2016
05.07

オリエンタルキッチン セントレア店

20世紀少年の心をわしづかみ

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名古屋から名鉄の空港特急「ミュースカイ」に乗り中部国際空港へと向かう。
中部国際空港は通称「セトレア」と呼ばれているが、これは「中部」を表す "Central" と「空港」を表す "Airport" を併せた造語。
"Centr + air" = "Centrair(セントレア)"。

名古屋からの所用時間は約30分。
電車は「到着ロビー」のある2階に着き、そこから3階の出発ロビーを経て4階に出る。

ここには「ちょうちん横丁」と呼ばれるショッピング&飲食街がある。
さすがにゴルデンウィーク。飛行機の搭乗者だけではなく、観光でここに来た多くの人で賑わっている。

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そんな中、お目当ての店へと足を運ぶ。

目的の店とは、オリエンタルキッチン セントレア店

先日、池袋西武でオリエンタルカレー&ハヤシを購入したときに株式会社オリエンタルが愛知の会社であることを再認識し、同社の公式サイトを見ていてこの店の存在を知った。

ならば、太陽ケチャップ訪問とともに、ここで食することを目的にせねば……。

ということで入店。
10人程度しか入れない小さな店だが、運よく待たずに座れた。

さて、何にしようか???

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頭の中で「ハヤシもあるでよ!」がリフレインする。
いや、「ハヤシも」ということは、「メインはカレー」だ!
よし!

「元気卵のデミオムハヤシ」にもひかれたが、ここは意を決して「元気卵のオムカレー」を注文。
辛さは「ノーマル」か「スパイシー」を選択できるのだが、辛いもの好きなので後者に決定!

ほどなくして「元気卵のオムカレー」が到着した。

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なるほど、やはりカレーの店。
全面的にカレーが押し出されている。
なので「玉子はカレーの脇役」っぽく、オムカレーというより「玉子入りカレー」という感じがする。

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ほら、カレーライスのよう。

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では、いっただきま~す!

うん、なんだかシンプルで懐かしい味。
それに、なんだかとっても郷土愛を感じる。
なぜならば、この店では地産地消をモットーに、「あいち知多牛」や「知多豚」、知多産の卵、それに幻の米ともいわれる奥三河地方の「ミネアサヒ」を使っているから。
これも素晴らしいことだ。

ひと口食べたところで、目の前にあるチャツネが気になった。
チャツネとは、野菜や果物に香辛料を加え、煮込んだり漬けたりして作るインド料理には欠かせない調味料。
スパイシーチャツネとフルーティーチャツネの2種類が置いてある。
説明を読んでみると……。

スパイシーチャツネ。
トウガラシをベースにした辛口チャツネ。今、注目のカプサイシンが新陳代謝を高めます。
辛さを求める刺激党に超おすすめ!

フルーティーチャツネ。
マンゴを主原料にリンゴ、レーズン、香辛料をブレンドし、甘酸っぱく仕上げました。
フルーティーな風味が、カレーソースの口あたりをまろやかにします。

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このうちのフルーティーチャツネが妙にしっくりきたんだけど、後によくよく考えてみたら、「オリエンタルマースカレー」の「マース」だと気がついた。

マースカレーのマース(MARS)は、MANGO(マンゴ)・APPLE(リンゴ)・RAISIN(レーズン)・SPICE(スパイス)の頭文字を組み合わせてできた造語で、とてもマイルドかつスパイシーな味わいになる。

壁にはオリエンタルカレー誕生の物語が貼られている。

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ここでちょっと、オリエンタルカレーの歴史を振り返ってみよう。

1945年(昭和20年)に名古屋市中村区椿町で、創始者の星野益一郎氏が個人創業。
当時、カレーが家庭料理に普及しつつある事に着目し、星野氏は「炒めた小麦粉にカレー粉を混ぜる手間を省き調理を簡単にすれば売れる」と考え、事前に炒めた小麦粉とカレー粉を混ぜた粉末状のインスタントカレーであるオリエンタル即席カレーを完成させた。
この頃は奥さんと2人でオリエンタル即席カレーをリヤカーに積み、チンドン屋先導で販売。
5皿分1個35円と高価(あんパンが、1個5円の時代)ながらも飛ぶように売れたそうだ。

