2015
09.23

【再掲載】 ふたりテッちゃん その7 ( 最終回 )

Category: ストーリー
9月27日、金曜日。午前6時30分。
高層ホテルの窓の向こうには、白い雲を従えた青空がどこまでも広がっている。
さて、出発しよっと!
仙台駅を7時1分発の電車に乗る。そうすれば、昨晩テツオと決めた目的の駅には11時3分に着く。

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あと、4時間半。
テツオさんは、私の事をどう思ってるんだろう。
会ったこともないし、声を聞いたこともない。でも、私の中で勝手にテツオさんの声を決めつけている。
早くその瞬間(とき)が来てほしいけど、来てほしくない。
会えるのは素直にうれしい。だけど、ちょっと、コワい。
何だろう、この気持ち……。
救いの手?
それとも……。
テツコの中で、過去の記憶がよみがえる。
消そうと思えば思うほど、しつこくつきまとう、忌まわしい記憶。
誰か、私を、助けて……。

テツコが鉄道に興味を持つようになったのには、あるが発端があった。
「あんな男とは別れちゃいなよ!」
同僚の前川つばさと夕食に行ったテツコ。つばさの話を聞き、怒りがおさまらない。
「でも……」
「ねえ、つばさ。いくらなんでもあなた人が良すぎるわ。前に貸した300万だって返ってこないんでしょ!私の友達をだますなんて、つばさがゆるしても私が許さない。あの人は私から見たら最低よ。ねえ、わかる、つばさ。目を覚まして!」
テツコが社会人になって、初めて気心が知れた友人。
社会人特有の損得の人間関係がはびこる中、親友とまではいかないまでも、つばさとは心底気が合うと信じていた。

翌日。
この日は客先に直行し午後に社に戻ったのだが、なぜかお茶室でのみんなの視線が冷たい。
「お疲れ様です!」
いつもなら元気よく返ってくるはずの返事が、ない。
最初は意に介さなかったテツコだが、つばさにまで無視されたときはさすがに血の気がひいた。
どうして?
そんなテツコに、隣の席の先輩女性社員が声をかける。
「あなた、随分とひどいことをするのね」
「え?」
「前川さん、あなたに傷つけられたって。平気で私や私の彼氏の悪口を言って、あんな冷徹なひどい人だとは思わなかったって。」
「……」
「それに、あなた随分と男遊びをしていて、カッコいい男には目がないんだって。だから、前川さんの彼氏も横取りしたいからわざと悪口を言って別れさせようって」

目の前の景色がゆがんでいく。
時計の音が、カチ、カチと、耳に響く。
いや、これは時計の音じゃない。抑えきれない胸の鼓動だ。
ど、どうして。どうしてそうなるの……。
友人としてよかれと思って、救わなきゃと思って、思い切って話をしたのに。
何で私に相談したの?
だったら、「がんばんなよ、彼を信じてさ」なんて、そんなウソをつけばよかったの。

職場の「裏」の連絡網の力には計り知れないものがある。噂は加速度的に広まっていく。
一度広まると、もう、どうしようもない。
男性社員の目も、けがらわしいものを見るように、心なしか冷ややかだ。
日に日に自分の居場所がなくなっていく。
私は誰?
何を信じていけばいいの?
誰を信じればいいの?
どこかへ行きたい。
ここではない、どこかへ……。

会社帰りのひとりぼっちの電車の中、妄想が身をつつむ。

 ♪線路は続くよ どこまでも
  野を越え 山越え 谷越えて

このまま乗ってたら、どこまででも行かれるのかなあ……。
楽しいところに行かれるのかなあ……。

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6時57分。
お互いに7時前後の電車に乗ったら丁度いいね。
テツオは昨晩自分がテツコに伝えた言葉に忠実に、通勤ラッシュの東海道線に乗り込んだ。
今まで経験したことのないような都会の電車の混雑。
まあ、東京までは我慢だな。

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もうすぐ会える、か。
心の中で、ふとつぶやく。
満員電車の車窓に、テツオの思いを乗せた景色が流れて行く。と同時に、テツコへの思いが秋色の座席に腰かける。

なんという偶然なんだろう。
テツコ。
2ヶ月前、鉄道ファンサイトで見つけたその名前。
北海道の稚内に住んでいるという。
住んでいる所にあまり電車はないし、線名などはよくわからないけど、乗るのが大好きな「乗り鉄」だという。
明るいのが取り柄という。
テツコさん、何か同じにおいがする。
本当に鉄道が好きなのかな?
何となく、現実から逃げているような、そんな気がして仕方がない。
テツコとのいろいろなやりとりの中でテツオの直観がそう反応していた。
テツコさんに会ったら、ちゃんと聞いてみよう。
嫌われてもいい。本音で話をしよう。
大丈夫、嫌われることはないさ。
だって、現実の世界でもで経験したことのない「運命的な出会い」をボクのこころが感じているのだから。
ボクのこともきちんと話をしよう。
テツコさん、実は、テツコさんっていう名前、ボクの死んだお姉ちゃんと同じ名前なんだ。
ボクが生まれる前に死んじゃった。
ボクの名前は両親がつけたんじゃなくて、父親の会社の人がつけたんだって。お姉ちゃんのことを知らない人が。
両親はびっくりして、すぐにテツオに決めたんだって。
ときどき、ボクはお姉ちゃんの分まで生きているのかなあなんて思う。
今では二言目に、後継ぎとして足りないとか、お姉ちゃんが生きていたらどうのとかって言われるけどね。

ねえ、テツコさん。
実は、テツコさんはそんなに鉄道に詳しくないだろうって思って、二人が会う駅はちょっと意図的に決めたんだ。
知ってる? 二人が会う駅のこと。
黒磯駅。
ここから南は直流の電車。北は交流の電車。電気が変わるんだ。
電気機関車もこの駅で入れ替えをするんだよ。
お互い別々の人生を歩んできて、知り合って間もないし会ったこともないのに、なぜかすごい親近感がわいて。
何だか他人には思えないんだあ。
きっと、お互いに何かを抱えていて、でも、そんなことも笑いながら話せるような気がして。
だから、もしテツコさんに何か現実逃避したいようなことがあったとしたら、人生の見方を変えて、一緒にマイナスをプラスに変えれたらいいなあって思う。
直流を交流に、交流を直流に変えるように。黒磯駅で、ボクがその切替スイッチを押せたらいいなって思う。
そして、情けないけど、ボクが自分ひとりではなかなか推せないでいるボクの切り替えスイッチを、一緒に押してもらいたい……。

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10時55分。
黒磯駅の東側にある変電所上空では、気持ちよさそうに秋風を浴びたトンビが悠然と旋回している。
「ビシュ!」
交直切り替え区間を通過する電車のパンタグラフから、火花がスパークする。

11時。
各々を乗せた車内に、間もなく黒磯到着のアナウンスが流れる。

11時3分。
テツコの視線が、ゆっくりと滑り込むホームに注がれる。

2分前に到着したはずのテツオの姿は……。

最北端と最南端から来たふたりのテッちゃん。
今、その人生が出会い、通電し、重なろうとしている。


おわり

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