2015
08.03

愛を知る県訪問記 最終回 愛を、知る

発車間際の新幹線「のぞみ」に乗り込み席につく。
ドアが閉まり、ゆっくりと名古屋駅を滑り出す。

ほろ酔い気分に適度の揺れが心地よい。
車窓の向こうで、漆黒の中を街明りが流れ行く。
ここは星間を航行する宇宙船。
それとも、安眠を約束してくれるゆりかご。

安心に包まれ。
優しさに抱かれ。

ふと現れた神様が、ボクに向かって語りかける。
「未来って何だろう」
「夢って」
「希望とは」
「そして、愛とは……」

神様の背後から、笑顔の紳士が現れる。
「やあ」
右手を軽く上げながら、その紳士はボクに近づいてくる。

何事?
誰?

「君が立派に成長してくれて嬉しいよ」
ボクの目をじっと見る紳士。
理解に苦しむ、ボク。

「失礼」
そう言いながらボクの横の隣りに座ると、紳士は窓外に目をやった。

「早いなあ。もう70年かあ……」
「70年?」
「ああ、今年は私がこの世を去ってからちょうど70年になる」
感慨深そうに、かすかにずり落ちたロイドメガネの位置を直す紳士。
「この世を去ってから?」
頭の中で、?マークが行進する。

「Omunaoくん」
鋭い眼差しがボクの目を射抜く。
「は、はい」
その目力に圧倒されるボク。
「何時の間にやら、君はもう私の年齢を超えたんだねえ」

ロイド眼鏡にちょっとだけ寂しくなった頭髪。
一見、随分と老けて見えた紳士であったが、どうやらそれほど年をとっているわけでもないらしい。
というより、まだ若い。
自分より年下だなんて。
それに、どことなく、ボクに似ている。

と、ボクの中で

"ロイドメガネのハゲあたま"

もしかして……。

"父親は勉強家で、いつも書斎で本を読んでてねえ。そんな親に向かって兄弟みんなで『ロイドメガネのハゲあたま』ってからかってたのよ"

子供のころ母親に聞いた言葉が、鮮明によみがえる。

「あなたは……」
驚きを隠せないボク。
その表情を楽しむように、柔和な笑みが黙ってうなづく。

逓信省を退職し郵便局を営んでいた祖父。
昭和20年5月29日。横浜を襲った空襲。
「現金輸送車が来るから」と、局から逃げることなく爆撃を受け、祖父は人生の幕を閉じた。

年下のおじいちゃん。
不思議な感覚がボクを包み込む。
おじいちゃんは、いつまでもおじいちゃん。
祖父の前では、ボクは教えを請う幼児のようだ。

「ねえ、おじいちゃん」
「なんだね、Omunao」
凛とした、人生をさとったような目がボクを受け入れる。

「未来ってなんだろうね」
ボクの言葉に、顎をひき、目をつぶって腕組みをする祖父。
「夢って、希望って、愛ってなんだろう」
矢継ぎ早に質問を浴びせるボク。

「そうだなあ。今日と同じように明日が来るってことかな……」

今日と同じ。
明日が、来る。

赤紙。召集令状。
欲しがりません勝つまでは。
贅沢は敵だ。

「未来」など描けない時代。
明日あるかわからぬ命。「夢」を封印しその日を生き抜く。
冷徹に「希望」を踏みつぶす「絶望」。

「妻も子供も戦争で死ななかったことが何より嬉しい」
天井の方に目をやりながら祖父が言う。

幸い、祖父の妻と子供たち、つまりボクの祖母と母親及びその兄弟姉妹は、みな生き延びることができた。

だから、ボクが、今、ここにいる。

「それが当たり前だと思っているけど、明日が来るって素敵なことだね」
そう言うボクの方を見る祖父の眼鏡が、大きくうなづく。

「私は未来を子供たちに託した。その子供たちが納得の行く人生を送ってくれるのが私の夢であり希望となったのだけれど、こうしてOmunaoに会えてとても嬉しく思うよ」
「こうやって会えたのは、おじいちゃんの愛が深いからかな?」
「愛は"思い"だ。Omunaoの"思い"が私を呼び出し、私の"思い"がOmunaoに会わせてくれた」

ふたつの笑顔が、仲良く、車内に並ぶ。

「Omunaoも納得の行く人生を送るんだぞ。仕事も忙しそうだけど、ガンバレよ」
「よく知ってるねえ」
「何でも知っているさ。ハハハ」
「飲みながらいろいろと話したい気分だよ」

初対面の、気心の知れた会話が進む。

150803aichi2.png


やがて、間もなく新横浜に到着との車内アナウンスが流れる。

「じゃあOmunao、元気でな」
祖父が握手を求める手を差し出す。
「ありがとう、おじいちゃん。また会えるかなあ?」
そう言いながらボクは差し出された手を握る。

「いや。もう会うことはないだろう」
祖父の手に力が入る。
力強いぬくもりが、ボクの中に溶け込む。

「さあ、愛を知る県から帰って新横浜で降りたなら、人生の"のぞみ号"に乗り換えて未来に向かっていきなさい」
「うん!」
「では、さよなら」
「さよなら、おじいちゃん」

新横浜駅のホームが視界に入る。
同時に、祖父の姿が視界から消える。

降車の準備を整えたボクは乗車口のデッキに立つ。

未来に向かって行きなさい。
未来に向かって生きなさい。

祖父の言葉がリフレインする。

未来

希望
そして、愛

愛を知る県を訪れ、愛に触れ、愛を知った。
それは、ボクの人生における、素敵なひとコマ。


おわり


**************************************


おまけ

アイオシルケン           

150803aichi1.png
写真:netkeiba.comより

【プロフィール】
父 : ヴリル
性別 : 牡
馬主 : 石川美代子
母 : メモリージュエル
馬齢 : 3歳
調教師 : 西橋豊治(栗東)
母の父 : アーミジャー
生年月日 : 2012年4月13日
生産牧場 : 原フアーム
母の母 : バラワキ
毛色 : 黒鹿毛
産地 : 新ひだか町
戦績 : 14戦1勝
馬名意味 : 愛を知る県より

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コメント
アイオシルケンと言う馬がいるのですね(*^_^*)
頑張って勝って欲しいですね。
オムさんのおじいちゃんどんな方でしょうね。
愛から神ですね。
神奈川の神って素敵ですね。
Miyudot 2015.08.03 22:15 | 編集
Miyuさん、こんにちは!

> アイオシルケンと言う馬がいるのですね(*^_^*)

中京でマツリダアンバターといっしょに走ってくれないですかね。。
そうしたら「買い」です笑

> 愛から神ですね。

のぞみに乗り、愛を知り、神と出会う
う~ん、素敵ですね!
神奈川も面白いところがいろいろとあるので、機会がありましたらぜひお立ち寄りください!!


Omunaodot 2015.08.04 06:20 | 編集
鍵コメさん、こんにちは!
過去記事をさかのぼってまで読んでいただき、ありがとうございます♪
とても嬉しいです!

楽しい休日を過ごせましたか???
湘南方面のおいしいお店をお探しの場合はお気軽にお声がけを。。
おまかせください!!

Omunaodot 2016.03.06 20:28 | 編集
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