その後、1953年(昭和28年)に「株式会社オリエンタル」へと法人化し、踊りや大道芸など様々な芸人を正社員として雇って宣伝カーに乗せて興行とカレーの試食会を兼ねた全国巡業を実施。
併せて、テレビやラジオの提供やCMソングなどの広告宣伝でも知名度を上げていった。

1960年代に入り、利便性を追求しカレーの固形化が各社で試みられた結果、固形ルゥが主流と成った。
当時、カレーの固形化は健康上に問題ありとされたこともありオリエンタルは一貫して固形化を行わなかったのだが、これにより苦戦を強いられ、1970年代~1990年代には地元東海エリアを除いて縮小を余儀なくされた。

う~む。
人々の健康を留意した結果の苦戦かあ……。
何だか感慨深い。


美味しくいただき、空港内を散策。

まさに五月晴れ。
遠くに広がる海と青い空。
清々しい風が、広々とした滑走路を渡る。

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一日中ここにいても飽きないだろうなあ……。
そんなことを思いながら、ぼーっと、飛び立つ飛行機を眺める。

1階のセンターピアガーデンは静かで落ち着ける雰囲気。

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また、4階には展望風呂「風(フー)の湯」もある。
ホント、単なる飛行場ではなく、一日遊べる楽しい空間だ。

ゴールデンウィークを満喫。
ゆっくりとした、楽しい時間が過ぎて行く……。

時間よ止まれ。

そんなふうに思ってしまう、充実した休日の昼下がり。
「生命(いのち)のめまい」はしないけどね……。



セントレアに吹く風

 午前7時。ぎっしりと荷物の詰まったスーツケースをぐいっと持ち上げると、芳川誠は、まだ人影もまばらなセントレア空港のエスカレーターを駆け上がった。
 2Fから3F、そして4Fへと上がり、ちょうちん横町を抜けほどなくして視界に入ったスカイデッキの入口から屋外へと出る。
 瞬間、差し込んだ5月の眩い陽光が誠を包み込む。同時に、透明な風が悪戯っぽく頬をかすめて行く。
“ やあ、今日は君の門出の日だろ。雨は降らせないぜ”
 ウインクをしながら上空に舞い上がるやんちゃな風の行方を追う。
 視線の行き着いた先では、真っ青な空と手を組んだ太陽が、辺り一面の雲を蹴散らしながら微笑んでいる。
“ ありがとう ”
 心の中でそうつぶやくと、誠は、うっすらと浮かんだ額の汗をぬぐい海の方へと目をやった。
 水平線の彼方で、空と海が無邪気に戯れる。
 国際線の始発便まであと15分。
 スカイデッキの先端で腰を落ち着け、足を投げ出す。
 彼女を見送った、あの日と同じ空。
 彼女と誓い合った、あの日と同じ海
 空の向こうに、2年前の彩乃の笑顔が浮かぶ。

   ◆

「ねえヨッシー、私ね、ベトナムに行くことに決めたんだ」
「べ、ベトナム?」
 名古屋にある日本語学校の講師を務める誠に、職場の同期の渡辺彩乃がそう告げたのは、中部地方に大寒波が押し寄せた年末の日のことだった。
「そう、べトナム」
 動揺を隠せない誠をよそに、落ち着き払った彩乃の大きな目がうなずく。
「こんな朝っぱらから誰もいないセントレアに呼び出して、何事かと思えば」
 かじかむ手に息を吹きかけながら誠が言う。
「しかも、めちゃくちゃ寒いし」
「ごめんなさい。でも、私たち唯一の同期でしょ。だからヨッシーにはちゃんと伝えたくて」
「よりによって、わざわざこんなところまで来なく……」
 そう言いかけた誠の目に、どことなく切なげな目が映り込む。
「あ、ごめん」
「何で謝るの?」
「いや、なんとなく」

   ◆

 午前7時15分。静けさを切り裂くジェットエンジンが唸りを上る。

“ で、なんでベトナムに?”
“ 私の日本語、すごく綺麗なんだって!”
“ はあ? ”
“ ベトナム出身のクオン君が言ってた ”
“ それでベトナム? ”
“ うん、それでベトナム ”
“ 意味がわからない ”
“ いいよ、別にわからなくても ”

