベジタブルが入ったオムライス。
子供の頃から嫌いだったミックスベジタブル。
いつしか好きになり、緑と、黄色と、オレンジは、幸せなトリコロールへと変わった。
「はい、おまたせ、陽介の大好きなオムライス! じゃあ、ケチャップをかけるよ」
「おー、バターがいい香り。でも、不思議だよなあ。あんなに嫌いだったミックスベジタブルなのにさあ、今じゃあ入ってないと物足りないもんなあ」
「でしょ! 私の粘り勝ちね! 野菜食べなきゃダメなんだから」
「それに、ごはんと玉子が混ざっちゃてるのも。ん? 何書いてんの? I ♡ よう?」
「あはは、youをようって読むひといないよ~。あはは」
「あ、そ、そうだよな。はは、いいじゃん、オレ、ようすけだから。ようって読んでも」
「うん、ホントはひっかけて書いたんだけどね」
「そうだろ」
そしてまた、いつしか口にすることがなくなった、ミックスベジタブル。
◆
「ごちそうさま」
陽だまり風オムライスを食べ終えると、陽介はゆっくりと席を立った。
" 陽介って名前、陽だまりみたいに暖かい陽介にピッタリで大好き! "
" 真子って名前も純真な真子にお似合いだよ "
陽だまり食堂かあ……。
広くはないし、決して飛び抜けてオシャレな店ではないけれど、どことなく素朴で清楚な心落ち着く場所。
決して飛び抜けて美人ではなけど、どことなく素朴で清楚な心落ち着く、かけがえのない……。
店を出た陽介の頬を南からの風が撫でる。
堰をきった思い出の滴が、その頬を伝う。
また来たいな……。
5月の青空は、どこまでも続いている。

● ひだまりの詩 Le Couple
● COMMENT ●
真子ちゃんは、陽介ちゃんの「おかあさん」みたいだなと思いました。
↑
なんかネリムちゃんみたいなコメントになりましたー☆ byおばさま。
↑
なんかネリムちゃんみたいなコメントになりましたー☆ byおばさま。
Re: タイトルなし
ネリムさん、こんにちは!
恐縮なんてとんでもないです。。
ありがとうございます!
ぜひ、オムライスを広めましょう!!
なんて(笑)
恐縮なんてとんでもないです。。
ありがとうございます!
ぜひ、オムライスを広めましょう!!
なんて(笑)
Re: タイトルなし
おばさ……、いやいや、ペチュニアさん、こんにちは!
きっと、陽介は真子に甘えてたんですね。。
だから、真子の存在がどれほど大切だったのか、失って初めてわかったんだなと思いました。
後悔先に立たず。でも後悔の連続。
あー、人生いろいろですね……。
きっと、陽介は真子に甘えてたんですね。。
だから、真子の存在がどれほど大切だったのか、失って初めてわかったんだなと思いました。
後悔先に立たず。でも後悔の連続。
あー、人生いろいろですね……。
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度々で恐縮ですが、オムライス食べたくなりますね。