2014
11.06

【再掲載】 無償 【1】

Category: ストーリー
いやあ、ホントに時間がとれない。。
ということで、連日の再掲載でお茶を濁すOmunao。

お茶を濁すって、どう濁しちゃうんだろうねえ???
気になる……。

どうやら、茶道の作法をよく知らない者が程よく茶を濁らせて、それらしい抹茶に見えるよう 取り繕うことがこの言葉の由来らしい。

本日から、昨年の7月に掲載したストーリー、「無償」(全4回)を再掲載します。
これは「無償って何だろう」って考えていたときに浮かんだストーリーです。
すでにお読みいただいている方、すみません。。

「無償」、「無償の愛」……何なのでしょうね???

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         1

 午前6時。小鳥のさえずりがスマホから勢いよく飛び出した。
「爽やかな朝を演出するアラームです!」
 そんなうたい文句につられて購入したアプリだが、朝のリョウには不快音以外の何ものでもない。
 いや、"何ものでもなかった"、そう言うべきだろう。
 それはあくまでも昨日までのリョウにとってのこと。今日は爽快な目覚めだ。
 アラームをとめ、師走の冷気を鋭い刃で切り裂くように勢いよくベッドから飛び起きると、オフィス到着時間から逆算された行動手順に従いリョウは朝の支度をはじめた。

         2

 リョウが初めて彼女に会ったのは、淡いグリーンのそよ風が舞う4月半ばの頃だった。
 
 新年度から経営企画部門に移ったリョウは、経営戦略の実現に向け課題の整理に明け暮れていた。グローバル化を進める企業の一員として、円高リスク対策の策定が重く肩にのしかかる。 
 日本から海外への事業シフトを検討せよ!
 優秀な課題解決力を買われ会社の中枢部門に抜擢されたリョウだったが、日増しに大きくなる自分と企業の価値観のズレがリョウの心を蝕んでいく。
 震災、円高、産業の空洞化、就職難。
 この国は一体どうなってしまうのだろう。自分はこんなことをしていてよいのだろうか? 果たして自分は何のために、誰のために生きているのか……。
 社会人と企業人の狭間で叫ぶそんな小石の戯言は、いとも簡単に大波にさらわれ、岸壁で飛沫とともに砕け散る。

 その日もまた、歪んだ解答用紙には答えが書けないまま帰路についた。
 そんな夕暮れ時、角を曲がったリョウの目に、ちょこんと佇む若い女性のシルエットが飛び込んだ。
 濃紺のカチューシャでまとめられた長い黒髪。白いブラウスにベージュのカーディガン。それと水色のロングスカート。全身から品の良さを漂わせる見ず知らずのその女性は、リョウを見ると嬉しそうに微笑みかけた。

「おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
「失礼ですが、どちらさま?」
「はじめまして。私、こういうものです」
 初々しい白い手が名刺を差し出す。
「私どもは、お疲れになっている方に『おくすり』をお届けするのが役目です。あ、ご心配なさらないでください。お金は一切かかりません。新手のキャッチセールスでも、宗教の勧誘でも、こわい人がバックについている風俗営業とかでもないですから。……そんなの頼んだ覚えはない、っておっしゃりたい……ですよね」
 戸惑うリョウを見透かすように、透明で、なぜかそこはかとなく安らぎとせつなさを感じさせる声が親しげに尋ねる。
「まあ、とにかく、中へどうぞ」
 頭の中に?マークが並んだままリョウは彼女をリビングに通し、温かい紅茶を入れて出した。
 ぺこりとお辞儀をしてソファーに腰掛けると、彼女はゆっくりと話しはじめた。
「信じてもらえないかもしれませんが、私たちは『おくすり』のお届け先の方が発信する『お疲れメッセージ』を受信することができるんです。で、その方のお疲れ状況に応じて『おくすり』を処方させていただきます。でも、処方する相手が誰でもいいわけではないんですよ。ひとりひとりどなたに『おくすり』をお届けするかは決まっていまして」
「それで君の届け先がボク、ってこと?」
「そうなんです。私はあなたの『お疲れメッセージ』を受信することができます。まだ未熟者で、やっと研修を終えたところなんですけどね」
 肩をすぼめた黒目がちの大きな目が、ちょっと照れくさそうに悪戯っぽく笑う。
「研修期間中は、お届け先の方の『お疲れメッセージ』受信と『お疲れモード分析』の訓練を集中して行うんです。すごく難しくて、最初は全然できなかったんですよお。でも、毎日毎日『できるようになる』って信じてやっていると、これが不思議とできちゃったりするんです」
「ふーん。あの、そもそもの疑問なんだけど、何でボクのことがわかるの? お疲れメッセージって言われても、からくりが全く想像できない」
 突然の珍客の言葉に、戸惑うリョウが言う。
「何のしかけもないですよ。その方のお疲れ状況把握にただ意識を集中するだけです。それでわかります。……『超能力者でもあるまいし』、って思ってますよね」