 エアバスA320が轟音と共に滑走路を離れ、大空へと舞い上がる。

“ 年が明けたら準備を始めて、5月には行こうと思ってる ”
“ …… ”
“ どうしたの? ”
“ いや、別に ”
“ ねえ、ヨッシー。今まで聞いたことがなかったけど、ヨッシーは何で日本語学校の講師になろうと思ったの? ”
“ 何でって、そうだなあ、特に理由はないけど。会社員には向かないからかな ”
“ ふーん。そうなんだ。私はね…… ”

 始発便の離陸を見届けた誠は、スカイデッキに大の字になった。
 どこまでも続く、果てしない青空。

“ 私が日本語学校の講師になったのは、日本人を信用できなくなっちゃったからなんだ。ねえ、私の日本語ってどう思う? ”
“ 渡辺の日本語はクオンが言う通り綺麗だし、声もアナウンサーみたいに通るから、いつも羨ましいって思ってるよ ”
“ありがとう。だって。だって、わたし、がんばったもん…… ”
“ え? ”

 瞼の向こうで青空に映る彩乃の横顔。
 悲し気な目を隠すように、長い黒髪が風に舞う。

   ◆

 午前7時45分。ジェットエンジンをマックスパワーにした二番機が、滑走路から大空へと羽ばたいて行く。

“この前、生徒さんにこんなこと聞かれたの。「私はあなたが好きです」と「私はあなたを好きです」と「私はあなたのことが好きです」では、どれが正しい言い方ですかって。ヨッシーだったらどう答える? “
“ そうだなあ。「あなた」を強調したいなら「あなたが」で、「あなた」と「好きです」を同格で表現したいなら「あなたを」だし、ちょっと婉曲的に言うなら「あなたのことが」かな”
“ ふふふ”
“ おかしい? ”
“ ヨッシーらしいわ ”
“ そうかなあ ”
“ まったくもって、ヨッシーはヨッシーだ ”
“ 渡辺は何て答えたんだよ”
“ 渡辺か……。渡辺って名字の子はねえ、だいたいは渡辺じゃなくて、ナベとかナベさんとかナベちゃんとか呼ばれるものよ ”
“ 突然そんなこと言われても、会ったその日から芳川だからヨッシーだとか、ボクは渡辺とは性格が違うから ”
“ 性格ねえ……。そうなのかなあ…… ”

 「VN347便ハノイ行き」の出発時間である10時30分まで、あと2時間半とちょっと。チェックインの前に、彼女と行ったオリエンタルキッチンで朝食を食べよう。
 誠はスカイデッキに別れを告げ、フロアへと足を運んだ。

“ 私、本気で好きになった人に方言をバカにされて引きこもりになったの。ひとりが嫌で寂しいくせに誰とも話したくなくて。誰もいない始発前の駅や空港に来るのが好きなのは、もしかしたらそのせいかもしれない。でもね、このままじゃいけないって、ガンバって標準語を勉強して、日本語学校の先生になった。だけど気がついたんだ。本当の私って何だろうって。方言の何が悪いのって。私は私。たとえばペン字を習って教科書のような綺麗な字を書けるようになっても、それが何なのって思う。言葉も同じ。形だけ綺麗な日本語を使えるようになっても、私が持って生まれたものを消して都合よく生きているだけじゃないかって。そう考えたら、何だか気が楽になって、今度は、せっかくだから日本語の良さを、日本語を知りたいって思ってる人たちに伝えたいなあって思うようになったの。でね、わかる。そう思わせてくれたのって、ヨッシーなんだよ ”
   
   ◆

 ちょうちん横丁へと戻った誠は、この日の営業をスタートしたばかりのオリエンタルキッチンのカウンターに座ると、あの日と同じメニューを注文した。
「すみません、オムカレーをください」

“ ヨッシーさあ、入って間もない頃、停留所でバスを待ってた時に、行き先のバス停の名前を忘れちゃってどこ行きのバスに乗ったらいいのかわからなくなっちゃった子を一所懸命助けてあげてたでしょ。『そこの周りに何があるかわかる?』とか、『どんな景色かなあ?』とか。普段はクールに『私は他人(ひと)と自分との距離をとるタイプなので、講師のみなさまとはビジネスライクにお付き合いしたと考えています』なんて言ってるのに、『大丈夫、落ち行くんだよ』って、笑顔で子供の頭をなでであげて。最後は、バス停の名前を思い出した子と一緒になって喜んであげて。この人、どういう人なんだろう。本当に大切なことって何なんだろうって思った ”

