2014
05.14

祝福を君に (再掲載)

Category: 競馬関連
最近、競馬関係の記事を書いていないけど、今はG1シーズン。
今日は今でも忘れられない大好きな馬の話の再掲載です……。

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 1995年6月4日、曇り空につつまれた京都競馬場。大観衆が見守る中、第36回宝塚記念のゲートが開いた。17頭の選ばれし精鋭が、それぞれの期待を乗せて、淀のターフに飛び出して行く。

 3番人気に支持されたその馬は、気心の知れた名手的場均を背に後方集団を進む。菊花賞、2度の天皇賞・春の栄冠を勝ち取った得意の馬場。

 しかし、いつもの手応えがない……。
 的場がいくらゴーを出しても動こうとしない。

 やはり、1か月半前の天皇賞での、ステージチャンプとの激闘が尾を引いているのか……。

 第1コーナーで的場は、早くも「今日は無事に回ってこられれば」、そんな気持ちを抱いた。
 430キロあまりの、サラブレッドとしては小さな体。蓄積した疲れは簡単には抜けない。

 疲労度を見た陣営は、もともと秋まで休養させる方針であった。しかし陣営の思惑とは裏腹に、多くのファンの心を動かした走りが彼を宝塚記念のファン投票1位へと導いた。
 この年は阪神大震災が起きた年であり、開催場所は例年の阪神競馬場ではなく得意な京都。おまけに復興支援と命名されたレース。辞退してファンの期待を裏切るわけにはいかなかった。

 25戦、1着6回、2着5回、3着2回。
 それが彼の戦績だ。
 18頭中16番人気で2着に飛び込んだ日本ダービー。そして、皐月賞、日本ダービーを制した世代最強馬ミホノブルボンの3冠の夢を打ち砕いた菊花賞。フラフラになりながらも気力を振り絞って走る姿に、ファンは酔いしれた。

「この馬は、レースで勝った負けたをやたら気にする馬だった」と、当時の関係者は言う。
 レースで勝った直後の日は、厩舎の前を人が通るたびに馬房から首を出し"どんなもんだい"と自信満々な態度をとる。一方、惨敗後は、いじけて馬房の奥でしょんぼりとしている……。

「写真に撮られるのが大好きでねえ……」これは夏の休養先の牧場関係者の言葉だ。
 夏の放牧シーズンで大東牧場に放牧されていた時、ファンがカメラを向けるとその前でとまりポーズをとる。
「この馬の写真は、ほかの馬よりも綺麗に写っているものが多いよね」牧場関係者は言葉を続ける。
 
 そんな馬だから。

 そんな、人の心がわかるような馬だから ――。

 やがてレースは進み、淀の坂へと差しかかる。

 背中の的場には、生き残るためには勝つことしかない競走馬の宿命を教え込んでもらっていた。
 日本ダービーでマヤノペトリュースとの2着争いをハナ差でかわした闘争心。
 天皇賞で、ステージチャンプを15センチ差でおさえ2度目の栄光を手に入れた荒ぶる魂。
 目を覚まさないわけがない。

 その馬の中で、何かがはじけた。

 手綱を握る的場の意思とは裏腹に、余力があろうはずのない体が、みるみる加速していく。

 あるいはそれは、ずっとコンビを組んで共に戦ってきた的場に応えるものだったのかもしれない。

"さあ行くよ的場さん、見てて"

 そして、運命の3コーナーへと吸い込まれていく。

 夢を託した歓声が場内にこだまする。

 と、その瞬間(とき)、

 時間が、止まった――。

 スローモーションのように、馬体が前のめりに崩れ落ちて行く。
 と同時に、振り落とされた的場が地面にたたきつけられる。

 何が起きたのかは誰の目にも明らかだった。

 左前脚第1指関節開放脱臼。

 予後不良。
 手の施しようがない。

 脱臼の下の部分の骨は粉々に砕け散っていたという。
 自分の体を支えられなくなった馬は、残念ながら生きて行くことができない。

 その場での安楽死処分。

 それが、かつて栄光を手に入れた舞台で立ち上がることもできずにのたうち回る彼を楽にしてあげる唯一の方法だった。

「死んだはずがない。もう一度見てくる」
 周りの人の制止を振り切り、的場は全身を強打した重症の体で何度も冷たくなった馬の元に行こうとしたという。

 的場は現役時代、大きなレースで勝った時のガッツポーズも、勝った後もウイニングランもしようとはしない男だった。
 全力で走った後の馬がかわいそうだから……。

 そんな的場とコンビを組めて、そんな的場に最期を看取られて、彼も幸せだったのかもしれない。

“的場さんゴメンなさい。ちょっと失敗しちゃったよ……。明日は馬房の奥でひっそりとしてようかな……”

 はるか遠くから、そんな声が聞こえてくるようだ。

 ライスシャワー 。

「結婚式のライスシャワーのようにこの馬にふれる人々に幸福が訪れるように」との思でつけられたその名前。

 小さな体に宿る誰にも負けない大きな力で、夢と勇気、そして感動を与えてくれた君の雄姿を、ボクは決して忘れない。

 君は最後の最後まで、堂々と走り抜いた。
 あの日、みんなの心の中で、間違いなく君はゴール版の前を真っ先に駆け抜けた。

 カメラの前でポースをとる君には笑顔がお似合いだ。

 だから、あえて言う。

 おめでとう、ライスシャワー。

 祝福を君に。

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Wikipediaより

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