 図星……。

 微笑みながらリョウの目を真っ直ぐに見つめる彼女。まるで赤子を諭す母親のようだ。
 一呼吸入れるとリョウは質問を続けた。
「それで、その状況把握ってやつはどうやったらできるの?」
「はい、あなたの『お疲れメッセージ』を受信すると、私の体内にある『お疲れ度合い測定器』が反応して数値でわかります。これは体内時計のようなもので、私の中の測定器の数値は私だけが感覚的に把握できます。数値は5段階で、1は『まだ大丈夫』、2は『様子見』、3だと『ちょっとキケン』、4だと『けっこうキケン』、5だと『かなりキケン』って。で、受信したメッセージと数値をもとに分析してお届けする『おくすり』を決めるんです。」
「まあ百歩譲って君の話が本当だとしても、お金がかからないって、それじゃあビジネスとして成り立たないよねえ? 無償提供など、そんなことはありえない」
 紅茶をひとくち飲むと、彼女は言った。
「ビジネス……ではありませんから……」
 あきれたリョウは、矢継ぎ早に質問をあびせる。
「報酬は?」
「ありません」
「服装は?」
「自由です」
「拘束時間は?」
「ありません」
「上司は?」
「いません」
「君の届け先の数とノルマは?」
「他にはありません」
 リョウは天井を見上げ、大きくひとつため息をついた。そして、首を横に振りながら言う。

「全くもってばかばかしい!」
 
 そう叫ぶふたりの声が、見事にラップした。

「え?????……」
 
 肩をすぼめた大きな目が、リョウを見つめてまた照れ笑いをしている。
 もしかしたら今、自分の中にある既成概念を根底から覆すような不思議な世界を経験しているのかもしれない。
 彼女は、本当にボクの心が読める……。
 何か得体のしれないとてつもなく大きなものに吸い込まれていく、そんな感覚がリョウをつつみこむ。
 何だろう、この感覚は……。
 邪心のかけらさえも見当たらない彼女の眼差しが追い打ちをかける。
 うそと誠。うわべと本心。人を見抜く感覚は今までの人生経験で養ってきたつもりでいる。
 彼女の目から、目がはなせない。
 真摯、真剣、真心。彼女に惹き込まれていく、自分がいる。 

 動揺をかくせないリョウは、咳払いをして彼女に尋ねた。
「それで、ボクはどんな状態なの?」
「ご自分の価値観とお仕事の内容にギャップが出てきていまして、それが疲れを生んでいます。新しいお仕事になって更にそのギャップが大きくなっています。現在の数値は3です」
「なるほど。では、君がボクの担当なのはどうして? あ、悪いって言っているのではなくて……」
「それは……」
 うつむきかげんに彼女がつぶやく。
「それは……言えません……。正確に言うと、担当ってわけではなくて……。」
 彼女の困惑の表情を従え、しばらくの間、沈黙が時を支配した。
「ま、いいや。ところで、薬って?」
「薬ではありません。『おくすり』です。飲み薬とか貼り薬とか、そういうのじゃあないんです」
彼女は姿勢を正すと、胸の前でキュっと手を握った。
「分析結果に基づいて私の心が思った処方をするのが『おくすり』です。なので、すべて私にお任せください!」
 無意識のうちにリョウは無言でうなずく。いつの間にか「疑う」という文字はリョウの辞書から完全に消え去っていた。
「でも、今日はこれで帰りますね」
「え、どうして?」
「今日はあなたに理解していただくところで終わりです。ゴールデンウィーク中になりますが、2週間後にまたおじゃまさせていただきますね。あと、ひとつだけお願いです。すみませんが、今日からはいつもこのネックレスを身につけていてください。そうしないと『おくすり』が効かないので……」
 彼女は何の変哲もない銀色のネックレスをリョウに手渡すと、いそいそと帰り支度をはじめた。
「では2週間後の朝の10時に参ります。よろしくお願いしますね!」

 玄関でさよならの挨拶を交わし、ふたりは別れた。
 夜道に消えて行く彼女の後姿を、リョウはぼんやりと見送った。
 そして、街灯に照らされて手の中でキラキラときらめくネックレスに目をやると、ゆっくりと、それを首に巻いた。

  < つづく >

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コメント
無償の愛
祖父母、父母、子供
は、そうでしょうか?
血縁

夫婦、恋人、友人

そう思いたいけれど・・・
思い込みたいけれど・・・
裏切り、裏切られる。かも・・・

寂しい奴だ・・・自分
貴方の母になりたい。
たぶん、普通?
永遠だから
Miyudot 2014.11.06 07:23 | 編集
Miyuさん、こんにちは!

「無償」とは???
「大好き」と「愛してる」の違いかなあなんて思ったりします。
「大好き」は一方的であり、ときに自分勝手。
「愛してる」はすべてを受け止めること。

う~む。言うは易し行うは難し。。。
Omunaodot 2014.11.07 05:49 | 編集
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