2016
02.16

夕焼けとオムライス プロローグ

Category: その他
月が輝きを増す頃、沈み行く太陽が今日の日にさよならを告げる。

一面に広がるオレンジがボクに語りかける。
「今日も一日ご苦労さん」

「ありがとう」
夕陽を浴びたボクは、心の中でそうつぶやき、家路を急ぐ。

さあ、帰ったら部屋を暖めて、バーボンを片手に好きな音楽に耳を傾けよう。
昼と夜の間の何気ないひととき。
でもそれは、素敵な瞬間(とき)。

夕焼けのオレンジ。
オムライスのオレンジ。
なんだか、とても似ているような気がする……。

********************************

ということで、これからちょっと「夕焼けとオムライス」に関するこころの旅に出てみようと思う(話があちこち飛ぶかもしれないけど)。
先ずはそのプロローグ。

かつて、自分の中で勝手に「夕焼けソング」と分類していた曲がある。
夕焼けを見た時に覚えるなんとも言えない切ない気持ちと癒され感。
そんな思いを与えてくれる曲。
それを勝手にそう呼んでいた。

では、今日は、以前掲載したストーリーと、ボクの中の代表的な「夕焼けソング」3曲を。


月とニューヨーク・シティの間


 西の空から来た真っ黒い雨雲に覆われた7月の街は、突然の豪雨に見舞われた。

「いやあ、まいった」
 雨に濡れた髪をかき上げながら、シュウは店に飛び込んだ。

「おー、シュウ。傘、持ってなかったのか?」
 マスターの黒縁眼鏡が呆れ顔で言う。

「うん、天気予報では降るなんて一言も言ってなかったからさあ……」
「ほら」
 カウンターの奥から取り出したバスタオルを、マスターはシュウに投げ渡した。

「ありがとう!用意がいいねえ」
「ああ、お前みたいな客がよく来るんでね」
「それはマヌケな客、ってこと?」
「いや、疑うことを知らない正直野郎ってこと」
「どうせバカがつく正直者だよ、オレは」
「ハハハ、何言ってんだよ。いい意味で言ってるんだぜ、素直ないい奴だって。まあ、ただ、思い込んだら人の言うことを聞かない頑固な一直線野郎でもあるけどな。ビールでいいのか?」
「うん、先ずはね」

 よく冷えたハイネケンがグラスに注がれ、シュウの前に差し出される。
 礼を言うとシュウは、マスターとの会話を楽しみながら立て続けに3杯ほど飲み干した。
 
 窓の外では、横殴りの雨が夏の夕方を飲み込んでいる。
 盃を重ねるごとに、うなりをあげる豪雨が、シュウの心にも突き刺さる。
 
 頬杖をつき、ぼんやりと雨に目をやる。

 あー、何もかも流れ去ってしまえばいいのに……。

 溜息のシャボン玉が、ゆらゆらと飛んで行く。

 マスターの眼鏡が、溜息をやさしくキャッチする。  

 やがて店内に、静かに、曲が流れ始めた。


  ARTHUR’S THEME (BEST THAT YOU CAN DO)  

  Once in your life you will find her
  someone that turns your heart around
  And next thing you know
  You’re closing down the town
  Wake up and it’s still with you
  Even though you left her way cross town
  Wonderin’ to yourself
  Hey what have I found

  When you get caught
  Between the moon and New York City
  I know it’s crazy but it’s true
  If you get caught
  Between the moon and New York City
  The best that you can do
  The best that you can do
  Is fall in love


  ニューヨーク・シティ・セレナーデ

  人生に一度だけ、理想の彼女に出逢うもの
  そう、君の心をときめかせる誰かに……
  するととたんに君は
  何も手につかなくなってしまうのさ
  目覚めてもまだそのときめきが続いている
  そう、彼女を街のずっと向こうに置いてきたとしても
  そして自分自身に問いかけるのさ
  一体僕は何を見つけてしまったんだ……とね

  月とニューヨーク・シティの間に
  はさまって捕まったら
  そう、ちょっとクレイジーだけど、本当なんだ
  そう、月とニューヨーク・シティの間に
  はさまって捕まったら   
  一番いいのは
  君にできる最善のことは
  恋に落ちることさ


「シュウ」
 頬杖を濡らすシュウに、マスターが微笑みかける。

「ちょうど1年前だよな。彼女とこの曲を聞きながら乾杯したのは」

 1年前……。

 そうさ、オレは恋に落ちた!最高の恋に!
 うん、夢じゃあない!

 一筋の思い出が、そっと、シュウの頬を伝う。

 「なあ、シュウ。もう意地をはるなよ。自分の気持ちにうそをついて生きてたって、お前はお前と別れることはできないんだから」

 君にできる最善のことは
 恋に落ちることさ

 マスターが、シュウのお気に入りのトムコリンズをカウンターに置く。 
 
 「さあ、これを飲んだら行ってやれよ、たった一人に宛てた招待状をもらったんだから」
   
 カウンターが8席ほどの、小さな店の景色が歪む。
 
 「素直な一直線野郎。それがお前だろ。それと、勇気がいるけど、ごめんなさいが言えるっていうのは大切なことだ。さあ、これを持って」
 そう言うとマスターは、できたてのオムライスを入れた包みをシュウに渡した。
「ケチャップ入れとくから、お前の素直な気持ちをオムライスにかいて渡しな」

 そうだよな。今日だめなら、もう、一生だめだよな……。
 オレはオレと別れることはできない。

 それよりも、今でもオレは、彼女(あいつ)を……。

 人生に一度だけ、理想の彼女に出逢うもの
 そう、君の心をときめかせる誰かに…… 

 ちゃんとごめんなさいを言わなきゃ。  

 さあ、勇気を出して、オレ。

 シュウは包みを受け取ると、黙って頷いた。

「じゃあ、シュウ。今度はふたりで」
「ありがとう、マスター」

 夕闇迫る街を覆っていた雨雲は、いつしか彼方に去っていた。

「雨、やんだね」
「ああ、いい流れだろ、シュウ」 
「うん。ありがとう」

 そう言うとシュウは、親指を立て、街路樹の向こうへとゆっくりと歩きはじめた。

 その後姿を、マスターの目が追う。

 1時間ほど前に「ちゃんとごめんなさいを言いたい」と相談に来た彼女とした打ち合わせのことは、シュウには黙っておこう。それと、彼女に、シュウに渡したのと同じオムライスを渡したことも。
 さあ、シュウ、お前がふたりの雨雲を吹き飛ばすんだ。女の子を泣かせちゃあいけない。女の子を守る、それが男の子の役目だろ。

 街灯りにキラリと光る黒縁眼鏡が、ニヤリと笑った。


● ARTHUR’S THEME (BEST THAT YOU CAN DO) Christopher Cross




● Hard To Say I'm Sorry  Chicago




● Can't Fight This Feeling  REO Speedwagon



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