「お待たせいたしました」
 誠の目の前に、ほかほかのオムカレーが置かれた。

“ 寒い中、早朝からセントレアに呼び出しちゃってごめんね。残念!時間が早すぎてオリエンタルキッチンはまだやっていないんだね。私、オムライスが大好きなの。美味しいし、それに、なんかあたたかくて。ベトナムでオムライスを広めちゃおうかな。そうだ!5月の出発の日にはまたここに見送りに来てほしいな。私がおごるから、そのときに食べよ!私はオムデミハヤシにする。ヨッシーは? ”

「あ、すみません」
 店員に声をかけると、誠は、笑顔で追加をオーダした。
「あと、オムデミハヤシをひとつ」

  ◆

 本当に大切なこと。
 本当に大切な人。

 自分。
 他人。
 人、ヒト、ひと。

 渡辺
 渡辺さん
 ナベ
 ナベさん
 ナベちゃん

 彩ちゃん
 彩乃

 君が旅立ってから2年。 
 子供の頃、「誠君は他人の気持ちが分からずに傷つけてしまう発達障害の可能性があります」と言われた自分。
 だからなのか人づきあいがうまくいかず、ビジネスライクになんてカッコいいことを言って、本当は傷つくのが恐いだけの自分。
 最初は「遠慮なしにずけずけと入ってくる苦手なタイプ」って思ったけど、君はそんなボクのことをよく見て、本当はすごい勇気を出してボクに心を開いてくれて、ボクの心のバリアを綺麗な日本語で、いや、心のこもった言の葉で破ってくれた。
 君に教えられたから、君に再会しても恥ずかしくないようにって思えたから、ボクはがんばれた。 
 だから、今なら言える。
 君と同じ空の下、同じ地で、同じ日本語を世界に伝える講師として、共に手を取り合い、そして……。

「ごちそうさま」
 オムカレーとオムデミハヤシを完食した誠の前に、オリエンタル坊やのスプーンがふたつ、仲良く並ぶ。
 彼女の顔を見たら何て言おうかな。いきなり「やあ、彩乃」なんて言ったらひっぱたかれるかな。

 店を出て重い荷物を手にチェックインカウンターへと向かう誠の前に、スカイデッキで会った風が舞い降りる。
“ 行ってらっしゃい! ハノイの友達に、君と彼女の再会を祝福するようにと伝えておいたから ”
 そう言うと、風は、再び大空へと駆け上がって行く。

“ ありがとう。今日、セントレア(ここ)に吹いた風を、ボクはお土産に彼女に届けるよ。君が旅立った日と同じ風だよって ”

 セントレアからハノイまでのフライト時間は約5時間。
 その距離約3,600キロ。
 そして、こころの距離は……。

 天の高いところまで昇った風が、太陽の横で、ニコッと笑った。

 おわり

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コメント
おはようございます
オムカレー美味しそうですね。

※修正しました。失礼しました。
ネリムdot 2016.05.08 09:28 | 編集
ネリムさん、こんにちは!

はい!
美味しかったです!!
(小声で、エート、オムカレーデスヨ~)

いろいろと調べたりしながら食べると、思い入れが強くなって、また一段とおいしく感じます。。
機会がありましたら、是非に!
Omunaodot 2016.05.08 21:18 | 編集
こんにちは。
うぷぷぷぷ『全面的にカレーが押し出されている』って控えめな表現に、Omunaoさんのガッカリ感が良く現れてますわ。
メニューの写真で見た限りでは、黄色いオムレツがちゃんと覗いてるのに、実際の物は完全にカレーに溺れて、いや沈められてますものね。
Omunaoさんにしてみれば、卵(と一緒に自分もかな?)が窒息しそうな気になっちゃったんじゃありません?
ケフコタカハシdot 2016.05.08 23:00 | 編集
ケフコタカハシさん、こんにちは!

あ、バレました???
そうなんですよ。。
オムライスにカレーがかかっているのではなくて、カレーライスに玉子が入ってるカンジなんです
沈められた玉子が不憫で不憫で・・・笑
でも、そういう食べ物だと思って食べたので美味しかったですよ!
マースも実感できましたし♪


Omunaodot 2016.05.09 05:35 | 編集
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